《はんぶんこ》怜×サク「さむい」
登校中、怜くんが一言こぼした。確かに秋口で気温は上がりきらず、肌を撫でる風は多少涼しい。しかし寒いと口にするほど寒くはない。
いつも僕の体調に気を使ってくれて、寒ければジャケットを貸してくれる。そんな彼が寒がるなんて、よっぽどのことなのではないだろうかと不安になる。
「怜くん、大丈夫?」
「寒いだけなんだよね。熱は無いよ」
「ううん……本当に風邪じゃないの……?」
一昨日、風邪をひいて寝込んでしまった時、怜くんが看病をしてくれた。おかげで僕は完治し、こうして元気登校している訳なんだが。
「ね、もしかして僕の風邪うつしちやった?」
「そんなはずは……」
体温が高くて悪寒が走っているだけなのではないかと心配になり、怜くんのおでこに手のひらを這わせる。怜くんが否定した通り、発熱している時の熱さでは無いが、じんわりと怜くんの体温を感じて、ひとまず安心した。
「ほんとに熱はなさそう」
「うん」
「なんでだろう……」
不安を胸に巡らせていると、隣にいたはずの怜くんがいつの間にか半歩下がった位置におり、僕のパーカーのフードを引っ張っていた。
「さむい……」
「えぇ……あー……。怜くん、ちょっとこっち来て」
僕は通学路の途中にある細い路地に、怜くんを連れ込んだ。あぁ、引いた手は少し冷たいかもしれない……。
連なった室外機をすり抜けると、表通りからは完全に死角になる。そこへ、怜くんを隠すように壁際へ優しく誘導した。
「えっ、なになに? どうしたの、サクくん……ッ!」
ぎゅう。
怜くんの身体を包み込むように、ゆっくりと背中に手を回す。怜くんの肩が少し跳ねた。
「怜くん、大丈夫? どうして寒いんだろうね?」
「わ、からない……けど……」
「僕、怜くんが体調悪くなったりするの嫌だよ」
「それは、おれも本意じゃないけど」
身体は密着させたままで、怜くんの手を取った。心なしか先程よりも暖かい気がする。何度も僕に触れてくれたその手。
その指先に絡めたり、包んでみたり、指の腹で撫でてみたり。
「サクくん……」
「うん?」
「そろそろ、いい……と、思うんだ、けど……」
「だーめ、もう少し。まだ僕より少し冷たいもの」
「ええっ」
僕が足りない時はキミが埋めてくれるけど、キミが足りない時は僕が埋めてあげたい。
体温も、嬉しいことも、楽しいことも、ぜんぶ。
はんぶんこ、しようね。