想いの形をした贈り物 「ふふっ、楽しいですね!黒雪」
花のような笑みを浮かべて槐は俺の手を握ったまま歩く。俺は引かれる手の感覚に喜びを感じながら隣に並んで歩く。
「修学旅行の自由時間、一緒に回れたらいいなと思ってはいましたが本当に回れるとは思わなくて楽しいです!」
「…俺も、楽しいよ」
月下兄や伽羅、猿之助は上の学園で霞は俺たちよりも下の年齢だから、俺と槐が同学年だから一緒に修学旅行に来ることが叶っていた。幸せで楽しい…だからこそ槐の気持ちが気掛かりで、自分に自信がない俺はネガティブなことを考えてしまう。
「…ごめんな」
「え?」
「だって俺は月下兄じゃないから…槐はみんなと一緒がいいんだもんな…」
だからーーと言葉を紡ごうとする俺の片手も包み込むように握る。
「槐…?」
額が重なる。優しげな槐の瞳がじっと俺だけを見つめている。
「黒雪が、いいんです」
「え?」
「確かにみんなと行くのも楽しいと思います。けれど私は…黒雪と二人で、黒雪と同い年で良かったとおもってます」
「…何で?」
「だって、黒雪と二人だとデートになるじゃないですか」
そう槐は笑う。まさか槐にそう思って貰えてるとは思わなかった俺は驚きのあまり声を失う。
「ねぇ、黒雪。黒雪は私と二人じゃ…嫌、ですか?」
「そんなことない!…俺も、お前とデートできてすごく…すごく、嬉しいんだ」
「ふふ、良かった。同じですね」
にこにこと俺と同じであることが嬉しいという槐をたまらなく抱きしめたくなる想いに駆られた。
「…黒雪、私はあなたといて嫌だったことなんて一度もないのですよ」
「え?」
「生前を含め…黒雪は私の手を取って連れ出してくれた。私の笑顔を取り戻して、私を笑わせてくれた。…辛いことから目を逸らすこともさせてくれた…それが罪なのかもしれないと分かってはいてもそれが…私に取っては嬉しくてたまらないことだったのです。黒雪が当時の私の生きるための標でした」
「っ、」
「生きる理由をくれて、ありがとう。黒雪」
もう限界だった。俺だって何度だってありがとうって言いたかった。昔も今も、お前の存在が俺を繋ぎ止めてるんだよ、って…そう伝えたいのに言葉は出ずに俺は槐の身体を抱きしめていた。
「槐っ…」
「どうしたのですか?黒雪…」
「ありがとう…なんか、すごく嬉しくて…なんて言ったらいいか分かんないや」
そんな俺の拙い言葉に槐は楽しそうに笑う。
そして暫くした後ゆっくり身体を離した俺はそのまま槐の手を握る。
「自由時間は限られてるんだから、ほら行こう!槐」
「ふふっ、はい!」
***
「何?気になるのでもあった?」
ぴたり、と足を止めた槐が気になって俺も足を止める。槐の視線の先は小物屋で槐の視線は和柄の布で作られたシュシュだった。
「へー、可愛い。槐きっと似合うよ」
「…そうですか?」
「うん、で…どれが一番気に入ったの?」
「これです」
そう言って槐が手に取ったのは黒い布に白いうさぎが描かれている。
「…槐が黒ってなんか意外かも」
「そうですか?」
「そうだよ」
「うーん…でも、これ黒雪っぽくないですか?」
「俺?」
「この漆黒は黒雪の髪みたいですし、うさぎもなんだか黒雪みたいで…ほら、黒雪の髪型ってロップイヤーみたいだなって」
「槐の中で俺ってうさぎなんだ?」
「もうっ…」
「あはは、ごめんごめん。」
唇を尖らせる槐に笑みを浮かべる。
「じゃあさ、俺がこれ槐にプレゼントするからさ…槐が俺にシュシュプレゼントし合おうよ」
「…素敵ですね、それ!お揃いのシュシュ…いい思い出になりそうです」
槐が笑ってくれたことにホッとしつつ俺は一つのシュシュを手にした。
「じゃ、俺はこれで」
浅葱色の布に桜が花吹雪のように舞っている柄のものでそれを見て嬉しそうに槐は笑う。
買った後、互いにシュシュを付け合ってそして手を繋ぎながら街を歩く。
「…なんだか、恥ずかしいですね?」
「そう?俺は嬉しいけど」
二人で贈りあった、今日のことをいつだって思い出すことのできる思い出の品。それがたまらなく嬉しく、これを月下兄たちが見たらどんな顔をするんだろう、そう思えるだけで楽しみで楽しくて笑えてきてしまう俺だった。
-了-