自分を大事に 「イーオン、ごめんね。せっかくの非番の日なのに手伝ってもらったりして」
「自分が好きでやってることだ、ティファリアが謝る必要はない」
「イーオン…」
イーオンの真っ直ぐな優しさに頷くとイーオンが作ったばかりの日替わりランチプレートをトレイに乗せホールへとティファリアは向かっていった。
「お待たせしました!注文の日替わりランチプレート、こちらがAセット。そしてそちらのお客様にはBセットでございます」
テーブルの上へと配膳されたプレートを見て、女性二人の客は顔を喜びの色に染める。美味しそう、写真撮ってもいいですか?の言葉に満面の笑みを浮かべティファリアは頷いた。
「ごゆっくり、お過ごしください」
そしてキッチンの方へと戻ろうとしたティファリアだったがカランと金属音がしたことにより条件反射のように振り向き、落ちた食器を拾い落とした客に謝った。相手は二人の男性客でありいつも決まってこの時間に来ては忙しい時間であることを理解してティファリアに構ってもらいにくる、迷惑な客であった。そしてそれをキッチンの方から見ていたイーオンはわなわなと肩を震わせた。
「ラディ、奴らはなんだ?」
「あー…あれはいつもこの時間にきてティファリアに構いにもらいにくる迷惑な客ってやつだ。最初の方は俺がいなしてたんだが、ティファリアが自分は大丈夫だからって聞かなくてだな…出禁にしてもいいと思うんだが…二人減ったところで大した損害でもないし」
はぁ〜、とラディがため息を吐きながら言ったところで「わかった」という一言だけを残しイーオンはホールの方へとずんずん歩いていく。
「あっ、おい!」
ラディの声も虚しく、届かず…。
「いつも悪いね、ティファリアちゃん」
「いえ、大丈夫で…」
「大丈夫じゃないだろう」
「イーオン!?」
怒気を隠しきれない表情のまま客を睨むイーオンを見てびくりとティファリアは驚く。
「あなたがこんな思いをしているなんて知らなかった…自分を殴りたいほどだ」
「イーオン…?」
「なぜ、このようなことをする?」
客に詰め寄るイーオン。客は悪びれることもせずに「ただ落としただけ」と言うばかり。
「…そんなに毎日落とすだろうか?」
ぎくりとした表情をする客二人。
「それに構ってほしいのであれば別の、【そういう店】に行ってはどうか?何故、ティファリアに固執する?それとも…そういった店で門前払いでもされたのか?」
そう詰められ客の一人は顔を赤くさせイーオンに掴み掛かるがイーオンによってすぐに取り押さえられてしまう。
「営業妨害に加え、暴力行為か…お前たちはこの店に出入り禁止にさせてもらう」
ええっ!と声を上げるが手早く誓約書を書かせこの一件は丸く収まったのだった。
「イーオン、そのありがと…」
「ティファリア。あなたは我慢しすぎだ」
「え!」
客が去り中へと戻ったあと、そうやってティファリアはイーオンに怒られてしまった。
「イーオン、怒ってる?」
「ああ、怒っているとも。あなたの優しさに胡座をかく連中に、それをこれまで知らなかった自分自身に。もう、大丈夫ではないのに大丈夫と言うのはやめてくれ。…もっと、自分を大事にしてくれ。あなたが傷ついて悲しむと自分が傷つくのを理解して、自分のために、ティファリア自身を大切にしてくれ」
泣きそうな顔をして言うイーオンを見てゆっくりと頷き、そして背伸びをしてイーオンの涙を拭った。
「わかった。イーオンのために私自身を大切にする。」
「そうしてくれ…」
弱々しく言うイーオンにティファリアは愛される喜びを噛み締め、笑うのだった。
-Fin-