甘え上手な彼 トキオが一人暮らしを始めてからというものの、ユウキはずぼらなトキオに変わり料理を作りにきたり、散らかされた部屋を片付けたりと恋人としての甘い時間というよりは母親や家政婦のようなことをして帰るということが日常になりつつあった。そんな時――、トキオはいつにもまして不機嫌だった。
「ねえ、それまだ終わらないの」
「えっ」
トキオが後ろからユウキを抱きしめる。洗い物をしていたユウキはそのまま固まったように動けなくなってしまう。
「と、トキオくん!?」
「ねえ、まだ終わらないの?」
「も、もう少しかなあ?」
「ふうん、そう」
そう言いながらもトキオは抱きしめたまま離れる様子がない。
「あ、あの…トキオくん」
「なに」
「もしかして…このまま?」
「……だめ?」
ユウキはトキオの「だめ」に弱かった。そんなことを言われれば「だめ」とは言えず仕方なく抱きしめられたまま洗い物を終わらせトキオの方へと向き直る。向き直ればすぐにトキオはユウキの唇を塞いだ。触れるだけの一瞬だけのものだったがそれだけでも初心なユウキは顔を真っ赤にさせる。
「ユウキってばいつも忙しそうなんだもん。…まあ、おれのせいなんだろうけどさ…でも、たまにはおれのこと構ってよ」
甘えるように言うトキオにきゅ~~ん、とユウキはときめいて止まらない。溜まらずトキオの手を握った。
「寂しい思いをさせてごめんね?」
「いいよ、だからユウキからキスして?」
ね?と言われればユウキは頷いて同じようにキスを返す。
「もっと」
そうせがまれ顔を赤くして返せば嬉しそうにトキオは笑った。かわいくて、かっこよくて、甘え上手なトキオにユウキはこれからも翻弄されそれに応えていくのだろう――、と予感めいたものを感じるユウキだった。
-Fin-