さなぎのつづき7翌日、目覚めはすこぶる良かった。ホテルの一室、広いベッドで、伸びをする。ここに柏木がいないことは少し寂しかったが、
『俺の女だ。』
咄嗟の嘘だったとしても、その言葉がとても嬉しかった。柏木が、あの夜のことを覚えてくれていたことが嬉しい。自らの手で葬った青年は、柏木の中で生きていた。一人静かに、あの人の心の中であの日の姿で守られていたのかもしれない。
(ほんまもんは、もう…。)
朝のぱっとしない老いた姿が映るたび、鏡をぶち割りたくなる。でも、今朝は今までの死にたくなるような憂鬱はなかったかのように、身体も軽い。この不穏な街の気配にすら、ウキウキしている自分がいる。現金なものだ。
この事件が無事終わったら引っ越ししようかな、とふと思い立った。身軽でいたいが、日常の澱のようにどうしても色々と生活品がたまってしまうのだ。あの部屋も憂鬱な原因だったのかもしれない、と思い、ホテルを数日連泊するよう手続きした。
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