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    マロリク「普段から女装趣味のある司くんと女装した司くんを見て(司くんだと気付かずに)一目惚れする類くんからはじまる類司」な作品冒頭となります。

    ※女装趣味ツ、女に惚れるル概念、なんか勝手に自分にキレてる面倒臭いツなどキャラ崩壊続々注意
    ※全編ギャグです。頭空っぽにして読んでください。
    ※ツが意地悪だしルが純情すぎて逆に可哀そう。
    ※概念的にはルツしかでないのでご安心ください。

    勝手に戦え!!「……好きな人が出来たんだ」

    類の言葉を聞いた瞬間、オレの握っていた緑茶の紙パックが爆発した。


    「どわぁ!?」
    「びっくりした……司くん、大丈夫かい?」

    物の見事に右手と袖を濡らしてくれた緑茶に、オレは情けない叫び声をあげる。
    「まだ残ってる緑茶の紙パックをあらん限りの力で握り潰す」というオレの奇行に対し、流石の類もこちらを気遣ってタオルを渡してくれた。オレは取り合えずそのタオルをおずおずと受け取り、申し訳なさに包まれながら濡れた手を拭くことにしたのである。

    いや、しかしだな……紙パックの爆発原因として、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がしたのだが……

    「類、すまないがもう一度言ってくれないか?爆発の衝撃で記憶が吹き飛んでしまった」
    「えぇ……僕の言葉は紙パックを爆発させるようなものだったかな?確かにいつもステージでは爆発させてるけど……あ、もし司くんがもっと爆発の演出に拘りたいのなら、今度試してみたいことが」
    「いや!すまない!やはり憶えていた!だから爆発ネタはこれ以上擦らなくていいぞ!!」

    オレを爆発させないためにも速攻で記憶を復活させれば、類の意識を爆発から現実へと無理やり引き戻す。

    ……あぁ、目を逸らすのはやめよう。

    類は――確かにオレに向かって、"あの言葉"を告げたのだ。

    「……意外だな。お前はショー馬鹿で変人だから、そういった人間らしい感情を持つと思えなかったのだが」
    「君結構酷いことを言うね?僕だってちゃんと血の通っている人間だよ。ロボットなんかじゃないんだ」
    「いや、そうだな……すまん、まだ混乱しているみたいだ」


    「類に……好きな人がいる、なんて聞いてな」


    動揺に呑まれる意識のまま、オレは類が告げた言葉を反芻した。
    対する類は、オレの言葉に何処か恥ずかしそうに顔を緩めつつ、手元の弁当箱をきゅっと握っていたか。

    ――"オレ"が今まで一度も見たことのない表情だった

    かれこれ数か月……フェニックスワンダーランドを救うため、皆を笑顔にするため、オレたちは共に走ってきた。
    最初こそガタガタだったものの、ワンダーランズ×ショウタイムの結束も今では確固たるものとなっている。ちょっとやそっとで崩れるものではない。
    そして、オレは皆を信頼している。寧々も、えむも……類だって、オレにとっては欠けさせたくない、大切な存在なのだ。

    ……だからこそ、"オレ"のいない所で類がオレの知らない感情を得たというのが――正直、信じられなかった。

    孤独だったアイツを救い上げ、その胸に"ショーを共に行う喜び"をもたらしたのはオレたちだ。"オレだけ"なんて驕ったことを言うつもりはないが、それでも……アイツの初めての感情を見れるのは、自分だけだと思っていたのに。

    「――良ければ聞かせてくれないか。類が……好きになった人のことを」

    そう告げるオレの心臓は、痛いほどバクバク鳴っている。
    それを必死に隠し、オレは笑顔の仮面を被って類に問いかけるのだ。

    類はオレの言葉を受けて、少し照れたように微笑んでみせる。
    ……それもオレの知らない顔であれば、持ち前の演技力で"動揺"を隠さないと、とてもじゃないが耐えられなかっただろう。

    「……そうだね。僕も初めての経験だったんだ。司くんは茶化すような人間じゃないと信じて、話させてもらうよ」

    類の信頼に何処か罪悪感を感じながら、それでもオレは静かに聞く体勢を整える。
    あの類が恋した人……その存在に思いを馳せながら――


    「あれは……今から2週間ほど前だったかな」


    ***


    あの日は確か……普段作っているロボットの部品探しで、少し遠出をしていたんだ。

    いくつか買い物を終えて、何処かで昼食を取ろうとしていた時だったと思う。

    ……通りがかった路地の方で、一人の"女性"が数人の男と話しているのを見かけたんだ。
    遠くにいたから話してる内容はわからなかったけど、恐らくナンパでもされていたんじゃないかとその時は思ったよ。

    ――そう思った理由?

    それはその人が嫌がる素振りを見せていたからかな。
    仕舞には強引に腕を掴まれて、それこそ何処かへ連れていかれそうになっていたよ。

    ……そうだね。勿論放っておけなかったよ。
    それは「僕がその現場を見てしまった」というのもあるけれど――

    ――彼女が、偶然こちらを見た時……

    その時の、不安を感じながらも"希望"を見つけたような安堵の表情に、僕の"心"は掴まれてしまったんだ。

    ……一目惚れ?
    あぁ、そうか。これがかの有名な……

    ごめんね。話を戻すよ。

    それから僕は路地の方に進んで、彼女を庇うように立った。
    相手の男は多分大学生くらいの背丈だったかな……だから、一先ずこの場を切り抜けるために「待ち合わせをしてる知り合いだ」ってでっちあげたんだよ。

    これでも役者だからね。演技力については君もよく知っているだろう?
    後は上手く言いくるめて、その人と一緒に路地を脱出したんだ。

    そのまま安全な場所まで送ってそのまま別れるだけ……だったのだけど……

    彼女が「お礼に昼食を奢らせてくれ」って言い出してね……

    勿論僕は断ったとも。
    それでも「助けられたならお礼は絶対です」って強引に押し切られてしまって……

    ……鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているね?
    確かに僕はショーや演出において我を通すことも多いけど、何も善意を仇で返すことまではしないよ。
    ……それでも、その時点で下心がなかったかと言われれば――嘘になるかもしれないね。

    その後は普通のレストランで昼食を取ったよ。僕のことや彼女のことをそれぞれ取り留めなく話して、それ以外は何もなかった。

    ――でも、そうだね。
    その時の時間は、不思議と楽しかったよ。

    僕自身のことについて身近な人以外……それも、初対面の人に話すのは初めてだったからね。何から何まで新鮮な気持ちだった。

    後はそのまま別れることになって……でも、その時僕は咄嗟に「また会えないか」って彼女に聞いてしまったんだ。

    あの時は「別れれば二度と逢えない」と思っていたから、何から何まで必死だったんだろう。今思えば、その時から僕は彼女を気になっていたんだろうね。

    まぁ、確かに僕もナンパしてた男たちと同じことをやっていたかもしれない。そこは否定できないよ。

    ――結果かい?
    ……僕も意外だったけど、彼女は次に会う"約束"をしてくれたんだ。

    僕が話した今までのショーのことがとても気に入ったらしくてね。
    「また聞かせてほしい」と言っていたよ。

    それから、今日までに彼女と2回は会ったかな……
    ワンダーステージでの本番や練習が無い日の休日や夕方にね。

    ……っ!いや、デートではないよ!
    出先でお茶をして、僕らのショーや彼女のことについて話をしていただけなんだ。

    ――ただ、そうだね
    「話をしているだけ」なのに……その時間が、不思議と楽しく感じられたんだ。

    自分のことを話して、彼女がそれに相槌を打ってくれて、時折柔らかく笑いながら僕らのことを褒めてくれて……
    その内、彼女と話している時のことを想うと胸が高鳴るようになった。彼女と会うことが、ショーの次に楽しみにもなった。

    そんな自分の"変化"に気づいた時……僕は、驚きながらも考えたんだ。

    この"感情"が一体何に由来しているのか。
    僕は、彼女を一体どう想っているのか。

    そうして、夜通し悩み続けて……ようやく気付いたんだ。


    「――僕は、彼女に恋をしているのか」……ってね


    ***

    ――その"女性"の話をしている間、類はずっと笑みを浮かべていた。

    頬を微かに赤く染め、"初恋"を知ったその表情は幸せに満ち溢れている。
    そんな類の話を、オレは静かに聞いていた。時に問いを投げかけることもあったが、その話を途中で止めることなどなかったのだ。

    ――心が重くなる

    類の心と反比例する感情を表に出さないまま、オレは……ゆっくりと口を動かした。

    「……そうか。類の心を揺さぶるくらい、素敵な女性なのだな」
    「……うん」

    短く答えるその姿だけでも、類が"彼女"を想っているのだと強く伝わってくる。
    オレはその姿を見て――ついに、その"問い"を口にする決意を固めたのだ。

    「――そう言えば、類が好きになった人の"名"は何と言うのだ?まさか今まで聞いてないとか無いだろうな?」
    「いや、流石に名前は聞いているよ。話してる間に省略してしまっただけでね」


    「彼女の名前は――『津崎てまり』さんと言うんだ」


    そうして――類は想い人たる女性の"名"を告げる。
    オレはその"名前"を受け止め、噛み締め――俯いただろう。

    津崎てまり……なるほど、実に女性らしく、可愛らしい名前だ。
    きっと"艶のある美しい黒髪"で、"清楚な服装"に身を包み、"おしとやかで大人らしい"女性なのだろうなぁ……

    「なんでも僕より一つ年上らしくてね……とても"大人らしく"て、"おしとやかな"女性だよ」


    …………あー、うん。そうか。





    それ、オレ・・だ。


    「初めて一緒に食事をした時は驚いたよ。彼女もショーに興味があって、色々劇やオペラを鑑賞していると言っていたんだ」

    あぁ、オレだからな。ショーは嗜んでるぞ

    「彼女も存分にショーについて話しても良かっただろうに、僕の話を優先して聞いてくれて、その上で色々と話してくれたんだ。知らない人と話してあんなに楽しかった日は初めてだよ」

    うむ、オレだからな。類の話しやすいように対応できるぞ

    「……でも、流石に初対面の人相手に食事に誘ったのは今でもちょっと心配になるかな。僕が悪人だったらどうするつもりだったのだろう」

    いや、オレだからな。初対面でもないし、類のことをよく知っているから誘ったんだぞ。


    「――それでも、てまりさんを好きになってしまったから、これで良かったとも思っているよ。"惚れてしまった弱み"なのかもしれないけどね」

    類は照れたように、それでも幸せそうな笑みで"彼女"に想いを馳せていただろう。


    ……………………うむ

    オレは恋に浮かれる類に気づかれぬようすっと目を閉じ、深く息を吐いた。
    そして――


    (その小娘はオレだ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!)


    すま~~~~~~~~ん!!!!!!!!!

    口に出せぬ悲鳴と謝罪を、オレは(心の中で)ありったけの声量で叫んだのであった。


    ***


    オレこと天馬司には、誰にも言えない"趣味"がある。

    ――それは、"女装"なるものだ。

    きっかけ自体は中学二年の頃に遡る。
    文化祭の時期のことだ。オレのクラスは出し物として"喫茶店"をやろうという方向性になっていた。
    オレとしては演劇にならなかったことが残念ではあったのだが、決まってしまったものは仕方ないとその当時は普通に受け入れていたのである。
    だが――そこには大きな"罠"が潜んでいた。

    「は~い!と言う訳で、男子は全員女装ね!!」

    実行委員である女子が告げた途端に巻き起こった阿鼻叫喚は今でも鮮明に憶えている……。
    一体どうやって用意したと言いたくなるほど大量に置かれたメイド服の前で、オレ達は揃って頭を抱えていた。ともすれば、男子全員が逃げ出すことすら考えていただろう。
    ……とはいえ、オレたちのクラスは結束が強かった。
    一蓮托生。あるいは死なばもろとも。皆で着れば怖くないの精神で、オレ含むクラス男子は集団罰ゲームを受けることになったのだ。

    ――だが、この時のオレは酷く焦っていた。

    ……何故なら、久しぶりに体調を回復させた咲希が、なんとオレの学校の文化祭に来ると言っていたからだ!
    これが演劇であったなら、オレは舞い上がる勢いで当日を待てたのだが、内容は先ほど述べた通りに地獄絵図である。待つ先はどう考えても公開処刑場だった。

    ……この時、咲希に女装を見せる覚悟自体は早い段階に出来ていた。どうせオレのクラスの出し物はすぐバレるし、"男子全員"と指定されてる以上、逃げ場が無かったからである。
    だが……それとは別に、オレには悩みがあった。

    ……咲希は良い妹だ

    オレが女装をしても、決して嫌ってくれることはないだろう。
    だが……此処で見苦しい姿にでもなってみろ。他の男ならネタの一つにでもなるが、此処でオレの女装が「ダサい」「ありえない」などと言われようものなら……傷つくのは"オレ"の評判だけでなく、妹の咲希にまで及ぶことになるのだ。
    そうなれば、折角回復してきた咲希の精神を大きく傷つけ、ともすれば病状の悪化を招くかもしれない……。大袈裟に思うかもしれないが、オレはどんな形であれ咲希を苦しめる選択はしたくなかったのだ。

    ――そして、オレは決意した。

    「どうせ女装が避けられないのなら、徹底的にクオリティを高め、見る者全てを魅了するメイドになってやろう!!」……とな

    今思えば大分頭がおかしい覚悟だなと気づけるのだが、久しぶりに元気な妹が楽しめる公の場を壊したくなくて、とにかくオレは必死だったのだ。

    そこからのオレは凄かった。
    クラスの女子に恥を忍んで"女子"となるための術を教えてもらい、自分一人でそれを出来るようひたすら修行を重ねた。
    "男らしさ"をとことん排除し、隠し、"一人の女"となれるよう、己を高めていったのだ。

    オレがスターを目指していることを知っていた周囲は「そんなとこまで演じるのかよ~」といった具合に理解を示してくれた。そうやって茶化さずにいてくれたのもオレが女装に打ち込めた要因であり……本格的に道を踏み外すこととなった原因だったかもしれない。

    そうして、オレはどんどん女装スキルを高めていき――ついに"処刑日"を迎えた。

    さて、まずは結果から述べよう。
    オレの行ったメイドは――正直、クラスで一番"可愛かった"
    何故断言できるのかと言われれば、クラス以外のほぼ全員から"女子"と勘違いされたからだ。

    他の男子が"ネタ女装"と言っても良い出来であったのに対し、オレのメイドは"男らしさ"を徹底的に排除出来ていた。

    金の長髪、首元を隠すチョーカー、クラシカルメイドであるが故のロングスカート……そうやって極力男らしさを隠し、後は男声を出さないよう囁きにも似た小声で喋れば――そこにはもう、一人の"美少女メイド"がいるだけだ。

    そうした努力が報われたのか、オレたちのメイド喫茶は見事に大盛況となった。奇異に惹かれてやってきた人間は、男どもの中に紛れる"女"を前に、非常に多彩な反応をしてくれた。ともすれば「女一人だけ混じってるのは罰ゲームか?」などと本気の心配をする者もいたほどである。

    そして肝心の咲希についてだが――なんと、最初はオレだと気づけなかったのだ。

    咲希が来た時は内心焦りながらも接客をしていたのだが……席に案内したところで、周囲を見回していた咲希が「あの、お兄ちゃん……天馬司さんは今いらっしゃいますか…?」と言ってきたのである。その時の衝撃は今でも憶えている程強烈であった。

    その後、クラスメイトがネタ晴らしをした時、咲希はもう目が零れ落ちそうなほど驚いていたし、同時に目を輝かせてオレを沢山褒めてくれた。
    「お兄ちゃんがお姉ちゃんになってる!」とか「アタシでも気づけなかったよ!すごーい!」とか、格好良くない状態の兄に対して、咲希は何処までも優しかった。今思い出すと涙が出そうになるほどだ……

    こうして咲希を傷つけるどころか笑顔にさせたことで、オレの文化祭は大成功のうちに終われた。大切な家族を喜ばせることが出来たのなら、オレの努力は無駄ではなかったのだろう。そして女装もこれっきりとなる……その筈だったのだ。

    ――この時、オレの中で妙な"感情"が生まれていた。

    何も知らない人がオレを"可愛い"などと言い、真実を知れば驚愕してみせる姿。
    或いは、全てを知っていながらもオレの女装を褒め、「凄い」「流石だ」と言ってくれるクラスメイト。

    そして――最初はオレを兄だと気づかず、やがて目を輝かせてオレの女装を喜んでくれた咲希。

    その全てが集い、心の中に積み重なっていった結果――オレは、完全に足を踏み外してしまったのだ。

    ……オレは未来のスターとなる男、天馬司である。

    スターになるためには演技力を高めねばならない。オレは主役を常に好むが、時には自分と正反対の役を演じることにもなるだろう。それは"性格"や"性別"にも言えることだ。

    ――だから、これは必要な特訓だ。
    オレが将来スターとなるために出来る"自主練習"なのだ。

    そう自分に言い聞かせながら――気づけば、オレは"女性"に必要な服やメイク道具をスマホで検索していた。

    一度踏み出せば転がり落ちるように、オレは"女装"の世界にのめり込んでしまった。
    クラスメイトは愚か、家族にだって明かせない変態的な趣味……いや、これは演技力を高めるためだ!と常に心の中で殴り合いをしながら、オレは日々女装スキルを高めていった。

    最初こそ中学生で出来る範囲の女装を、家で趣味程度に嗜む程度だった。
    だが、高校生に上がってバイトが出来るようになると、そこで得た収入をやりくりして、より高度な"女装"を突き詰めるようになったのだ。

    ウィッグ、メイク、服装……基本的な物もだが、"目に見えない部分"についても徹底的に追求していった。
    仕草は普段のオレとは対照的に物静かでお淑やかな方向性を意識したな。普段のオレに近すぎるとうっかりボロが出かねない。
    そして一番重要な"声"――これについても個人的な研究を重ねた結果、ギリギリ中性的だろうという声帯を習得することができたのだ!やはりオレは天才だな……

    そうして女装を突き詰めていくと、やがてオレは"物足りなさ"を覚えるようになった。
    此処まで研究を重ね、見る者全てが魅了されるような"女"となれたのに、それを公で披露する場は一生来ない……それはあまりにも"勿体ない"のではなかろうか?

    何をトチ狂ったのか、当時のオレはそんなことを考え――結果、更なる"禁忌の扉"を開けてしまった。


    ……オレが新たに試みたのは『女装をしたまま外出すること』

    休日を利用し、オレは月に2,3回ほど"女"となって街へと繰り出した。やることと言えば、ただ取り留めもなく街を歩いたり、食事処へ寄ったりする程度のことだったが……

    誰も、オレを男だと気づかない。
    それどころか、時に"熱い視線"をすれ違った人から感じることもあれば……まるで多くの喝采を得られた時のようにこの心は高揚した。
    その感覚がいつの間にか"癖"になってしまえば、もうオレはこの趣味をやめることなどできなかったのである。

    女装趣味に目覚めたのが中学二年の頃で、街に出るようになったのは高校一年の頃からだ。とはいえ、最近はワンダーランズ×ショウタイムの活動もあり、その頻度は減らしていた。女装はあくまでオレの演技力を高めるためであり、それを発揮できる場があるなら無理にしなくても良いということだったのである。……まぁ、それを言いながらやめれてないのが現状なのだが――

    そうして、最早"演技力向上"という言い訳すらできないほど、"女"として街へ出ることがすっかり馴染んでしまった頃――事件は起きた。


    その日、オレはいつも通り女装をして、地元から少し離れた街へと出かけていた。
    黒髪をなびかせ、男の骨格がバレにくい清楚なロングワンピースに身を包み、オレは大通りを闊歩していたのだ。

    数年苦労した末に今では履き慣れたパンプスで地を叩き、オレは堂々と人込みの中を歩いてみせる。大抵の人はオレを気にも留めないが、それは同時にオレが完璧に"女"になり切っている証であり、そのことを思うと悪くない気分だった。
    今日もオレはいつも通り、適当な店で食事を楽しんで帰るという無難なスケジュールで一日を過ごす……その筈であった。

    「やぁ、お姉さん。今一人?」

    店への近道である人気のない路地へ踏み入れた時、事は起こった。
    突然、オレの前に二人組の男が現れたのだ。
    見た目は大学生ほどの年上であるが……オレの今の身なりが"大人っぽさ"を重視している結果、どうやら同じ年ごろだと勘違いされてしまったらしい。
    そこから男どもは「お茶でもどうか」とありきたりな言葉でオレをナンパし始めたのだ。

    ううむ。まさかオレの女装が男を引き寄せるまでに洗練されていたとは……この才能が我ながら恐ろしい。
    まぁそれはともかくとして、当時のオレはこの場をどう切り抜けようか頭を悩ませていた。
    オレは当然ながら男だ。適当に振り切って走れば余裕だろう……と、その時は思っていた。

    「ほら、近くに良い店があるから行こうぜ」
    「……っ」

    ――が、いきなりオレの手を相手が掴んできたことで、その甘い考えは即座に吹き飛んでしまう。

    こいつら……レディに対する扱いがなってなさすぎではないか?
    流石に先手を取られてしまっては逃走を行うのは難しい。だが大声を出して助けを呼ぼうにも、そうしたら"男"の声がバレてしまう。完璧な"女"を演じていた手前、今後一生それができなくなってしまうことに未練がましい気持ちを当時のオレは持っていたのだ。

    どうにか――どうにか回避する方法はないのか?

    若干縋る気持ちさえ覚えながら、オレは咄嗟に周囲を見渡した。

    そして……アイツを見つけてしまったのだ。

    路地の先、大通りからこちらを見つめる真鍮の瞳。
    あまりにも見慣れ過ぎた顔を見つけた時――オレは今の"自分"すら忘れて、安堵の表情を浮かべてしまった。
    ……それでも、即座に今の状況を思い出せば、オレは内心慌ててしまっただろう。

    (不味い…!今のオレでは類に助けを求められんではないか!)

    なんというバッドタイミング!
    これが普通の遭遇なら、他人を装って即座に人込みへと逃げることが出来たのに…!
    前門のナンパ男、後門の神代類に挟まれ、オレの女装生活は絶体絶命のピンチを迎えていた……と、思ったのだが……

    (こ、こっちに来るだと!?)

    なんと、類が躊躇いなくこっちに向かってくるではないか!
    オレが戸惑っている間に類はあっという間に距離を詰め――オレを庇うように、男達の前に立ったのだ。

    「――すみません。彼女は僕の知り合いなんです」

    ん?知り合い?
    まさか正体がオレだと類にバレていたか?と考えたのは一瞬。

    (……いや、この女装は完璧だ。咲希や家族にすらバレないよう、徹底的に"オレ"の要素を排除していたからな)

    オレはこの3年間で得た絶対的な自信を元に、即座にその可能性を否定した。そうやって思考を巡らせている間にも類は男達と何かを話していたようだが、やがて「行こう」と小さく囁かれれば、類はオレの手を引いたまま歩き出してしまったのである。

    ……取り合えずナンパ男の危機は回避できた。が

    (これは――先ほどより不味いのではないか)

    類はぐんぐんと先へ進み、オレの手を離す気配がない。
    バレていないという自信が揺らぎかけるほど、類は何も言わなかった。
    そうして、人通りが多い場所へと辿り着けば、ようやっとその手が離され……

    「……すみません。先ほどは貴女を助けるためとは、咄嗟に強引なことをしてしまいました」

    類はオレを正面から見つめた後、驚くほど丁寧な言葉で謝罪してみせたのだ。
    その様を呆然と見ていたのは一瞬で、オレはすぐに今の"自分"を思い出せば、即座に"演技モード"へと切り替えてみせた。

    「……いえ、寧ろお礼を言わせてください。先ほどは助けていただきありがとうございました」

    丁寧な敬語と、囁きにも似た中性的な声で目の前の"優しい男"に礼を告げる。その際、儚げながらも可愛らしさがある笑みで微笑んで見せれば、オレは何処からどう見ても"女性"そのものであっただろう。

    そんなオレの笑みを見た類は――気のせいか、その瞳を酷く揺らしていた気がしたのだ。

    類は一瞬視線を揺らした後、此方をおずおずと見つめてきた。
    ……何だか珍しい表情だな、と当時のオレは思った。普段は演出を考える時のキマった顔だったり、オレを振り回す時の愉悦顔しか見てこなかったから、その何処となく"初心な表情"は中々に見応えがあったのだ。
    長く一人だったと言うし、もしかしたら女性への耐性が然程ないのかもしれないな……などとオレは軽い考えをしていたか。

    ――そんな類を眺めている内に、オレの中で"良からぬ想い"がふつりと湧いた。

    「それでは、僕はこれで……」
    「待ってください」

    類が立ち去りかけた瞬間、オレは類を引き留める。その手を再度ぎゅっと弱々しく握れば、"上目遣い"で類を見上げて――

    「あの、お礼をさせてくれませんか?」

    3年の集大成とも言える"演技"でもって、類に全力の誘いをかけたのだ。

    『あの類をもっと翻弄してみたい』

    そんなどうしようもない衝動に突き動かされる己を自覚しながら……。


    それからは強引に類を近くのレストランへと連れて行き、対面する形で席へと座った。

    「そう言えば名前を聞いていませんでしたね。伺ってもよろしいですか?」
    「あぁ、そうでしたね…僕は神代類と言います。貴女は……?」
    「はい。私はて……っ、"てまり"!"津崎てまり"と申します…!」

    (危なっ!?危うく癖で本名を名乗るところだったぞ!?オレのアドリブ力が鍛えられてなかったら速攻でアウトだったな……)

    心の中でほっと息をつく場面もありつつ、お礼の食事という名の『類を翻弄する大作戦』は順調に進んでいった。
    類にとって"てまりさん"は初対面だが、オレは類のことをそれはもうよく知っている。
    故に、まずは会話をさりげなく類自身のことへと持っていき、"ショー"の話題へと漕ぎ着ける。そこから「実は私もショーが好きなんです!」と"偶然"を装って類の話をどんどん引き出してやれば……オレの術中にハマったも同然だ!
    中身が"オレ"であれば、当然ショーの知識はハリボテや嘘にはならない。"ただ類の気を引きたい女"ではなく、純粋な"ショー好きの同士"として類に接すれば、奴の好感度を上げるのは実に容易だっただろう。

    特に類がワンダーランズ×ショウタイムについて触れた時は、"てまり"も目を輝かせ喜んでみせた。
    「類さんは高校生なのに凄いですね」と微笑めば、類は一瞬硬直しながらも「いえ、そんなことは…」と、なんと謙遜までしてみせたのである。その仕草もだが、とにかく初めて見る類の全てが新鮮で、オレはひたすらその駆け引きを楽しんでいたのだ。

    そうしてお楽しみの時間はあっという間に過ぎ去り、結局類の申し出で割り勘となれば、オレたちはレストランの外へと出るのであった。
    今度こそ解散か……いや、しかし惜しいな。普段散々振り回されてる身からして、今の類で遊ぶ……ではなく、新しい面を見れるのは実に楽しかった。出来ればもう1,2回、類を翻弄できるチャンスが得られれば良いのだが……。
    とは言え、流石にこれ以上はバレるリスクもあるし、欲張るのも駄目だな……とオレは考え直し、名残惜しいが類と別れようとした。

    「それでは神代さん。私はこれで……」
    「待ってください」

    ……だが、そんなオレの心中を見抜いたかの如く、類はオレを呼び止めた。そうして、オレがきょとんとしながら類を見上げれば、

    「――また、どこかでお話できませんか?」

    心の中のオレが驚愕でひっくり返りそうな誘い文句を、類は口にしたのである。

    そこから先は……まぁ、先ほど類が語っていた通りだ。
    女装モードの時はスマホカバーを変えているとはいえ、流石に連絡先の交換が難しい。
    「家の躾が厳しくて…」などという苦しい言い訳を重ね、口頭で次の待ち合わせを行った。

    ……そうだ。オレはバレるリスクと天秤にかけた上で、『類を弄ぶ』という選択を容赦なく選び取ったのである。

    いや、だってあの類が女性相手にドギマギしてるのだぞ!?これをもっと見たいと思わない人間はいるだろうか。いや、いない。

    それに、日頃類には散々振り回されているツケがあるからな……悪質な自覚はあるが、この交流を通して精算させてもらおうか。

    かくして、オレは軽い気持ちで類との関係を続行させた。
    やることと言えばただ女装をして類と食事に行き、取り留めなく話をするだけだ。
    オレのショー知識は類たちに開示してない分でもまだまだある。女性が好みそうな劇やオペラ、オペレッタといった"オレ"がしない話題を中心に持っていけば、類の話に合わせるのは容易だっただろう。
    それでもオレから多くは語らず、基本は類の話を聞く体勢を取った。最初はあまり明かさなかった類も、オレが導くような話術を取ることで、やがて自分から色々と話せる様になっていただろう。

    ふーむ、我ながら才能が恐ろしい……
    対人相手に"女"として接したのは初めてだが、まさかここまでバレずに行けるとは。
    とは言え、これから回数を重ねていくとなると何処かでボロが出かねない。残念ではあるが、次回あたりで類とは別れるべきだろう。
    3回目のお茶会後、次回の約束をしながらオレはそんなことをぼんやり考えていたのであった。



    ……それが、まぁ、なんだ。

    たった3回。それっぽっちの回数で、あの神代類は"津崎てまり女装したオレ"に惚れ込んでしまったらしい。



    ――そんな運命、あってたまるか!?!?


    ***


    類は先程から頬を赤らめながら、"てまりさん"の良いところをどんどん語っていく。
    恋という感情を抱いたのが本当に初めてなのか、他者が聞けば砂糖を吐きそうなほど甘い話を、類はマシンガンの如く連射してきたのである。
    オレでなければ今頃キレられてたと思うぞ。オレでよかったな本当に。

    ――いや、オレでも良くないが!?

    どどどどうするんだ!?類を軽い気持ちで翻弄するだけだったのに一体どうしてこうなった!?

    不味い。非常に不味い。
    このまま類に"てまりさん"の正体がバレてみろ。

    「初恋相手について語った相手が初恋相手その人で、しかもショー仲間で、さらに女装をしていました」

    ……オレならショックで不登校になるな。最悪ワンダーランズ×ショウタイムを辞めかねん。
    そこまで行かなくても、オレと類に決定的な断絶が出来るのは確定だ。オマケに類経緯でえむや寧々に女装趣味がバレれば……オレの人権は終わる。

    やはり、次回のお茶会で別れを切り出すしかない。いや、元々付き合ってはないが『リアルが忙しくなってもう会えない』などと理由をつければ何とか会わずに済むのではないだろうか。
    類の初恋を奪って申し訳ないが、オレの人権のためにも諦めてくれ。ほら、初恋は実らないとは良く言われるしな。一般的だ。

    「……初めてだったんだ。誰かに"恋"をするなんて」

    ――混乱を極めていたオレの思考は、不意に落とされた類の言葉で静止する。
    何時もの類からは考えられないくらい、その声は優しさに満ちていて……オレは、それまで俯かせていた顔を上げて類を見たのだ。

    そうして――視界に飛び込んできた"光景"に、オレは言葉を失った。

    「――正直、不思議な気分だね。ショーをすること以外にこんなにも心躍る感情があったなんて、僕は知らなかったよ」

    そうして穏やかに微笑む類は……"天馬司"の知らない顔をしていた。

    オレは鈍感ではない。人が抱いている感情だってある程度察することができるのだ。だからこそ――類が『心の底から恋をしているのだ』ということが嫌というほど理解できた。

    ……そうか。類は本当に恋をしているのか。

    数か月共にショーを行い、類に"初めての感情"を沢山与えられているつもりだった。それでも、"恋"という感情だけはどうやってももたらすことができない。仕事仲間でしかないのだから、それも当然だろう。

    確かにオレは中途半端な志で女装はやっていない。最近では"誇り"といういらんものまで持ってしまっている。だから、たとえそれがぽっと出の小娘で、たった3回ぽっちしか会ってない女であっても、類が惚れてしまったのは仕方ないと言える筈だ。

    …………仕方ない

    あぁ、そうだな。
    仕方ない。仕方ない。仕方がない……




    ――――わけ、ないだろうがッ!!!!!!


    【◆司、キレた――!!】

    脳裏に漫画のアオリ文が躍る幻影が見えたほどに、"それ"を自覚した瞬間……オレは、完全に"プッツン"ときてしまったのだ。

    ……だってそうだろう。
    オレたちが――オレが、どれほど類と共に過ごしていたと思っている!?
    アイツの素晴らしい演出に、オレは何時も12000%で応えてきた!オレの星のような輝きは日に日に増し、その光によって類の心を魅了できていると、オレは信じていたんだ!

    それがなんだ?どこぞの馬の骨ともしれないぽっと出の小娘(※自分)に、オレの演出家は取られたというのか?
    類のショーを見たこともない、ただ趣味と波長が合って類への気遣いが出来る小娘(※自分)程度が、オレの・・・類の一番になると言うのか???

    ……許せん

    あの小娘(※自分)は類を弄んでいるだけだ!!
    オレの方が類を大切に想っているし、ショーへの期待だって応えてやれるし、何なら一生を幸せにする覚悟すら持っているんだぞ!!
    それをアイツは……アイツは……!

    ――怒りと嫉妬によってオレの思考は揺さぶられる

    そうして、ある意味理不尽の極みとも言える激情に呑まれている内に……オレは、気づいてしまった。

    (……そうか。オレは、類の事が好きなのか)

    かつてこんなにも最低な恋の自覚があっただろうか。

    だが仕方ないだろう!?オレだって完全に死角からトラックに跳ね飛ばされたような感覚なのだぞ!!仲間に対しての執着としては明らかに異常すぎるオレの"想い"に名をつけるなら、それは"恋"としか言いようがない!

    くっ……どうしてこんな形で自覚してしまったのだ!
    しかも類は既に好きな相手がいるというのに!一体何処の馬の骨だ!!……オレか!?

    いや、厳密には"オレ"ではなく"オレの女装姿"なのだが……だから究極言ってしまえば、女のオレが類を振ることで、全てが解決できるかもしれない。
    ただ一言「もう会えない」「ごめんなさい」と言えば、類は晴れて自由の身となる。そこに滑り込む形でオレが告白をすれば――

    ――いや、そんな"卑怯"とも言える方法を取るのか?この未来のスターたる天馬司が?

    既に類を騙している身でどの口がとも言われるだろうが……それでも、そのような不意打ちとも呼べる戦法をオレはあまり取りたくなかったのだ。
    とはいえ、"女のオレ"にその気がなければ、この方法は正攻法ともなる。どうせ類を誑かすことしか考えていない性悪女(※自分)だ。そのまま飽きて最悪な離れ方でもしてしまえば良い。"女のオレ"もそろそろ飽きてきたのではないか?

    取り合えず、"女のオレ"を脳裏に想像してみる。もしも目の前に彼女がいればどう答えていたか――――


    『"離れる"?……え?いやですが』


    ――は?

    『いやです。私は神代さんとまだ話していたいです。だって彼と話しているととても楽しいんですもの』

    ――いや待ってくれ、女のオレ。お前は別に類を好きではないだろう?

    『そうですね。彼と話していて楽しいですが、好きとまでは……』

    ――だろうだろう。ならばさっさと離れて……

    『いえ、特に離れる理由はないです』

    ――…………

    『……あぁ、それとももしかして』


    『"ぽっと出の小娘"とやらに神代さんを取られて必死なんですか? "未来のスター"と言うのなら、"天馬司"の実力だけで彼を奪い取ってみてはどうでしょう』

    『……まさか"出来ない"とは言いませんよね?"男の私天馬司"』


    "ぷっつん"

    脳裏で清楚系の微笑を浮かべながら全力の挑発をしてくる"女のオレ津崎てまり"
    それを認めた瞬間――オレの中で本格的に何かが切れた。

    ……あぁ、そうか。よ~~くわかった。
    "お前"がその気なら――その勝負、乗ってやろうではないか…!

    類と結ばれるのは"天馬司"だ!!
    "津崎てまり"などという小娘ではなく、このオレであるべきなのだ!
    それを今から類にはじっくり、確実に教え込んでやる。
    ただ話して仲良くなっただけの偽りだらけの小娘より、お前のどんな期待にも応えることができるオレの方がお前を愛せていると証明するのだ!


    「……司くん?さっきから俯いてるようだけど、どうしたんだい?」

    類の心配する声が頭上より響くが、その声に応えることはできない。
    大切な類をただの小娘(※自分)に取られ、あまつさえ勝者の余裕で煽られたことで、今のオレは完全に正気を失ってしまったのだ。

    ……絶対に、あの性悪女(※自分)に類は渡さん

    この逆境から全力でオレは這い上がる!そして、何としてでも類にオレのことを好きになってもらうのだ!!

    そんな熱い決意と高揚感がオレの心を揺さぶり、強い想いとなって湧き上がってくれば――

    「――え」

    ぽたり、と膝に落ちる熱い雫。
    類が呆気に取られた言葉を零すが、オレはそれに反応する余裕を持ち合わせていなかった。
    視界が邪魔となる水を目ごと拭い、そのまますっと立ち上がる。

    「……すまん。また後で」
    「司く――」

    オレの名前を呼び掛けた類を無視してしまう形で、オレは屋上から走り去った。


    ――絶対に、絶対に許さないぞ。女のオレ

    今に見ていろ。
    オレは必ず、絶対に、女のオレよりも類に好きになってもらうからな!

    そうして、"オレ"と"オレ"の戦いの火蓋は切って落とされる。

    誰が類に愛されるのか。
    誰が類にとって一番となれるのか。

    その争いの果てに生き残るのは、果たしてどちらの"オレ"となるのか――


    ……さぁ、一世一代の大舞台の始まりだ!


    ***



    ……天馬司は妥協のできない男だった。

    "女の自分"にも誇りを持ち、まるで"一つの人格"のように自分の中で扱っていたからこそ、"男の自分"のために切り捨てる真似ができなかった。

    ……同時に、天馬司はどうしようもない馬鹿だった。

    神代類が恋している相手は実質"天馬司"であるも同然なのに、彼はどういう訳か「女の自分から略奪愛をする」という難易度ナイトメア級の大馬鹿選択肢を取ることにしたのだ。
    ある意味"女の自分"を尊重したとも言えるのだろうが、やり方によってはあっさり叶う筈の恋路の難易度を、彼は自ら五段飛ばしで引き上げてしまったのである。

    ……そして、天馬司は救えないほど周りが見えていなかった。

    "自分"に負けた悔しさと絶対に勝つという決意で涙を零し、類に多くを語らず走り去ってしまった司。
    ――その姿は何も知らない類から見れば『自分の初恋の話をしたら、司が泣きながら逃げ去った』というものでしかなく。

    ただでさえ天才と呼ばれている男が、その"光景"を見ればどう思ってしまうのか。

    ……司は狙っていない筈なのに、それが図らずも『神代類が"天馬司"を意識するようになる』一歩となったのは、果たして何の因果なのだろうか。


    取り合えず、今の段階で言えることがあるとするなら――

    どう考えても天馬司の自業自得でしかない恋愛バトルの火蓋が今、切って落とされようとしていた…!!

    天馬司と津崎てまり天馬司、果たしてどちらの恋が実るのか――天馬司しか得をしない戦いの行方は、未だわからない。

    ただ、神代類がどう足掻いても被害者になる未来はたった今確定した。
    強く生きて欲しい。


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    Kakitu_prsk

    PROGRESS相互さんに捧げるF/F/1/4の世界観をベースとしたファンタジーパロ🎈🌟の序章
    兎耳長命種族冒険者🎈×夢見る冒険者志望の幼子🌟
    後に🍬🤖ちゃんも加わって🎪で四人PTを組んで冒険していく話に繋がる…筈。

    ※元ネタのF/F/1/4から一部用語や世界観を借りてますが、完全同一でないパラレルくらいに考えてください。元ネタがわからなくてもファンタジーパロとして読めるように意識しています。
    新生のプレリュード深い、深い、森の中――木々が太陽すら覆い隠す森の奥深くに、小さな足音が響き渡った。


    「待ってろ、お兄ちゃんが必ず持って帰ってくるからな……!」

    そんなことを呟き足早に駆けているのは、金色の髪をもつ幼い少年であった。質素な服に身を包み、不相応に大きい片手剣を抱くように持っている。

    人々から『黒の森』とも呼ばれているこの森は、少年の住む”森の都市”を覆うように存在している。森は都市から離れるほどに人の管理が薄くなっており、ましてや少年が今走っている場所は森の比較的奥深く……最深部ほどではないものの、危険な獣や魔物も確認されている地帯だった。
    時折、腕利きの冒険者や警備隊が見回りに訪れているものの、幼子一人が勝手に歩いて良い場所ではないのは明らかだ。だというのに、その少年は何かに急かされるように、森の中をひたすら走っていたのである。
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    Kakitu_prsk

    DOODLE人間🎈がうっかり狛犬🌟の封印を解いたことで、一緒に散らばった大量の悪霊を共に封印するために契約&奔走することになるパロの冒頭ができたよ!!
    書きたいネタをぶつぎりに入れたりもしたけど続く予定はないんだぜ。取り敢えず投げた感じなので文変でも許してちょ
    大神来たりて咆哮す(仮)――ねぇ、知ってる? 学校から少し離れた場所にある森に、寂れた神社があるんだって。
    ――そこに深夜三時に訪れて、壊れかけてる犬の像に触れると呪われるんだってさ
    ――呪われる?
    ――そう!なんでも触れた人は例外なく数年以内に死んじゃうんだって!
    ――うわ~!こわ~い!!


    ……僕がそんな噂話を耳にしたのは、昨日の昼休みのことだった。

    編入したてのクラスには噂好きの人間がいたのか、やたらと大きな声でそう語っていたのを覚えている。
    現実的にも有り得ない、数あるオカルト話の一つだ。そう信じていながら、今こうして夜の神社に立っている僕は、救えないほどの馬鹿なのだろう。

    絶望的なまでに平凡な日々に変化が欲しかった。
    学校が変わろうと”変人”のレッテルは変わらず、僕は何時だって爪弾き者だ。ここに来て一か月弱で、早くもひそひそと噂される身になってしまった僕は、この現実に飽き飽きしていたんだ。
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    recommended works

    hukurage41

    DONE #ritk版深夜の60分一発勝負
    演目)七夕
    ※画像でもあげたのですが、なかなか見にくかったのでポイピクにも同時にあげます。

    ・遠距離恋愛ルツ
    ・息をするように年齢操作(20代半ば)
    ・かつて書いた七夕ポエムをリサイクルしようと始めたのに、書き終えたら案外違う話になった
    星空を蹴っ飛ばせ「会いたいなぁ」

     ポロリと口から転がり出てしまった。
     声に出すと更に思いが募る。言わなきゃよかったけど、出てしまったものはしょうがない。

    「会いたい、あいたい。ねえ、会いたいんだけど、司くん。」
     類は子供っぽく駄々をこねた。
     電子のカササギが僕らの声を届けてくれはするけれど、それだけでは物足りない。
     
     会いたい。

     あの鼈甲の目を見たい。目を見て会話をしたい。くるくる変わる表情を具に見ていたい。
     絹のような髪に触れたい。滑らかな肌に触れたい。柔らかい二の腕とかを揉みしだきたい。
     赤く色づく唇を味わいたい。その奥に蠢く艶かしい舌を味わいたい。粒の揃った白い歯の硬さを確かめたい。
     匂いを嗅ぎたい。彼の甘く香ばしい匂い。お日様のような、というのは多分に彼から想像するイメージに引きずられている。チョコレートのように甘ったるいのともちょっと違う、類にだけわかる、と自負している司の匂い。その匂いを肺いっぱいに吸い込みたい。
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