幻影 ふと、意識が浮上した。視界に移る世界は薄暗い。どうやら妙な時間に目が覚めてしまったらしい。
ベッドから体を起こすと、思ったより肌寒くてぶるりと体が震えた。
「さむ」
音にはならなかった呟きを零して、ガウンを羽織る。それから同室の連中を起こさないように、足音を消して自室から抜け出した。
寮の談話室を出て、気の赴くまま、夜のモーンストロムを歩く。図書館、食堂、購買を通り過ぎて、気付けば辿り着いた先は中庭だった。
ぶるり、屋外に出たことによって下がった気温に、また身体が震える。羽織ったガウンの前を合わせた。
昼間は魔法の練習をする生徒や休憩に来た生徒で明るく賑わうそこも、今は月の光が静かに照らすばかりだ。
1169