君の名は 問診票、という面倒な書類がある。面倒ではあるが、これが必要不可欠であることは、如何なVRCでも避けられぬところなのだ。人命軽視は殺人事件を犯していい理由にならない。
「書けました」
「うむ」
治験協力あたって、彼の身分証明書を初めて見た。車の免許証だが、思ったより彼は若かった。
自動二輪に中型にAT限定解除。なるほど、実用的だ。
「清々しいほど健康体だな」
「丈夫なだけが取り柄なんで……」
そんな彼も、仮性吸血鬼化騒動では我々の予測を超える変化を示した。既往症や持病の有無というより、受け継いできた遺伝子レベルの問題だと推測している。更なる研究が必要だ。
ふと、氏名欄が目に留まった。
「……君らしい名だな」
「え?」
「いや」
実に彼らしいと思っただけだ。
現代において『真名』は既に外に曝け出すメリットを失っている。少なくとも、血縁者だけが知っていればいい。……俺様にはとうに関係のない話だが。
「名前、俺らしいですか?」
なんだ、聞いてたのか。
「予想通りというか何というか、……まさに君だな」
「そうですか」
にへら、と笑って頭を掻く。嬉しいです、と。
そんな彼が、これから治験において無い尻尾を下に巻き込み涙目で震える姿を想像し、少し手加減しようか、と思ってしまうのは絆された弱みだろうか?