ラストシーン 六月半ばの、静かな海辺。
遥か水平線を船が通ったり、海鳥の姿が見える。温い塩風が、この場に似合わぬヨモツザカの白衣をはたはたと揺らした。
歩みの遅いヨモツザカを追い越したサテツが、進行方向でじっと立っていた。ヨモツザカが気に留めないそぶりでそこまで辿り着くと、逞しい両腕が待ちわびたように痩躯とフラスコを抱きしめた。
「なんだ、どうした?」
「こうしたかっただけです」
サテツは柔かに笑って、満足したのか、
「誰も居ませんから」
と、ヨモツザカの右手を大きな左手で捉えて、そのまま、またゆっくりと海辺を歩き出す。ヨモツザカが懐に抱いたフラスコの中で、灰色の塵がサラリと音を立てる。
「……そうか、誰も居ないか」
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