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    dps94kakuriyo

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    クラノス、サテヨモ、フククワのネタ帳からSS化したものをここにあげたり、文庫の作業場だったり。他にもいろいろ。

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    サテヨモが謎の喧嘩をして弟君が兄貴の背中を押す話。
    弟君は相手が誰か薄々知ってる。

    #サテヨモ
    iwomo

    理解不能の恋「兄ちゃんさ、好きな人居るだろ」
    「うぇ⁉︎」
     弟の部屋に漫画を借りにきて、まさかそんなことを聞かれるとは思ってなかった。家族の誰にも話してなかったことだ。何か露骨な態度をしていたんだろうか?
    「な、何で?」
    「行動見てたらなんとなくわかる」
     弟の視線が俺を捕えてる。うわぁ……。
    「兄ちゃん、結構前からミスドの常連なのに家に持って帰ってこないし」
    「ぐっ……!」
    「家に戻ってくる時間も不規則だし」
    「うぅっ」
    「念入りに風呂入ってから出かけるし」
    「ワーーーッ!」
     俺は弟に土下座した。このことは親には内密に、と。何れ話さねばならないことだけど、今はちょっと、かなり、無理だ。

    「……兄ちゃん、その人と結婚する気なの?」
     その質問に対する答えは、スルっと声になった。
    「しないよ」
    「え?」
     お互いの合意で、と付け加えた。誤解されたくなかったから。
     結婚は、公的な色んなことに必要な関係だというのは理解してる。でも、例え結婚できる法律があったとしても、俺達には不要だ。ちゃんとあの人から聞かされた。俺はそれに納得している。
    「こんなに誰かを好きになったの、初めてでさ」
     毎日色んなことに上書きされて、好きになったきっかけが思い出せない。
    「……コバル、俺さぁ」
     たまに、あの人の弱さに漬け込んでるだけなんじゃないかと思ってドキッとする。偽善者って言葉もあるだろ。正直、あの人のことになったら自分でも訳がわからなくなるんだ。
    「嫉妬もするし独占欲だってあるよ。何でもいいから役に立ちたい。でも、それってぶっちゃけ見返りを求めてるんじゃないかって……嫌なんだよ。褒められたくて尻尾振ってるみたいな? でも好きなもんは好きなんだ、訳わかんなくても」
    「……そんなに泣くほど好きなら、今から会いにいったら?」
    「へ?」
     コバルが妙なことを言った。
    「喧嘩して寂しいって顔に書いてる」
     俺はべしょべしょに泣いていた。弟の、コバルの前で、鼻水まで垂れてた。ガチで気が付かなかった。

    「……頑固な人、なんだよ」
    「うん」
    「頭がいいクセに、変に不器用で」
    「うん」
    「でも、すげー好きなんだ。会いたいんだ……」
    「それ、その人に言ってあげなよ」
    「!……そうだな、そうする」
     それもそうだ。鉄は熱いうちに……何だっけ。取り敢えず熱いうちにって言うし。
     何だか、思いたったら体が軽くなった。
    「今度僕にもドーナツ奢ってよ」
     というコバルの声に背中を押されるように、俺は逸る気持ちのまま上着と車の鍵を引っ掴んで、家を飛び出した。





    「奴が来たら追い返せ」
     と指示を受けてるだろう守衛さんの前に、防弾ガラス越しで立っている俺。目に見えて戸惑ってるのが分かって申し訳ない気分になるけど、ここで引いては来た意味がない。
     守衛室のモニタ越しに聞こえるように、
    「所長さんに今すぐ会いたくて会いにきました!ただ会いたいだけなんで通してください!」
     と大声で叫んだ。
     守衛さんは目を丸くしながらモニターと俺を交互に見て、最終的に通信で何やらやりとりをした後、俺に向かって「どうぞ」とジェスチャーを返してくれた。後日何か差し入れ持ってこよう。
     何度も頭を下げて、俺は夜間通用門をくぐり抜けた。

     生体認証キーはロックされてなかったようで、ラボの扉は難なく開いた。
     中には、机に向かってPCに何かを打ち込んでいるヨモツザカさんの姿がある。キーを打つ音は最初こそ規則的だったけれど、何となくだんだん乱れてきて、そう時間が経たないうちに打つ手を止めてしまった。
     沈黙に心が痛んだ。
     俺はといえば、脳天がヒヤリとするくらいの緊張感で心臓が飛び出そうだった。いつも座る丸椅子に近寄ってソロリと腰を下ろしたけれど、彼はこちらを見向きもしない。
    「喧嘩すると寂しいです」
     こちらを見ない彼に向けて、俺は言いたいことを勝手に言うことにした。
    「俺は、いつだってあなたに会いたいし側に居たい。あなたの役に立ちたい。なんか、なんて言っていいかわかんないですけど」
     スゥ、と深呼吸する。
    「訳が分からないくらいあなたが好きなので、会えないのは悲しいです」
     そこで、ようやく彼がこちらを向いてくれた。少し俯き加減で、視線が絡むことはなかったけれど。
    「……バカ犬め。俺様は謝らんぞ」
    「はい、俺も謝りません」
     自信満々で言うことか?

     何が理由で喧嘩したのか、頭の悪い俺はもう余り明確に思い出せない。恐る恐る手に取った彼の指先はやっぱり冷たくて、俺はその指を両手で包むと、温かくなるまでゆっくりと摩った。


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