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    suzuro

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    suzuro

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    寛七アンソロ寄稿小説の日本語版です。

    bonbon「それ、一つもらってもいいか?」
     日車は七海が座るソファに並んで腰掛けるとそう話しかけた。七海が手にしているのはチョコレート。丸い形のウイスキーボンボンだ。それは綺麗な包装紙に包まれており、残りは上品な箱に収まって机の上に置かれていた。
    「珍しいですね、あなたが甘いものを欲しがるなんて」
     七海が微笑む。日車は仕事から帰ってきたばかりだ。ネクタイを緩めシャツのボタンを二つ外す。彼の襟元からちらりと見える鎖骨を見て七海はどこか安心する。彼が家でくつろいでいる証拠を見せられているようだから。
    「ここ数日残業続きで疲れているせいか、体が甘いものを欲しているみたいだ。少しでも疲れを取りたい」
     疲れの滲んだ顔で日車は言う。
    「なるほど。それで疲れが和らぐのならどうぞ食べてください」
    「ありがとう。助かる」
     七海は手に持っているチョコレートの包装を剥がすと日車の口に入れた。その拍子に七海の指が彼の唇に触れる。彼はもぐもぐと口を動かしながら「甘いな。ウイスキーの味がする」と言った。
    「ウイスキーボンボンですからね。貰い物ですがここのブランドのものはお酒の味がしっかり効いていて美味しいんですよ」
    「そうなのか。……もう一つそれを口に入れてくれないか」
    「いいですよ」
     七海はもう一度日車の口にチョコレートを入れる。再び彼はそれをよく味わうように含み、満足そうな表情を浮かべる。食べる時に舌で軽く指を舐められたが七海は気付かないふりをした。
    「七海、もう一つくれ」
    「もう一つ」
    「もう一つ」
     その行為は繰り返され、テーブルの上のチョコレートの箱は空になった。
    「ななみ」日車は優しい声で恋人の声を呼ぶと肩を抱き寄せた。上目遣いで甘えるように見つめながら七海に語りかける。
    「困ったな、どうやらチョコレートで酔っ払ってしまったみたいだ」
     普段の彼の酒の飲みっぷりを考えるとその言葉が嘘であることは明らかだった。だが恋人の他愛のない嘘を七海は可愛らしく思った。
    「寛見さん、酔ったふりはそろそろおしまいにしませんか」
     ばれたか、という表情で日車はにやりと笑った。
    「たまには酒と甘いものの力を借りて甘えさせてくれてもいいんじゃないか。幸い明日は二人とも休日だ。夜は長い。ゆっくり楽しもう」
     そう言うと日車は七海に口づけた。しばらくしてお互いの唇が離れる。
    「これが一番甘い」
     平然とそう言う日車を七海は軽く睨み、ほどなくして二人で顔を見合わせて笑った。
    (もうすぐバレンタインだ。その日にはうんとお酒の効いたチョコレートとそれに合うお酒を用意しよう)
     彼のキスの続きを受け入れながら七海は思った。
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