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    ナナシ

    @nanashi273

    アイドルマスターが好きです。
    765、如月千早・高槻やよい・水瀬伊織・周防桃子
    346、橘ありす・大沼くるみ
    315、天ヶ瀬冬馬・伊集院北斗・御手洗翔太・若里春名・冬美旬
    283、小宮果穂

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    ナナシ

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    寄稿するみのきょ劇中劇の進捗。ケツ叩き

    偶像 ある暑い日の夜。寝所に設置してあった空冷機が故障をしてしまい、仕方なく小さな扇風機で夜をやり過ごそうとしていた時だった。
     いくら暑いとはいえ、日々の疲れが溜まったこの体は睡眠を欲していて、気が付けば俺は夢の世界にいた。
     それが夢だと分かった理由は、そこには親父がいたからだ。すぐにこれは夢だと自覚した。だけど、否定はしなかった。ライブをする親父の姿を久しぶりに見て、なんだか胸が締め付けられるように痛くて、熱かった。
     カタギの奴らに親父は笑顔を振りまく。その中に俺も混じっていて、親父に笑顔を向けられて、俺は嬉しくて、寂しくて、泣いた。すると泣いている俺を見た親父は俺に向かって手を差し伸べて、一言『笑って』と言った。
     そこで目が覚めた。暑さで身体じゅう汗まみれで、呼吸も浅くなっていた。俺は上体を起こして浴衣の袖で顔の汗を拭った。
    「親父…」
     無意味に手を伸ばしてみても、暗闇の中には無があるだけ。なにも掠らずに虚しく空を切る。握りしめた手のひらは汗で濡れて、不快感を覚えてすぐに拳を解いた。
    「……バカみたいだ」
     虚しさが心に溢れてきたが、それと同時に親父に会えたような気持ちが生まれて、二律背反に陥る。とりあえず、汗がひどく不快でしかないから俺は中途半端に覚醒した体を引き摺りながら風呂へ向かった。
     頭から冷水を被りながら、先程見た夢を反芻する。懐かしい、親父のアイドルとしての姿。俺の憧れの人。
     親父―――砂場久貴は、以前起こった旗須組との抗争で頭である淵間との相討ちで命を落とした。親父だけではない。梅戸組も旗須組も、そのほとんどがあの抗争で命(タマ)を落とした。
     唯一の生き残りだった俺は、もう親父たちのように散っていく奴らがいなくなるよう、所謂“後始末”をしていた。
     親父の死から数年経ったが、こんなにもはっきりと夢枕に立たれたのは初めてだ。親父の姿はあの頃と変わらない。だって夢は偶像だから。俺が一番好きだった時の親父のまま、時が止まっていた。
    「寂しいよ、親父…」
     誰もいない場所で心の内を吐露する。俺の弱気な言葉はシャワーの音にかき消された。
     
        ***
        
     あくる日も、俺の夢に親父は現れた。夢の中の親父はまるで、俺たちの時代のアイドルではなく、いま、テレビに映るような光り輝くアイドルたちのように笑顔で、キラキラして綺麗だった。
     俺は観客席から親父に何度も手を伸ばす。だけど、ステージに立つ親父には届かなくて、その他大勢の中に埋もれて、この手は虚空を掴むばかりで。親父はその他大勢に笑顔を向けて、笑う。全てのカタギたちに親父の全てを届けるみたいだった。
     あと少し、触れられそうな距離。もどかしくて…そこで俺は目を覚ます。顔は汗と、涙がひと筋流れていた。
     どうして、今更こんな親父の姿を夢見るんだろう。夢ならいっそ…もっと親父に触れたい。シノギの握手会のように、その手に触れていたかった。
     
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