Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    ナナシ

    @nanashi273

    アイドルマスターが好きです。
    765、如月千早・高槻やよい・水瀬伊織・周防桃子
    346、橘ありす・大沼くるみ
    315、天ヶ瀬冬馬・伊集院北斗・御手洗翔太・若里春名・冬美旬
    283、小宮果穂

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 26

    ナナシ

    ☆quiet follow

    しばらく会えない秀のために自分のぬいぐるみを託していく鋭心先輩(いろいろおかしい)

    会えないとき 鋭心先輩がレギュラーで出演しているドラマが映画化になるらしく、しばらく地方ロケで不在にすると伝えられた。俺たちC.FIRSTの三人で週一のペースで行っている、事務所の公式動画のライブ配信も先輩抜きでやることになった。
    「ずっと三人でやってきたから、二人きりってなんかドキドキするな。しゅーくん、お手柔らかに」
    「いつも通りやるだけですよ」
    「すまないが頼んだぞ。秀、百々人。これを俺だと思ってくれ」
     そう言って鋭心先輩が差し出したのは、少し前にサンプルとして出された俺たちを模ったぬいぐるみだった。いつもの衣装を身に着けているもので、手のひらサイズではなく、抱っこしてちょうどいいくらいの大きさのものだ。
    「ふふっ、じゃあこの子をえーしんくんだと思って…ね?これならしゅーくんも寂しくないよね」
    「なっ、別に俺は寂しくないですよ。鋭心先輩がいない穴、俺がバッチリ埋めてやりますから」
    「秀は本当に頼もしいな。では頼むぞ」
    「おーい!鋭心、そろそろ出るぞー」
     事務所の出入り口でプロデューサーの呼ぶ声が聞こえた。
    「いってきます」
    「いってらっしゃい」
    「いってらっしゃい、先輩」
     出かける先輩を見送る。百々人先輩に言われたときは強がったけれど、やっぱり鋭心先輩がいないと寂しい。ずっと一緒にアイドルを続けている仲間だし、それに、俺の恋人…だし。
     プロデューサーが言うには、鋭心先輩が帰ってくるのは次の日曜日と言っていた。なんでも孤島がロケ地らしく、本島との連絡船が一週間に一回しか出ないらしい。
     こんなに長い時間離れるのは初めてだった。昨日、鋭心先輩がしばらく会えないからってたっぷりと恋人としての時間を堪能したけれど、これから会えない時間を考えると少し憂鬱な感じがした。
    「…寂しい、って思うかな」
    「え?なに?」
     しまった。つい考えていることを口に出してしまった。声のした方向を見ると、百々人先輩がにやけた表情で俺を見ていた。
    「な、なんでもないです!ただの独り言!」
    「寂しい、って聞こえたよ?」
    「…!聞かなかったフリくらい出来るでしょう?!そうやってイジって…先輩って本当に俺のこと嫌いですよね」
    「あははっ、しゅーくんのこと嫌いじゃないよ。ただ可愛いなって思ってるだけ」
     意地の悪い先輩に当たったって仕方ない。気持ちを切り替えて、仕事の準備をする。
    「プロデューサーが帰ってくるまで、今日の配信の流れを確認しておきましょうか」
    「そうだね。じゃあ、この子にも参加してもらおうか」
     百々人先輩はさっき鋭心先輩に渡されたぬいぐるみをテーブルに置く。重心が下にあってしっかりとお座りが出来るぬいぐるみだから、なんだかまるで先輩がいるように感じられた。
    「この子、きちんとお座りが出来るんだね。寄りかからせるものとか必要かなって思ったけど、大丈夫そう」
    「本当にこれを出すんですか?」
    「えーしんくんの代わりだから。ファンのみんなも喜んでくれるはずだよ」
    「そうだといいですけど」

     配信が終わり、帰路に着く。半ば強引に鋭心先輩のぬいぐるみを押し付けられた俺は、せめて袋に入れさせてほしいと、山村さんに事務所にあった紙袋を貰ってそれに入れた。
     手にぶら下げたそれを覗くと、歩く振動で揺れながら、先輩のぬいぐるみは無表情のままいた。
    「ちょっと可愛いかもしれない…」
     配信中の時間を一緒に過ごして愛着が湧いたというか、やっぱり大好きな先輩を模したものだと思うと愛おしさが生まれる。これはぬいぐるみだから意思はないけれど、先輩は先輩だ。これから本物の先輩が帰ってくるまで、俺と一緒にいてもらおう。
     家に着き、机に座らせてやる。やはりちょこん、としたサイズではないから存在感がある。じっと俺を見つめてくる目は本当に先輩にそっくりだった。
    「可愛い」
     頭を撫でると、被っていた帽子がずれた。初めて気が付いたけど、どうやらこの帽子は取り外しができるようだった。
    「へえ、ディテールしっかりしてるじゃん」
     持ち上げて全身を隈なく見ると、どうやら衣装も脱がせることができるみたいだ。後ろにマジックテープで留められている。それを外すと、肌色の布が出てきた。
    「え…いや、裸…」
     上着を脱がせて、ズボンにも同じように付いているマジックテープを外すと、ぬいぐるみの鋭心先輩は靴を残して全裸になってしまった。
    「癖じゃん…エロ…」
     ぬいぐるみ相手にどんな感情だよとセルフツッコミしつつ、まじまじと先輩を見る。アホらしいけど、昨日の先輩との行為を思い出してしまった。
    「(ぬいぐるみの先輩にこんな気持ちになるなんて…)」
     これ以上はいけないと思って、急いで衣装をぬいぐるみに戻した。
    「落ち着け、これはぬいぐるみだから」
     悶々とする気持ちをありったけの理性で押さえつけて、衣装を纏わせる。すっかり元に戻った先輩のぬいぐるみの表情はどこか誇らしげに見えた。
    「着せ替え要素があるのか…もしかして、他の衣装とかを着せられるのかな」
     気になって、俺はスマホでこのぬいぐるみと同じシリーズのレビューを調べる。どうやら、非公式のカスタムだけど着せ替えのグッズがあるようだ。ニュース記事やSNSにそれらが紹介されていた。
    「へえ…面白そう」
     しばらくネットの海を調べていると、ぬいぐるみのサイズにピッタリな衣装を何種類も売っている通販サイトにたどり着いた。コスプレのような衣装から、普段着のようなものまで幅広く取り扱っている。好奇心から、俺はいくつか購入してみた。発送は早いらしく、明後日には家に届くようだ。楽しみに待ちつつ、この日は鋭心先輩のぬいぐるみと一緒にベッドに入った。
     翌朝、学校へ行くから鋭心先輩のぬいぐるみはお留守番というカタチを取らせなくてはならない。少し悲しそうな表情に見えて、後ろ髪を引かれるが心を鬼にして部屋を出た。

     待ちに待ったものが届いて、俺はクリスマスプレゼントを貰った子どものように、はしゃいで荷物を開封した。手のひらに収まるほどの衣装が数点、とても丁寧に梱包されていて、いい業者を引けたと心から喜んだ。
     早速ひとつ開封して、鋭心先輩に着せ替える。カジュアルな、鋭心先輩が着ているような私服風の衣装をまとったぬいぐるみ。帽子は外してやる。靴は縫い込まれているから変えられないのは仕方がない。着せ替えたぬいぐるみをテーブルに乗せて色々な角度から写真を撮ってあげた。
    「鋭心先輩可愛すぎる。こっちの衣装も着てもらおうかな…」
     俺はもうひとつ開封する。それはコスプレ衣装にカテゴライズされるものだった。黒のワンピースに白いエプロン。いわゆるメイドさんのコスチュームだ。アクセサリーとして頭に付けるフリルのカチューシャが付いていた。
    「…先輩、着てくれますよね?」
     意思のないぬいぐるみにひとり尋ねる。当然返事は返ってこない。俺の指が先ほど着せた私服を脱がせて、メイドさんの衣装を着せていく。相手はぬいぐるみなのに、初めて衣装を脱がせたときの興奮が蘇ってきた。心臓がドキドキと高鳴っている。
     清楚な黒いワンピースを纏わせて上にエプロンを身に着ける。頭にカチューシャを載せて、着替えは完了だ。仕上がった鋭心先輩のビジュアルは完璧で、鋭い視線が厳しいメイド長のようだった。
    「先輩この格好似合いすぎでしょ…ヤバすぎる」
     ぬいぐるみを持ち上げて出来栄えを堪能する。持ち上げてスカートの中を覗き込んだときに、生々しい肌色が見えてしまった。この素体は衣装を脱がせば全裸になってしまうから、次はパンツを買ってあげようと強く誓った。
     ひとしきり無言で舐めまわすように見つめて、心を落ち着かせようとテーブルに置く。先輩が可愛く写るように角度を変えて何度も無心でシャッターを切る。画像フォルダはあっという間に鋭心先輩のメイド姿でいっぱいになった。
    「可愛すぎる」
     画像と本物を見比べながら幸せな時間を享受する。そんなことをしていたら、突然のメッセージ通知にびっくりしてしまった。
    「うわっ…!」
     焦ってタップしてしまい、変な場所を押してしまった。誤操作でトーク画面に先ほど撮影したぬいぐるみの写真が流れていってしまう。慌てて取り消し作業をしたけれど、相手がまだ開いている状態だったみたいで、既読の文字が付いていた。
    「最悪だ…」
     誰だったか、トップを確認すると、まさか一番見られてはいけない人に送ってしまっていた。
    「鋭心先輩…」
     まずい。着替えさせたぬいぐるみの写真を送って、絶対に気持ち悪い奴だと思われた。トーク自体はすぐ取り消したけど絶対に見られてた。
     新しいトークが来た音がした。見れば、鋭心先輩から『さっきの画像、すぐに消えてしまったがどうした?』と書かれていた。
    「え、もしかして見えてない?マジか」
     希望を抱いて先輩に『間違えて関係ないものを送ったので消しました』と送った。すぐに『そうか』と返ってきた。
    「セーフ…よかった」
     見られていなかったことにほっとして先輩のぬいぐるみを撫でながら、鋭心先輩が最初に送ってきたことに対して返事をした。
    「みんな元気ですよ。俺は早く先輩に会いたいですけどね…と。先輩に会いたいな」
     ロケに発ってもう三日以上経ってから、ようやく鋭心先輩から近況報告が送られてきた。俺と百々人先輩、プロデューサーは元気か?なんて、俺に聞かないで本人に聞けばいいのに。俺にはもっと違うことで話をしてほしい。
    「先輩は寂しくないですか?…って、鋭心先輩はそんなこと言わないか」
     その文字を送ってから、自虐的になる。鋭心先輩から一度も寂しい、なんて言葉は聞いたことはない。出会ってから、これだけ時間を空けて会わないのは初めてだから聞くことなんてなかったし、なにより先輩のイメージから想像ができない。
     ぬいぐるみを抱き寄せてテーブルに寄りかかると、突然着信音が鳴った。発信元は鋭心先輩だった。俺は嬉しくてすぐに通話ボタンを押す。すると、画面に鋭心先輩の顔が映った。
    「先輩、急にどうしたんですか?」
    『秀の顔が見たいと思って…ダメだったか?』
    「ダメじゃないですけど、ビックリしました」
    『そうか。よかった。その…寂しくないか、というお前の問いに答えたくて』
     画面の向こう側の先輩は少し弱々しく感じた。
    「もしかして、先輩も寂しいって」
    『ああ、そう感じている。秀の顔を見て、声を聴きたかった。だが今はもうそう感じない。こうしていれば秀がそばにいるからな』
     優しい顔で俺に微笑みかけてくれる先輩は天使のようだった。それが良すぎて思わずスマホを投げてしまい、ドンっと音とともにテーブルから落ちる。俺は興奮を抑えようとぬいぐるみを抱きしめた。
    『秀?どうした?すごい音がしたし何も見えないぞ』
     テーブルの下から不安そうな先輩の声が聞こえる。慌てて拾い上げた。
    「すみません。手が滑って」
    『そうか。急に心配した…ぞ』
     改めて画面に映った先輩の表情は、今度は不思議そうな顔をしている。
    「どうしたんですか?」
    『秀のその腕に持っているのは俺か?」
    「へ?」
     先輩の指摘した先に視線を移すと、そこには興奮を鎮める為に抱きしめた先輩のぬいぐるみがあった。
    『大切にしてくれているようだな…だが、俺はそんな衣装を着ていたか?』
     先輩は当然の疑問をぶつけてくる。俺はどう答えればいいか咄嗟に考えた。
    「いえ、俺が衣装を買って着替えさせました!」
     言ってから、素直に話してどうするんだよ!と自分で自分にツッコミを入れる。絶対にヤバい奴だって思われてる。ぬいぐるみを画面外に置こうとすると、待てと言われた。
    『よく見せてくれ。もしかして、さっき送ってきた画像か?』
     その言葉で俺は終わったと思った。やっぱりさっきのやつは見られていたんだ。答えない俺を見て、鋭心先輩はどうなんだ?と言う。詰められているようで心が痛くなった。
    「すみません…俺、先輩のぬいぐるみで遊んでしまいました」
    『そうだったのか』
    「ヤバい奴だって思ってますよね。先輩のぬいぐるみにメイド服を着せて楽しんで…」
    『秀が楽しいならいいんじゃないのか?』
    「へ?」
     意外な返答だった。ぬいぐるみとはいえ、自分がいいように遊ばれているのが気持ち悪くないのか。先輩は大らかすぎる。
    『俺はそいつを代わりに、と置いていったんだ。それを秀がどう扱おうが構わない』
    「鋭心先輩…」
    『だが、』
     鋭心先輩の視線がまっすぐに俺に向く。
    『そこまで愛されていると、自分の代わりだが妬けてくるな。早くお前と直接顔を合わせたいよ』
    「俺だって、生身の先輩に早く会いたいです!」
    『もう少しだ。あと少しでロケが終わる。帰ってきたら、そいつ以上に俺を愛してくれるか?』
     少し照れたように俺をみつめる。その顔は反則すぎる。今すぐにでも先輩に会いたい。
    「早く戻ってきてくださいね!俺、絶対この子より生身の先輩のことを愛するんで!」
    『そう言ってくれるのは嬉しいな。あと数日、待っていてくれ』
     それじゃ、と通話を切る先輩。すぐに『おやすみ』とトークが飛んできた。
     スマホ越しだけど鋭心先輩を摂取できてすごく嬉しかった。抱いていたぬいぐるみをテーブルに置く。
    「早く会いたいな」
     ぬいぐるみの頬をつつく。変わらないはずの表情が少し笑っているような気がした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works