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    オレオクラッシャー

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    #ヒーローズ・シンドローム

    プロローグ

    ヒーローズ・シンドローム…或いは英雄症候群。現代に蔓延した奇病の名だ。
    感染経路も原因も不明、治療法はおろか予防法すら確立されておらず、それどころか患者同士の共通点すら碌に発見されていないなどと、その実態は全くもって解明されていない。
    確かなのは、

    一つ、発症すると異能が発現すること。

    そして、

    病状が進行した患者は意思の無い怪物と化すこと。

    全く傍迷惑な病だ、と路面電車の線路の上をかつかつと革靴の底を鳴らしながら歩く長身の男は、一つに結った黒の長髪を靡かせながら顔を顰めた。視線の先では現在進行形で異形の怪物が暴れている。男は気怠げな顔で溜息を吐いて、怪物を見据える。
     男が片腕をゆるりと上げて怪物を指すと、一際強い風に煽られて空を覆う闇のように拡がった黒髪が突如意志を持った様に蠢き始めた。それは忽ち一束に収束し、定められた照準に向けて漆黒の槍を形作ると、
    「…貫け」
    男の呟きと共に怪物の腹を穿いた。

    怪物の残骸を英雄症候群対策研究課(通称英研、何時見ても気が抜ける略称だ)に引き渡すと、男はまた憂鬱そうに溜息を吐いた。
    この国において、市井の民間人が怪物に太刀打ちする術は無い。かと言ってただの人間を軍事部隊として育て上げ国中に派遣するには何もかもが足りない。そこで駆り出されるのが異能者達、つまりは他の患者達である。…毎度の事ながら巫山戯た話だ。
    最も、発症者に人権が無いのは今に始まったことでもない。そもそも怪物予備軍である発症者達は基本的に政府に身元を管理されているのである。
    発症が確認されると、まず奪われるのは名前だ。本名を名乗る事が禁じられている訳では無いが、それがかつて示していた個人証明の効果は全て与えられた患者番号に移る。患者達はお互いの番号や能力からの渾名を通称として呼び合うことが今日での通例となっている。
    同時に奪われるのは職と住処だ。異能が発現し、英雄症候群を発症したと認められた者は原則的に対怪物の戦闘員として徴用され、各地に点在する患者のコミュニティエリア(明確に区画が設定されている訳では無いが大方近辺の患者は一箇所に纏められる)に居を移す事となる。とは言え戦闘に向かない異能を発現する患者も多少は存在するので、必ずしも患者全てが戦闘員という訳でも無い。
    立場上は国家公務員の様なもので、怪物退治も仕事である以上報酬が発生する。給金自体は悪くない…どころか一般市民よりは充実した生活を送れるような額だ。しかし、命の危機と背合わせの生活を突如強いられる羽目になった身としては到底それで釣り合うものでは無い。
    かくいう男も当然異能者…患者である。能力は先程見せた通りの頭髪操作、患者番号は六十六。通称は、
    「ロロ」
    男改めロロは、突如自分の名を呼んだ声に驚き振り向いた。
    「…って、君のことで合っているかな?」
    声の主は、金色の髪と同じ色の瞳をした、空色のパーカーと赤いヘッドホンを身につけた、齢せいぜい十五程の少女だった。彼女は呆気に取られるロロに続けて言う。
    「私はソラ。今日から君とコンビを組む、君の相棒だよ。よろしくね!」
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