病院よりも退屈なところ 夏休みが嬉しいのは、シリウスと会える機会が増えるからだ。仲間が嫌いなわけじゃないけど、シリウスは、あまりBar Fに寄りつこうとしない。誘えば来るし、話すけど、自分からはこちらへ来ようとしない。休みなら、朝から会える。
あれから会えるなんて思ってなかったから、それでもいいけど。
「カレー、食べていかないんだ」
「毎食毎食あれでは飽きがくるだろう」
僕の横を歩くシリウスが、ちらりとこちらを見た。
みんなと仲直りをしてからのシリウスは、僕が知っていた頃からも、敵対していた頃からも違う。なんだか少しだけ子供がえりしたような、そんな気がしている。言ったら怒られそうだけど。
「聞きたいことがある」
いきなり立ち止まるシリウスにぶつかりそうになる。
「なに?」
「あのとき、何か話したのか」
あのとき。できれば知らないふりをしたかった。あの暗闇の中で見つけた鍵穴。そのむこうにいた、あの人のことを。
(病院より退屈なところね。ここは。死んだら自由になれると思っていたのに)
それは僕も同じだった。
(後腐れないように、手ひどく振ってやったのに、まさかこんなことになるなんて、本当、バカみたい)
そうなんだ。僕も、本当にバカみたいなことをしたんだ。
(同じバカどうし、気が合うわね)
僕は、あなたとは気が合わないと思う。
(まあそう言わないでよ。わたしもさっさとこんなところ出て、新しい男でも)
そこで、この人は言葉を切った。口調の硬さに気づく。この人は、シリウスを解放してあげようとしているんだ。僕は気づかないふりをする。
(あなたと何を話したか、あの人には伝えないで)
あの人はそう言った。
「何も」
僕は答える。
「そうか」
こちらを見ずに、シリウスはつぶやいた。