屋上で「屋上で歩照瀬が何やらよからぬことをしているという噂が立っている。全く、これだから火焔族は…」
誰に対しても丁寧なくせに、焔にだけはどうしてああなんだろうね、と樹果は蘭丸に話しかけたが、「えー。そうかなあ」といつものように曖昧な返答が戻ってくるばかりだった。
俺と蘭丸まで連れてくるってことは、やっぱりうるうは、焔のこと怖いのかな。屋上への階段を上りながら樹果はそう思った。
「鍵を持ってくる必要もなかったな」
言いながら、うるうが扉を開けると、初夏の風でうるうの長い髪が乱れる。
うるうが顔をしかめる。その視線の先に、寝転がっている焔の姿があった。
「起こす?」
樹果の問いに、うるうは黙って首を振る。寝息を立てている焔の傍を、忍者さながらに息を殺して通り過ぎる。
樹果が溜息をつく。
「なんだ、こんなことなら俺に相談してくれればいいのに」
そこにあったのは小型のプランターがふたつ。ちいさな植物が鮮やかな緑を見せていた。
「違法の植物か何かじゃないだろうな」
「それはない。ハーブだよこれ」
「陸岡が言うなら、そうなんだろうな」
うるうと樹果の話し合いを尻目に、蘭丸は大きなあくびをして、焔の傍に座りこんで眠りだした。
「……え、おい何だこりゃ!」
焔が目を覚ましたようだ。日差しのせいか顔が赤い。
「風紀を乱す生徒を注意しにきただけだ」
言い捨てて、うるうは一人屋上をあとにした。
ギスギスしてるの苦手だから、うるうが去ってくれてよかった。つられて樹果もその場を立ち去ろうとしたが、焔にバジルの育成について助言すべきかどうかわからないままでいた。