たったひとよの薔薇のため 子供の頃、絵のコンクールに一回だけ入賞したことがある。そういうと、樹果は意外そうに目を見開いた。
「もっといっぱい賞とか取ってるのかと思ってたよ」
美術の授業は写生なので、皆それぞれ思い思いの場所でイーゼルを立てて、課題に取り組もうとしている。
「それからはコンクールに絵を出していないからね」
「じゃ入賞したときしか、絵を出してないんだ」
「そういうことになるな」
樹果は、僕の絵と顔を交互に見てから、
「百発百中じゃん、やっぱりうるうくんはすごいね!」
そう言って笑ってみせた。
あのコンクールの絵は、どこに行ってしまったのだろう。誰かに片づけられ捨てられてしまったのか。
罰なのだと思った。現実にありもしないことを描いて、絵で嘘をついて、一等賞を貰ったことに対しての。
おかあさまの笑った顔を、僕は見たことがない。おかあさまは暖かく優しいものと、みんなが言っていたり、絵本で描いてあったりするから。見たことのないことを描いたりするから、僕がおかあさまをあんな目に遭わせてしまったと思い込んでいた。おとうさまは、そうではないと経緯を説明してくれた。
違うんだ。僕は本当に知らなかったんだ。僕とおかあさまの髪の色だから、薔薇の色を青にしただけで、青い薔薇が不可能を意味するなんてあのとき知っていたら、絵の中のおかあさまに青い薔薇の花なんて絶対に握らせなかったのに。