「陛下に謁見の取り次ぎを願いたい」
アベラルドがそう言うと、テオは怪訝そうな顔で首を傾げた。
「直接時間を貰えばいいだろう?」
テオが右手を持ち上げてソファに座るよう促すも、アベラルドは執務室の入り口すぐそばに立ったまま、はっきりと首を振った。
「それでは意味がない」
「……陛下に何を言い出すつもりだ」
それは、問いかけではなく威圧であった。ひそめられた眉の下、静かな、けれど臓腑をぐっと掴むような低い声でテオに凄まれる。
アベラルドはその様子にほのかな安堵を覚え、思わずふっと表情を緩めた。
帝国皇帝の訪問を直近に控え、王室の緊張もいやが上にも高まっている今、王国騎士としての誇りを燃やすテオと、こうして対峙している。子どもの頃の自分が知ったら、どれだけ羨むだろう。
「アビー?」
「姫と結婚したいんだ」「は」「その許しを、陛下から得たい」
呆気に取られるテオにアベラルドは畳み掛ける。
「だからまず、お前に認めてほしい。私が、姫に。相応しい男だということを」
「別に俺の承認なんか……要らないだろう、そんなの」
「欲しいのは承認ではない」
アベラルドは穏やかに首を振る。
「陛下に結婚の許しを得るときに、私の味方になってほしい。傍観者ではなく――祝福する者として、テオ、お前に、そこにいて欲しい」
眇められたテオの目が、繊細に睫毛を揺らして、アベラルドを見つめる。
「……レティの同意はあるのか? お前とリーゼロッテ殿との婚約は? それに第一、ゲラルト陛下からの申し出はどうするつもりだ」
「ゲラルト陛下は縁談を撤回すると仰ってくださった」
「は、はあっ!? いや、どうやって――」
「リーゼロッテ殿との話は……ほぼ既定路線ではある。だから、先に姫との結婚を決めてしまいたい」
テオは広げた右手で俯けた顔を覆い、その指で眉間の皺を撫でた。突拍子なく聞こえているであろうアベラルドの話す内容を、なんとか咀嚼しようとする声にならない声が、くぐもったまま霧散せずにこちらまで届く。
「レティの、同意は。それがいちばん大事だ」