猫の名は?② 午前2時。
そろそろ良い頃合いだろう。
愛しい杏寿郎は夢の中。
温かい腕に抱きしめられていた珍しい模様の猫は金色の目をキラリ、と光らせニャアと鳴く。
そして一瞬で人の姿になった……。
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2週間ぶりなんだ。
この姿になったのは。
我ながらよく耐えたと思うぞ?
記念すべき初夜(初めて添い寝した夜)に我慢できず猗窩座は暴走し「もう、俺が良いと言うまで君は人の姿になるなっ!」と煉獄を本気で怒らせてしまった。
杏寿郎は猫が好きだ。
猫の俺にはとても優しい。
猫の俺は甘やかしてくれる。
猫の姿ならどれだけ舐めても怒らなかったのに。
毎夜、煉獄の腕に抱かれて眠る猫(猗窩座)
いや、猗窩座は眠れない。
生殺し状態で猗窩座が眠れるわけがない。
猫じゃなくて、人の姿になって杏寿郎を抱きしめたい。
杏寿郎を舐めたい。
杏寿郎を愛したい。
杏寿郎が寝てる時なら、いいんじゃないか…?
猗窩座はもう限界だった。
午前2時ちょっと過ぎ。
愛しい杏寿郎はもう、深い夢の中。
朝までに猫に戻っておけば大丈夫だ。
荒くなりそうな息を抑えながら、猗窩座は煉獄に顔を近づけ…………
「おい。君、どうして人の姿になってる……良いと言った覚えが無いのだが?」
「なっ!きょっきょっ…きょうじゅっ…ろっ……お、おきてっ……!?」
「さっきからハァハァハァハァと、煩い君の息で目が覚めた」
完全に起きてしまった煉獄の心底冷たい視線に猗窩座は震えてしまう。
「で?君は、なぜ勝手に人の姿になっている…早く猫に戻れ」
「うぅ…杏寿郎っ寝る前はあんなに優しかったのにっっ」
「それは君が猫だったからだ」
猫に見せる優しい笑顔は何処へやら。
今の煉獄は冷たいを通り越して、もはや絶対零度だ。
「つれない…つれないぞっ杏寿郎っ!嫁になるって誓ってくれたじゃないかっ!!猫に向ける愛情を少しは人の姿の俺にもくれたっていいだろうっ?でもそんな杏寿郎もたまらんっっ優しさと冷たさで俺を翻弄する小悪魔め…っ♡」
「…………言いたいことはそれだけか?」
訴えも虚しくベッドから蹴り出されてしまった。
今は真冬。
しかも、よからぬ事をしようとしていたので。
つまり猗窩座は…真っ裸なのである。
「さっ寒いっ…猫は寒がりなんだぞ!手足がこのままだと冷えてしもやけになってしまうっ凍えるっ…!俺…っ凍えてしまうぞっっ杏寿郎〜っっ!!」
「ならば早く猫になれ。猫になったらベッドに入れてやるが?」
妖艶に微笑んで、狡い提案をしてくるなんて…さすが杏寿郎。
そんなところも大好きだ!
俺を翻弄する小悪魔めっ♡♡
「わ、わかった!でもその前に…名前をっ俺の名前を呼んでくれっ!」
「……呼んでるだろう?」
「猫の時じゃなくてっ!今、俺の名前をちゃんと呼んでほしい。できれば猫にする時みたいに…とびっきり優しくお願いしますっっ!!」
真っ裸でお願いとは情けなさの極みだが、猗窩座は必死だった。どうしても、人の姿の時に名前を呼ばれたいのだ。
もう形振りかまっていられない!
これだけは絶対に譲らんっ今、杏寿郎が俺の名前をちゃんと呼んでくれるまでは…っ!!
「…呼んだら本当に大人しく猫になるんだな?」
「もちろんっ!男に二言は無いぞ杏寿郎っっ!!」
「仕方ないな。いいだろう……」
煉獄は必死すぎるお願いに呆れながらも頷き、猫に見せていたとびっきり優しい微笑みを初めて猗窩座に向けた。
「そんなに寒いのなら、朝まで温めてあげよう…猗窩座……」
「猗窩座…どうした?頬が赤いな…」
「それ以上冷えてはいけない…早く猫になって…こっちにおいで猗窩座…?」
これは……杏寿郎も悪いと思う……。
だってこんな。
甘く微笑んで。
甘く呼びかけて。
甘い、甘い声でこっちにおいで…なんて。
暴走した俺に身体中舐め回されても仕方ないと思うぞ?
「お、おい…っあかざぁ……っ!男に……二言は無いんじゃっ…なかったのかっっ!?」
「杏寿郎………俺、猫だから♡」
「……っ!?こ、このっ変態猫もどきめ…っっ!」
そして振り出しに戻る………。