文化祭の莇九SS「泉田〜かわいい彼女がご来店だぞ〜」
クラスメイトのからかうような声に振り返れば、教室の入口に大きく手を振る九門の姿があった。
もういちいちツッコむのも面倒で、周りの奴らが九門のことを彼女と呼ぶのをそのまま受け入れてしまっているが、少なくともお前は女じゃないことくらい主張したらどうだと考えてしまう。まあ、なんだかんだ嬉しそうに笑う九門がかわいい、と思っているのだが。
「えへへっ莇びっくりした?」
「もうすぐ来る頃だなって思ってたから別に驚いてねぇよ」
「え! 莇オレが来るタイミングわかってたの!? エスパーじゃん!!」
「なんとなくだよ、なんとなく。恥ずかしいから大声で騒ぐんじゃねぇよ」
そういうと慌てて両手で口を押さえながら周りをキョロキョロ確認している九門。
その姿にキュンとしてる俺も末期って感じだが、付き合い始めた時に腹をくくったのだから、九門を愛しいと思う気持ちをもう誤魔化したり我慢したりしない。
そう考えている間に、九門が俺の腕を引っ張った。
「莇のクラスメイトがもう店の担当時間終わったって言ってた! だから一緒に文化祭回りに行こう✨」
グイグイ手を引きながら、俺の返事も聞かずに教室を飛び出す九門。
教室をちらりと見れば、クラスメイト達が微笑ましそうに手を振っているのが見えた。
恥ずかしさが溢れてくるが、繋がれた手は繋がれたまま、先を歩く九門をただひたすら追いかける。
いつだって俺の手を引いて導いてくれる九門。
いつもありがとうとか恥ずかしくて言えねぇけど、ちゃんと伝えられる男になれるまで、俺はこの手を離せないし離すつもりもないんだ。
(今度はこの腕を俺が引っ張って、導いて、そしてありがとうと好きだって気持ちを伝えられるようになるから)
振り向く九門の嬉しそうな顔を見て、俺は改めて心に誓いながら笑い返した。