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    熟成倉庫

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    ギャグルイツカ。
    恋する相手である類に、「君の恋を応援する」と言われた司の話。

    類がいつも通り可哀そうな役回りです。

    #類司
    Ruikasa

    恋の応援1・2・3!「好きな人がいる」

     から、すまない。気持ちは嬉しかった、ありがとう。
     
     そう、きっちりはっきり伝えると、目の前の緊張しきっていた少女は力が抜けたように肩を落とした。……悲しませてしまったかもしれない。
     そう思って、いつの間にか俯いていた顔を上げて彼女の表情を伺うと、予想と違う、思いの外すっきりとした顔をしていた。

    「天馬くん、真剣に聴いてくれてありがとう。天馬くんが好きな人とうまくいくように、応援してるね」

     少し目を潤ませて、でも花が綻ぶようなきれいな笑みを浮かべて。

     ――応援してる、か。

     少女の言葉に胸の奥がじんわりと温かくなった気がする。告白を断られて悲しいだろうに、相手を思いやる言葉をくれた。優しい子なんだな。
     ひゅうと爽やかな風が屋上に吹きつける。空は綺麗な真っ青で、雲一つない。



     それじゃあ、と別れを告げて去って行く少女。ぼんやりと見送るオレ。そんな告白劇を図らずも目撃した人物がいたのだった。





    「……司くん、好きな人がいるの」

     ワンダーステージでの練習後、更衣室で二人きりになったタイミングで類が口を開いた。目を伏せて、こちらに顔も向けず、ワイシャツのボタンを留めながら。
     はて?
     今の今までショーの話ばかりしていて、ちょっと沈黙があったと思った矢先の話題がこれ。
     予想だにしていなかった質問にオレが固まっていると、隣にいた類はバツの悪そうな顔で謝った。

    「いや、ごめん。聞く気はなかったんだけど、昼休みの、偶然聞いてしまって」

     ごめん、ともう一度謝って黙々とボタンを閉めていく。と思いきや、かけ間違えてもう一度やり直している。

     ――類の言う昼休みの、というのは大いに心当たりがある。今朝登校した際、下駄箱の靴の上にちょこんと乗っかっていた手紙。すわ、ファンレターか! と勢い込んで読んだものの、実際は昼休みの屋上への招待状だった。そして、告白。まあ大きなくくりで言えばラブレターもファンレターの一種だろう。好意であれば嬉しいことに変わりはない。
     しかし類に見られていたとは思わなかった。そういえばいつも屋上で一緒にランチを取っていたのに、今日は来なかったな。一人ランチの気分だったんだろう、と単純に思ったのだが、そうか。

     それよりも今の類だ。ようやくボタンを留め終えて今度はのろのろとネクタイを締めている。何度もノットを整える動き。お前、いつもはもっと適当だろうが。というかいい加減オレの目を見て話せ。

    「別に聞かれても問題ない。告白はされたし、好きな人がいると言って断った」
    「…………そう」

     無言。締められたネクタイを指先でずっといじっている。
     自分から話を切り出したから恋バナでもしたかったのかと思いきや、どうやら違うらしい。複雑な類心というやつだ。背中も丸まって、どこかしょぼくれている。
     さてどうしたものか、と横顔を見つめていると、ぐっと唇を引き結んだ類がゆるゆると顔を上げ、オレの方を向いた。いつもより色の薄い瞳が、てらりと照明を反射している。

    「……応援してるよ」
    「うん?」
    「司くんが、好きな子と、上手くいくように」

     にこっと笑って細まる目。下がり気味の眉。スッと背筋を伸ばせばいつも通りだ。さっきまでの動揺は何だったのか。
     ……とは言えオレの気分は高揚していく。何せ、何せだ。

    「ふっふっふ……。もちろんオレは恋にも全力を尽くす男だから、想い人と結ばれるよう努力するのは当たり前だ。それはそうと類の応援があれば百人力! ハーッハッハッハッハ!」
    「うん……頑張ってね」
    「もちろんだ、ありがとう!」
    「うん……うん……」

     壊れたラジオのように同じ言葉を繰り返す類と高笑いを続けるオレ。更衣室から出てこないオレ達を心配して様子を見に来た寧々は、至極面倒そうな顔をしながらえむの手を引いて出て行った。





     ――そう、オレ、天馬司の好きな子とはズバリ、神代類である! ライクも大いにあるが、ここで言うのはラブの方だ。
     そんなオレの恋を恋する相手に応援された。しかもオレの恋の成就を願っている。
     これって――もはや、恋人になる未来が確約されているじゃないか!
     好きな相手である類が協力してくれれば叶ったも同然。類はオレの恋が実ってハッピー、オレは類と恋人になれてハッピー。なかなか素晴らしい方程式だ。

     思い立ったら即実行、がオレの長所でもある。早速ロッカーに左手をあずけてかっこいいポーズを取り、一番決まった角度で類を見たというのに。
     やっぱり……何か、落ち込んでいる。
     類はまたもや肩を丸めて閉じたばかりのロッカーを睨んでいる。具合でも悪いのだろうか。

    「類、気分が優れないのか?」
    「いや……うん、そうかも……」
    「何!? ならば早く家に帰るぞ!」

     先ほどえむ(と着ぐるみ)が寧々を車で送ってくれたのだが、一緒に頼めばよかったか。というかこいつ、自分の不調を隠すのはやめろと散々言っているのに。
     急いで荷物をまとめてパッと類の手首を掴む。「司くん?」なんて戸惑った声が聞こえたが一切無視して更衣室を出た。類が道中で倒れたりしないよう、丁寧にエスコートせねばならない。
     握られた手をぼんやりとした目で見ていた類は、むにゃむにゃわからないことを言っていたが……よほど具合が悪かったのだろう。無茶をする奴め。





     さて、昨日は類を送るのに必死で機を逃してしまったが、恋人になるにはやはり告白である。
     ここでミソなのが、類はオレのことをまだ好きじゃないってことだ。そういう意味で。もちろんワンダーランズ×ショウタイムの座長と演出家として信頼し合っている自信はある。一番仲がいい友人だという自負もある。でもこればっかりは――恋愛は違うだろう。
     今の状態で告白したとしても混乱するのは必至だ。そう考えると昨日は勢い余って告白しなくてよかったのかもしれない……具合を悪くした類には悪いけどな。
     要はすんなりとオッケーを言えるような雰囲気作りが大事だ。よし、ドキドキさせまくってやる。

     昼休みのチャイムが鳴ると同時、隣のクラスに突撃すると、類は自分の席に座ったままぼんやりと前を向いていた。機械をいじってないのは偉いが、教科書も出していないじゃないか。

    「類、ランチに行くぞ!」
    「……司くん? あれ、もう昼休み?」
    「寝ぼけているのか? ……はっ。もしやまだ具合が悪いんじゃ……」
    「いや、大丈夫だよ。少し寝不足なだけだから、早く行こう」

     ぼんやりしていたのが嘘のように機敏に立ち上がると、机の脇に掛けていたビニール袋を手に取ってオレの背中を押す。と思いきや、すぐに手を離して「ごめん」なんて言う。一体どうしたんだ。
     挙動不審な動きをした類は、「何でもないよ」と言いながらスタスタと前を歩いていった。やはりまだ調子が良くないのかもしれない。
     類の体調にすぐ気づけるよう、よくよく観察しておこう、と思いながらオレも類の後を追いかけて屋上を目指した。



     神山高校の屋上は基本的に立入自由で誰でも利用できる。が、ここの所オレと類が入り浸っているせいか、他の生徒の影は見えない。元より変人かカップルくらいにしか使用されていなかった空間だが、今やオレ達の貸し切り状態である。
     いつも通りの定位置に座ってひとまずランチだ。隣からガサガサと袋を漁る音がする。菓子パンか……ゼリー飲料よりマシだな。野菜を食べるのは端から期待していない。
     もそもそとパンを口に運ぶ様子は、やはり元気が無さそうだ。ちまっと齧りついてはごくり。寧々の一口より小さいじゃないか、食欲が無いのか?

    「……司くん、見られると食べにくいんだけど」
    「お前が食べないからだろうが!」
    「ええ……そんな理不尽なことある?」
    「食が進んでいないから、具合が悪いのかと思ってだな。本当に無理していないのか?」
    「ああ……そっか、ごめんね」

     そう言って、また深くため息。謝ってほしいわけではないし、体調が悪いせいでもないなら、何か悩み事でもあるのだろうか。オレに解決できることなら、どーんと相談してほしい。相談してほしいから、些細な事も見逃さないようにまじまじと見つめる。
     類はあーとかうーとか唸った後、観念したように声を絞り出した。

    「ええと、司くんの恋模様は順調かい?」
    「お、おお!? 絶賛アタック中だぞ! 何だ、オレのことが気になっていたのか」
    「気になる……まあ、ある意味」
    「ふむ」

     類はオレの恋を応援してくれると言っていたし、余程気になっていたのだろう。意外に恋バナが好きなんだな。
     だがこれはオレにとっても大チャンス。この恋バナのビッグウェーブに乗って類の情報を聞き出すのだ!

    「ちなみに類はどんな人がタイプなんだ?」
    「……いや、僕のことは別に」
    「いいから話してみろ!」
    「はあ……」

     しばらく躊躇った後、諦めたように口を開く。

    「……笑顔がかわいくて、いつでも真っ直ぐで、心に強い芯の通った、ショーの大好きな人」

     一言一言、オレの目をじっと見ながら、言葉を紡ぐ。少し低めの、甘い声で。
     カーッと体の中が熱くなる。だって、だってだ。

     ――オレじゃないか!

     類の好み、イズ、オレ!! 参ったな、オレが完璧すぎる。努力せずとも理想の恋人像に合致してしまった。笑いを堪えるのが難しい。

    「むふふ……」
    「……ご機嫌だねえ。何となく正しく伝わっていないのはわかるよ」

     おっと、にやつきが漏れてしまった。頬をきゅっと指で押さえて角度調整をする。類の前ではいつでもかっこいいオレでいたいからな。
     類は少し目を細めて、にっこりと笑顔を浮かべた。

    「ちなみに司くんの好きなタイプはどんな人なんだい?」
    「オレか! オレのタイプは、笑顔がかわいくて、自分の好きなものには一直線で、ショーが大好きな人だ!」

     類に話を振られて思わずしゃべってしまったが、本人を前にして好きなところを並べるというのは、流石に恥ずかしいな。照れくさくて体がもぞもぞしてしまう。
     しかし今日はいい収穫が得られた。これからは類の好みを全プッシュした天馬司でアピールを仕掛けよう。ドキドキさせまくった暁には、オレの華麗なる告白にも二つ返事で了承するはず……ふふふ。

     などと輝かしい未来を想像していた横で類が難しい顔をしていたことなど、オレはさっぱり気づいていなかったのだった。





     翌日の登校時。道行く友たちと挨拶を交わしながら昇降口へ向かうと、背中を丸め、上履きに履き替えている長身が目に入った。類だ。

    「おはよう、類!」

     ショーで培われたよく通る声で朝の挨拶をすると、顔を上げた類とばっちり目が合う。どうだ、お前の好きなかわいい笑顔だぞ! おまけにウインクだっ。
     パチコンっとスターウインクを飛ばすと、類は眉を寄せつつ口元を緩ませるという何とも形容し難い顔をした。いいのか悪いのか評価がしづらいな。

    「おはよう司くん」

     返ってきた声にも覇気がない。流石にまだオレのことは好きにならないか。でも元気になってもいいと思うぞ、この天馬司だぞ?

    「今日もあまり元気が無さそうだな」
    「……ちょっと寝不足でね」
    「またか。前々から言っているが、体調管理は大切だぞ」
    「うん……」

     類は素直に返事をするものの、肩を竦めている。以前寝つきが悪くて眠りも浅いのだと零していたし、本人の意思ではどうにもならない所もあるのだろう。
     だがこのまま見過ごすこともできない。何かオレにできることはないだろうか……。

    「そうだ、今度寝落ち通話をしてみるか!」
    「寝落ち通話?」
    「咲希達がよくやっているらしい。友人と通話しながら寝るんだ。安心できてぐっすり爽快だと言っていたぞ」
    「うーん……遠慮しておくよ」
    「そ、そうか」

     ぬぐぐ……甘い声でおやすみ大作戦は失敗か。いや、こういう下心が滲み出てしまったのかもしれない。反省しよう。
     がっくりと肩を落としたオレを見かねたのか、類が頭をかきながら唸る。

    「ええと、司くんと通話したら眠気が吹き飛んでしまうよ。きっと僕ら、ショーの話ばかりしてしまうからね」
    「む。そう言われると否定できないな……」
    「フフ、それも楽しそうだけどね」

     そう言って徐に腕を上げ――慰めようとでも思ったのか、自然な仕草でオレの髪を耳にかける。ひんやりした指先が皮膚の上をくすぐって、思わず首を竦めてしまった。そんなオレを柔らかく細めた目で見てくる類。

    (う、うう~~っ)

     急な接触! この、この男の、こういうところが良くない、と思う。何てことない顔で触れてくるから、不意打ちを受ける方はたまったもんじゃない。
     勘違いする奴がいたらどうするんだ。懐かない猫みたいな男かと思いきや、けっこう距離が近いし、スキンシップも躊躇わない。顔もスタイルもいいから、将来は絶対に女性を泣かせまくるだろう。そうならないよう、未来のスターが手綱を握る必要があるのではないだろうか。
     今決めた正当な理論に則り、頭なでなでに移行していた類の右手を両手で捕まえる。そのまま己の頬へと手を滑らせて、えーと……そう、か、かわいい笑顔をくらえ!

    「つ、司くん?」

     ニコッと笑ったつもりだったが、照れが混じって変な顔になってしまったかもしれない。天馬司、不覚である。頬がじわじわと熱を持っていくのが自分でもわかって、八つ当たりの様に類の手の平を押し当てた。低い体温が火照った頬にちょうどいい。オレよりも少し大きくて、かさついた指先。
     ドキドキしながら見上げると、頬を赤く染めた類が。

    (お、おお……?)

     もしかして――もしかしなくとも、効果覿面なのではないだろうか。ま、まあ未来のスターの笑顔だしな、当然だよな?
     などと思いつつも、類の赤面がうつったようにオレの体温もますます上昇していく。バクバクと鳴る心臓を抱えながら、見つめ合ってしばし。

    「ワンツー邪魔」
    「公衆の場で不健全なことしないでくださーい」
    「どわーーー!?」

     どやどやと割り込んできたクラスメイト達にびっくりして、比喩じゃなく跳び上がってしまった。そんなオレを笑いながら「おはよー」と交わされる挨拶へ反射的に返す。皆がバタバタと靴を履き替える様子を見て、ようやくここが昇降口だったことを思い出した。

    「き、ききき、教室へ向かわねばな!」
    「えっと、うん、そうだね」
    「ハッハッハ! 今日も素晴らしい朝だなー!」

     誤魔化すように声を張り上げ、さっさと自分も靴を履き替える。俯きながら頬をぺちぺち叩いて温度を確認。よし、少しは赤さがマシになってるはず。
     類の方はといえば、いつも通りの柔和な表情に戻ってしまっていた。さっきまで動揺していたのが嘘みたいだ。照れ顔なんて珍しいから、ちゃんと目に焼き付けておくべきだったかもしれない。
     二人連れ立って教室へと向かうオレの脳内を占めるのは、いかに類をドキドキさせるかという難題だ。さっきは惜しかった。オレの方はこいつの無自覚な接触にいつもドキドキさせられているのだが……恋愛の駆け引きと言うのは難しい。
     とりあえず効果のあった“かわいい笑顔”で隣を歩く類を見上げると、何故か大げさなため息をついた後、頬をむにっと掴まれてしまった。ほい、いひゃいからやめろ。





    「……司くんは、その、好きな子に告白はしないのかい?」
    「こ……!」

     唐突な一言にオレの体は硬直してしまった。こ、こ、告白。
     平日の練習終わり、更衣室で着替えていた時の脈絡の無い、急な発言である。そりゃあ驚きもする。
     『こ』の形のまま固まってしまった口を指して、「ニワトリみたいだよ」と類が笑った。ええい、顎を撫でるな。

    「す、するぞ! するが……タイミングというものがあるだろう。せっかくならロマンチックに決めたいからな」
    「ふうん……ちなみに相手の子は司くんのことが好きなのかな」
    「好き……かどうかはわからんが、友人として好意はあると思うぞ」

     この友人としての“ライク”をどうやって“ラブ”に変えようか、というのが悩ましい所である。元々好みのタイプには合致しているようだし、ひたすらアタックするしかない。この間だっていい雰囲気になりかけたのだから、勝機はある。念波でオレのラブがうつったりしないだろうか。
     目に力を込めて類を見つめていたのだが、当の本人は下を向いて気づく様子が無い。

    「……きっと司くんならオーケーされるよ。僕が保証する」
    「ほ、本当か!」

     ぽつりと発された言葉に、リーンゴーンと脳内で鐘が鳴った。これ即ち、類と付き合えることを類が保証してくれるということ! ますます手応えを感じてきた。
     むふーっと荒くなりそうな鼻息を抑えつつ、どうやって告白しようかを考える。類はどんな時にドキドキするんだろう。どうせならかっこよく決めて、記憶に残る最高の告白がいい。

    「ちなみに類が告白されるならどんなシチュエーションがいいと思う?」
    「僕……僕は好きな人だったらどんな状況でも嬉しいと思うけど。物語とかだと、デート後とかが鉄板だよね」
    「なるほど」

     デート、デートか……。いつもと違うシチュエーションと言うのはドキドキしやすいかもしれない。オレのかっこよさが大爆発して、類もメロメロになるだろう。それにこいつ、爆発好きだしな。
     そうと決まれば綿密に計画を立てよう。さっさと着替えを済ませ、類達に別れを告げたオレは、脇目も振らず風の様に自宅へ帰った。



     ――その翌日。

    「類! デートに行くぞ!」
    「え?」

     先日同様、昼を告げるチャイムと同時に隣のクラスへ飛び込むと、机に突っ伏していた類がびっくりした様子で顔を上げた。また授業を聞いていなかったな。
     騒めいていた教室内が一瞬静かになる。

    「で、デート?」
    「ハッ! その前にランチだったな。ランチに行こう!」
    「ちょっと、ちょっと待って」

     焦ったような声と共に二の腕を掴まれた――と思いきや、優しく放される。心なしか血色の良い類が「コホン」と咳払いをした。

    「デ……そう、遊びにね、うん」
    「デートに行こうと誘っているんだが」
    「わかってるよ、君の言いたいことは。それで? どこか行きたいところでもあるのかい?」
    「ふふふ……植物園だ!!」
    「植物園?」

     きょとん、と不思議そうな顔をする類。こうすると大人びた顔つきが一気に子供っぽくなる。ううむ……もしや外してしまっただろうか。

    「お前、花とか好きじゃなかったか?」
    「好きだけど……」
    「よかった! せっかくなら類の喜ぶ場所に行きたかったんだ!」
    「う゛」
    「詳しい日時はランチを食べながら話そうじゃないか! ……類? るーい?」

     右胸を押さえたまま硬直してしまった類をツンツンつつく。このままだとランチの時間が無くなってしまうんだが……と思っていると、ようやく類が顔を上げた。「わかってる、わかってるよ……」と呟きながら。この短時間で衝撃的な大発見でもあっただろうか。

    「何を発見したのかはわからないが、デートに行くのは問題無いんだよな?」
    「……もちろんだよ」
    「ならばよし! さあ、優雅なランチタイムと洒落こもうじゃないか」

     ハッハッハ、と笑い声を上げながら弁当箱を掲げる。デートの約束さえ取り付けてしまえば、最早こっちのものだろう。気の無い人間とデートするような不誠実な男じゃないからな、類は。あとは当日に備え、最強の天馬司をコーディネートせねばなるまい。絶対に告白を成功させてやるぞ!
     浮かれ気分で教室を出る際、「神代くん頑張れ!」だの「勝機はあるぞ!」だの賑やかな声援が背後から聞こえてきた。何の意味かはわからないが……類もクラスに馴染んでいるようだ。二重に嬉しくなって、思わず鼻歌が漏れてしまった。





     そびえ立つはドーム状のガラスの建物。太陽の光を反射してキラリと光る。網目模様の隙間から、背の高い緑が遠目にも鮮やかに見えた。
     その入り口であるアーチ部分、上の方。『ウェルカム』のポップな文字と共に、一般的な花々とはどことな~く形状の違う植物のイラストが描かれている。ハッキリ言って毒々しい。そのイラストの横には、少しデフォルメされた虫のイラストが添えられている。
     そんな頭上を見上げながら立ち尽くすオレと、困ったような顔で笑う類。

    「……特別企画展、食虫植物のすべて……」
    「なるほどねえ」
    「こ、こんなはずでは……」

     ガラガラと足元が崩れていくような感覚に、思わず少しよろめいてしまった。
     ――今日は勝負のデート当日。おろしたての服はバッチリ決まっているし、先程のランチだって類の皿に乗っていた野菜をスマートに食べてやった。いや、これはいつもの事か。
     目的地までのエスコートも花丸完璧! だったというのに、植物園のテーマというのが、この……。

    「フフ、知らなかったみたいだね」
    「す、すまん。植物園の評判の良さだけ見て、詳しくは調べてなかったんだ……」
    「僕はすごく興味をそそられる内容なんだけど、司くんには厳しそうだねえ」

     そう言って入り口に視線を向けた類は、にこっと笑って「別の場所に行こうか」などとのたまう。待て待て!

    「いいいいや、せっかく来たんだ! 行くぞ!」
    「え? でも司くん大丈夫かい?」
    「る、類が楽しんでくれればオレは嬉しいんだ! 早く行こう!」
    「まあ、君がいいなら……」

     類は少し眉を下げて心配そうな顔をしているが、メインは植物である。苦手なヤツらがいたとしても、薄目で見れば大丈夫なはずだ。たぶん。
     当初のロマンチックな花畑で告白計画とはかなり違うが、せっかく類が興味を持ってくれているのだ。オレの好き嫌いで左右されるのも申し訳なくて、類の背中を押すように勢いよく入場口をくぐった。



     そう、覚悟を決めて入ったのだが――。

    「見てくれ司くん、中々立派なウツボカズラだよ。ポピュラーな種だから君も知ってるかな。この袋状になった底の部分に液体があるんだけど、虫を呼び寄せる蜜と消化液の役割を果たしているんだ。ここで虫を消化して内側から吸収していくんだよ。ちょっと失礼……わあ、いっぱい御馳走が中に――」
    「ぎゃー!! 実況しなくていい! 詳しい説明も求めてない!」
    「そうかい? あ、ハエトリグサもいるじゃないか。これも面白い見た目をしているよね。このトゲの並んだ平たい葉に昆虫を閉じ込めて、押しつぶして消化するんだ。養分を吸収し終わったら死骸を葉の外に捨てるんだけど……ほら、ここに」
    「ヒィィィイイ!!」

     ゾゾゾ~っと背筋に走る悪寒。やっぱり無理だ!
     視界からおぞましい物を消すため、サッと類の背中に隠れる。こいつだけが頼りだ、と思ったが、嬉々として解説するのも類なんだよな……。

     いざ行かん、と足を踏み入れた温室の中は湿気が多く、濡れた土のにおいで充満している。メインの食虫植物だけでなく、異国情緒漂う草木も周囲に植えられていて、熱帯雨林みたいな雰囲気だ。それぞれに詳細な解説看板も添えられていて、類はこういうの好きだろうな、と思う。
     翻ってオレ。こういう場所だからか、虫よけなんて物はもちろん無く、頭上を羽音が飛び交っている。このままでは心がすり減って無くなりそうだ。
     恐怖のドキドキを味わいながら背中にぴったり張り付いていると、身じろぎをした類が咳払いをした。

    「ええっと、ついつい反応が面白くて……じゃない。……ともかく詳細に話して悪かったよ。ちょっと場所を移動しようか」
    「うう~わかった……」

     類の提案をありがたく受け入れたオレは、ひしっと引っ付いたまま、ちまちまと出口を目指す。うう、この広い背中のなんという安心感。惜しむらくは、ボディタッチのアピールポイントだというのにトキメキを感じる余裕が無いことだ。
     温室から出て向かった先は、屋外にある常設展示のスペースだった。庭園のようなつくりの広場に、名前のわからない花々が植えられている。花弁が重なったボリュームたっぷりの赤い花は、けっこうオレの好みだ。類なら名前もわかるだろうか。
     ようやく背中から手を離したオレに振り向き、類が眉を下げる。

    「司くん大丈夫? ごめんね、僕ばかりはしゃいでしまって」
    「い、いや、オレのせいで類に迷惑をかけてしまった。すまん」
    「そんなことはないけど」
    「そう言ってくれるのはありがたいんだが、さっきのやつ、類は楽しかったんだろう。オレはここで待ってるから戻って見てきてもいいぞ」
    「うーん……」

     幸いなことに入園料を払っていれば今日一日は出入り自由のため、先程の企画展にも戻れる。オレが騒いだせいで展示品のほとんどを鑑賞できていないし、類が楽しく過ごせるならその方がいいと思って提案したのだが。

    「それはいいかな。せっかく司くんと遊びに来たんだし、一緒に同じものを見る方が僕は嬉しいよ」
    「そ、そーか……っ」

     ふわりと微笑みを浮かべた類の、この一言。ほわっと優しく包み込むような、この笑顔。こんなきらめきを食らったら、老若男女、誰だろうとハートを撃ち抜かれてしまうのではないだろうか。
     この誑し人間め、と毒づきつつも己の頬がふにゃふにゃと持ち上がるのを止められない。好きな相手に一緒にいたいと言われてしまえば、浮かれても仕方ないよな。
     にやつく顔を誤魔化すために頬をぷくぷく膨らませていたら、類が「お餅みたいだよ」と笑ってツンツンつつき回してきた。やめろ、オレの心を揺さぶらないでくれ。
     類の手から逃げるように奥の方へ足を進める。温室ではかっこ悪い所を見せてしまったが、まだ挽回できるはずだ。あの小さな池なんて、雰囲気があってロマンチックなんじゃないか?

    「司くん、この時期の水辺は虫も寄りやすいから離れた方がいいよ」
    「うぐぐぐ……」

     ……所詮オレの考えなど浅はかである。
     類に促されるまま少し外れにあったベンチへと向かい、隣り合って座る。拳三つ分ほど開いた空間がもどかしい。オレはこの距離を縮めて、気兼ねなく触れ合える関係になりたいのだ。しかし――。
     ちらりと類の横顔を見る。ぼうっと遠くを見つめていたようだが、オレの視線に気づいてニコッと微笑んだ。でも何か……言いたいことがあるような、気持ちを抑え込んでいるような気が。

     今日は――やめた方がいいかもしれない。

     デートで類をドキドキさせるはずが、失敗続きで、類に気をつかって貰ってる。空回りしまくる、そういう日なのだ。
     一度そう決めると、自然とため息が口から漏れた。知らず知らずのうちに体に力が入っていたみたいだ。
     もっとかっこよく決めて、もっともっと好きになってもらって、告白した時に類が躊躇いなく返事ができるくらいになろう。それまでもう少しお預けだ。花畑の中で告白大作戦、ロマンチックだと思ったんだが。

    「はあ……告白って難しいな……」
    「え?」
    「ん?」
    「今、司くんが告白って」

     告白……んん!?

    「え、いや、その~。何と言うか……」

     気が緩みまくっておまけに口元も緩んでしまっていたらしい。誤魔化そうとあちこち視線を飛ばして言い訳を考えてみるが……ええと……何も思いつかない!
     告白する相手に告白しようとしていたことを気づかれる、なんて格好がつかない話だ。どうにかこのピンチを切り抜けられないか焦っていると、ずっと黙っていた類が静かに口を開いた。

    「……もしかして、これって告白の練習だった?」
    「へ?」
    「好きな子に告白する前の、予行演習みたいな」
    「んん~?」
    「……そっか」

     オレが驚きでフリーズしている間に、類の肩がしょんぼりと下がっていく。あんなに頼もしくて広かったはずの背中が小さく見えるほどに。
     類の言葉がまったく理解できない。練習だのなんだの不思議な単語が聞こえたが……変な勘違いをしていることだけはわかる。かっこ悪いとか恥ずかしいとかを置いといて、今この瞬間、どうにかして誤解を解かねばならない気がした。

    「る、類、そのだな……」
    「司くんに好きな人がいるって聞いた時……」
    「む?」
    「僕は諦めようって思ったんだよ。好きな人には笑顔でいてほしいから……でも」

     オレが説明し始める前に話し出した類は、ベンチに置いていたオレの手を徐にぎゅっと握った。温かい手の平に包まれる。指先はかさついて、でも汗で少し湿った類の手。
     急にドキドキして、自分の顔にどんどん熱が集まっていくのがわかる。見上げた類の顔も、赤くて。

    「――でも、やっぱり駄目だ。諦められなかった」
    「る、類……」
    「僕以上に君のことを好きな人間はいないよ。僕にしてよ……僕じゃ駄目なのかい……」

     そう言って、もう一度握られた手に力が込もった。痛くないように優しく。
     見つめ合った類の顔は、苦しそうに歪んでいた。眉間にぎゅうっと皺が寄ってしまっている。綺麗な顔なのに。

     ――それを見たらもう、好きだと言って貰えた嬉しさや恥ずかしさはひとまず置いて、笑顔にしなければいけないと思うじゃないか!
     握られていた手を、今度はオレの方から両手で包み込む。力強く、気持ちが伝わるように。

    「類! オレも好きだ!」

     と、完璧な笑顔で言ってやったのだが。

    「うん……わかってるよ。友人として君が好いてくれてるのは」
    「んん? そうじゃなくてだな……」
    「他に好きな人がいるのにこんなこと言うのはずるいってわかってる」
    「だからオレは」
    「でも、やっぱり僕は君のことが……」
    「だーーー!!」

     ネガティブゾーンに入り込んでしまった類に、オレが耐えられなくなってしまった。この男は何故言葉通りの意味に受け取ってくれないんだ。
     がしっと類の両肩を掴み、顔と顔をくっつきそうなくらい近づける。びっくりした様子の類の瞳に対し、オレの瞳は今、なんとしても類を納得させるというよくわからない情熱でメラメラと燃え上がっていた。
     両手に力を込め、深く息を吸って、はっきりくっきり言葉に出す。

    「オレは! 神代類が! 恋愛的な意味で好きだ! 付き合ってくれ!!」

     どうだ! ここが屋内なら反響するくらいに腹から声を出してやれば、類の顔がしかめっ面になった。ふはは、これで聞き間違いも勘違いする余地もないはずだ。
     ふん、と胸を張って類の反応を待っていると、じわじわと頬を染めた類が「ほ、本当に僕……?」と小さな声で呟く。

    「そうだとさっきから言ってるだろうが!」
    「だって、司くん、好きな人がいるって……」
    「その好きな人というのがお前なんだが」
    「そ、そっか。うん」

     司くんの好きな人は僕、と繰り返していくうちにようやく理解できたのか、へにゃりと類が笑う。眉尻が下がって、頬を染めながら、口元はもにょもにょと小さく動いて。嬉しそうな顔。
     ――ああ、この笑顔が見たかったんだ。予定とは大幅に狂った格好つかない告白劇だったが、終わり良ければすべて良し。オレの頬も自然と持ち上がって、にへら、と笑った時だった。

     パチパチパチ……

     手を叩く音がまばらにし始めたと思ったら、次第に盛大な拍手となってオレ達を包む。驚いて周りを見渡すと、庭園にいた人達がこちらに向かって「おめでとう!」と口々に祝福してくれた。ハンカチで目元を押さえている人までいる。

    「そ、そういえば他のお客さんもいたね」
    「そうだった……ええ、コホンっ。皆さん、ありがとうございます! それでは!」

     ハッピーな場面を祝福してくれるというのは大変ありがたいことなのだが、如何せん恥ずかしくて堪らない。
     オレは類の左手を握ると、そのまま逃げるように速足で歩きだした。人目のない場所を探して、背の高い植物の合間を縫うように行き来する。こっちに歩いて、あっちに歩いて、なんだか楽しくなってきて笑い声が漏れてしまった。誘われるように類も笑い声を上げる。
     顔を見合わせると、ますます楽しくなって。
     ぎゅっと握りしめた手に力を入れると、類も同じように握り返してくれて、まるで心が繋がり合っているみたいだ。いや、正しく繋がり合ったんだ、恋が実って。
     ぐううっと胸が熱くなって、鼓動がすごく速くなる。さっきまでとはまるで違う世界みたいに目の前がキラキラしている。今ならなんだってできそうだ。


     ドキドキさせるのも、デートプランも失敗続きだったが、隣には笑顔の類がいる――告白大成功と言えるだろう!





    「――やっぱりおかしいよ」
    「は?」

     気温も落ち着いて過ごしやすくなった昼休み。いつも通り屋上でランチを広げていたオレは、類の声に箸を止めた。

     今日は晴れて恋人になった素晴らしいデートの翌日である。あの日は帰り際もちょっと手を繋いだりなんかして、お互いどぎまぎしながら自宅へ帰った。なんという順調な交際。
     昼休みのランチだっていつもは何となく集まっているのに、今日はわざわざ一緒に食べようと約束までしてしまった。完璧に恋に浮かれている。
     類も幸せオーラ全開、にっこり笑顔で了承していたというのに、今の発言は一体――?

    「何がおかしいんだ?」
    「君の態度。君に好きな相手がいるって知った時、僕は応援するって言っただろう?」
    「そうだったな」
    「好きな人に恋を応援されたら、自分は恋愛対象外なんだなって落ち込むのが普通だと思うんだけど。でも司くんはすごく嬉しそうにしてるし、それで僕は脈無しなんだなって」
    「なぬ!?」

     チキンサンドにパクつきながら明かされる真実に、驚きで跳び上がってしまうところだった。弁当箱が膝の上にあるため、声だけに留まったが。
     しかし、類が悲観的でオレの気持ちを受け止めてくれなかった理由がようやく解明された気分だ。なるほど、そういう考え方もあるのか。

    「好きな人がオレの恋を応援してくれるということは、告白が成功することに協力的だと言うことだろう?」
    「うーん。まあ、そうだろうね」
    「ということは、類への告白も応援してくれるし、協力もしてくれるってことだ。オレは必ず類と付き合えると確信していたぞ!」
    「ううん……? いや待って、ちょっとおかしいかな」
    「だから何がおかしいんだ」
    「いや……」

     類はぶつぶつと聞き取れない言葉を発した後、頭を押さえて大きく息を吐いた。なんだ、その呆れてますって顔は。

    「はあ……君は常々自分のことを常識人みたいに言っているけど、発想が突拍子もないよ。変人ワンを舐めていたね」
    「なっ、変人どうのこうのをお前に言われたくないぞっ」
    「いいや、思考回路が凡その人間とは違うね」
    「なんだとーーっ!」

     不名誉甚だしい言われように類の顔を睨みつけると、クスクス笑いながら食べかけのチキンサンドをオレの口元に押し込んだ。むぐ。餌付けで機嫌を取ろうなど、馬鹿にして……もぐもぐ……美味いな。
     類はガサガサとビニール袋を漁って、もう一つパンを取り出している。カレーパンだ。袋をピリリと破きながらオレの目を見て微笑む。

    「でも、普通の考えだったらお互い臆病になって恋を諦めてしまっていたかもね。実際、僕はそうなりかけていたし、君もデートに誘ってくれなかったかもしれない。そう思うと君のトンデモ思考回路のおかげで恋が実ったとも言える。フフ」

     ご機嫌な類はそう言って、柔らかな視線でオレを見てくる。月色の瞳がとろりと溶けて、色が濃くなる。

    「……君を好きになってよかった」

     甘くて、優しい声。全身がふにゃりと溶けてしまいそうな。
     耳元で囁かれているわけでもないのに背中の辺りがくすぐったくて、照れ隠しのように「ふふん!」と胸を張った。多分類にはバレているだろうけど。
     そもそもこいつの一挙手一投足が絵になるというか、様になるものだから、惚れているオレには効果覿面なのである。結局デートの時も類のことをドキドキさせられなかったし、オレばかりドキドキしている気がする。悔しい。
     悔しいついでにうーうー唸っていたら、小さく笑う声がした後、類が座っていた距離を徐に詰めてきた。

    「んっ!?」

     拳二つ分ほど開いていた隙間が無くなって、太腿がぴとりとくっつく。肩もぴったり触れ合っていて、体温がじわじわと伝わってくる。いや、体温以上に熱い、かもしれない。

    「な、え、なにを」
    「ねえ司くん、キスしようよ」
    「~~~~ッ!?」

     類の体温で心臓がバクバク鳴っている所に爆弾発言を落とされたせいで、脈拍がおかしくなりそうだ。
     そんなオレを気にすることなく、類は瞼を半分閉じながら顔をゆっくり近づけてきて……っておい!

    「ダメだダメ! ハレンチだ!」

     咄嗟に箸を持っていない左手で類の唇を押さえる。ふにって、柔らかくて……じゃなくて! 慌てて左手を下ろし、不満そうな顔の類に視線をやる。

    「まだ早すぎるだろうが! 交際二日目だぞ!」
    「ええ……いつになったらいいんだい?」
    「こ、こういうのはもっと段階を踏んでだな……デートを重ねて、お互いのことをもっと知ってから……」
    「僕らお互いのことなら良く知ってるじゃないか」
    「ぬぐぐ……」

     口の達者な類に勝てるわけがない……が、ここはオレも譲れないところである。お互いの両親に顔向けできるような、清い交際を重ねていくのだ。まあ、その……興味が無いとは言わないが……もごもご。
     どうやって反論しようか脳みそを回転させていると、顎を取られてひょいと横に向けさせられた。視界がぼやける。

    「へ?」
    「フフ、隙あり」

     ちゅっ、と。

     かわいらしいリップ音と共に、柔らかい感触が、一瞬。
     表面は少しかさついていて、でも弾力があって。
     目の前には類のにやついた顔。
     ……つまり。

    「ぬあーーーー!? な、なにを、この、類!!」
    「ごめんよ……よよ。つい我慢できなくて」
    「だっ、このっ、ダメだと、……うお~~~!!」
    「日本語になってないよ司くん。ああ、もう一回してほしいって?」
    「ちっがーーう!」

     こいつ、わかって言っているのだから性質が悪い!
     にやにや笑いを続ける類を懲らしめてやりたいのに、弁当箱のせいで身動きが取れない。まだ食べ終わっていないから片付けることもできないし、埃が立つようなことも避けたい……うぐぐ。
     ムスッとした顔で見上げると、類は締まりのない顔で「えへへ」と笑っている。緩み切った幸せそ~な顔。

    (むう……)

     こんな顔を見せられたら仕方ない、と思う。惚れた弱みってやつだ。他の人間には見せないだろう力の抜けた顔を見せられると、恋人として誇らしく思えるというか。
     それに……き、キスが嫌ではなかったのは事実だし。

     ということで、寛大なオレは恋人のイタズラを許してやろう。寛大だからな。でも照れ隠しに反撃するくらいはいいだろう。

     ふにゃふにゃ笑っている類の額目掛けて一発デコピンをかます。
     「いたっ」という情けない声に満足したオレは、優雅なランチを続けるため、天馬家特製の生姜焼きを頬張るのだった。

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    あらすじ▼
    類のガレージにてショーの打合せをしていた2人。
    打合せ後休憩しようとしたところに、自身で発明した🌟の中を再現したというお○ほを見つけてしまった🌟。
    自分がいるのに玩具などを使おうとしていた🎈にふつふつと嫉妬した🌟は検証と称して………

    毎度の事ながら本編8割えろいことしてます。
    サンプル内含め🎈🌟共に汚喘ぎや🎈が🌟にお○ほで攻められるといった表現なども含まれますので、いつもより🌟優位🎈よわよわ要素が強めになっております。
    苦手な方はご注意を。

    本編中は淫語もたくさんなので相変わらず何でも許せる方向けです。

    正式なお知らせ・お取り置きについてはまた開催日近づきましたら行います。

    pass
    18↑?
    yes/no

    余談
    今回体調不良もあり進捗が鈍かったのですが、無事にえちかわ🎈🌟を今回も仕上げました!!!
    色んな🌟の表情がかけてとても楽しかったです。

    大天才小粒まめさんとの合同誌、すごく恐れ多いのですがよろしくお願い致します!
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