無自覚の罪キィ…
シマボシが風呂から上がり、スポーツブラとホットパンツという出で立ちで麦茶をコップに注いでいると、玄関のドアが開く音がした。
そして間もなく、リビングのドアが開く。
「おかえり」
「ただいま戻りまし…」
ドンッ!
言いかけたスーツ姿のウォロが、突然シマボシの両腕を掴んで壁に押し付ける。
「ウォロ⁉」
──何か、気に障るような事をしただろうか?
彼の険しい表情に、シマボシは困惑して動けなかった。
「シマボシさん、コレ…一体どこのどいつにつけられたんです?」
「はぁっ⁉」
ウォロの言葉が理解出来ず、シマボシは素っ頓狂な声を出してしまう。
「この脇腹の所!ジブン、ここに痕を付けてないんですが!」
「…脇腹?」
見ると右の脇腹に一か所、ウォロの所有痕そっくりな小さくて赤い円状の痕が出来ていた。
「……虫刺されだ」
「え?」
「職場で刺されたんだ。昔から、蚊に刺されるとすごく赤くなってしまう体質でな」
「……えーと」
勘違いに気づいたウォロは、気まずそうに目線を逸らす。
「………何だか…すみません……」
「私が浮気をしたと思ったか?」
むすりとした顔のシマボシに、ウォロは小さくごめんなさいと謝った。
「それも少し…ほんの少しですよ?ありますけど。ムリヤリ…の方を最初に考えました」
「こんな愛想の無い女に手を出す物好きなんて、そうそういないだろう」
今まで、シマボシはウォロ以外の人間から告白された事は無い。
が、実際には彼女を慕う者は存在しており、ウォロによって闇に葬られている事をシマボシは知らなかった。
「シマボシさん。何度言っても自覚してくれないですけど…アナタは顔も整ってますし、すっごくスタイルいいんですからね?何度も言ってますけど、このカラダに男の理性をふっ飛ばす威力があるの自覚して下さいよ!」
「……そうなのか?」
「……あぁ…もぉおお!」
今までに何度も(ウォロの理性がもたないので)家の中とはいえ下着姿でうろつくなと注意しているのだが、彼女に危機感は全く芽生えない。今もキョトンとした顔で見上げられ、ウォロは頭が痛くなりそうだった。
──一度自覚をしてもらうためには、少々強引にする事も必要かもしれない…いや、必要だ。けして自分の欲望をぶちまけたい訳ではなく
ウォロは頭の中でぐちゃぐちゃと一人で言い訳すると、理性のストッパーを解除した。
「そんな無防備な格好で目の前をフラフラ歩かれたら、止められないんですよ…」
シマボシを壁に押し付けたまま、ウォロは荒々しく唇を重ねる。
「ちょ……ん…っ」
彼女の口腔に舌を差し入れて、歯磨き後のミントの清涼感が残る歯列や上顎をねっとりと愛撫した。
「……うぉ…ろ…」
「忠告は、何度もしましたからね…」
そう言うと、極上の獲物を前にした獣のような表情を浮かべたウォロはスルリとネクタイを外した。