幕間とポリスメン ●
ゴールデンダイナー……もといUGNこがねが丘支部から、四人のエージェントが出発する。
四人はほどなく二人と二人に別れ、銘々の目的地へ――。
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夜の街を歩く。目的地のビルは遠くからでもよく見える。近道の路地は暗くとも、燦然とした目的地を見失うことはなかった。
トウジと閃はずっと無言であった。閃は真っ直ぐ前を向いた眼差しの奥に緊張と不安を押し殺しており、おしゃべりに興じる気にはとてもじゃないがなれなかった。トウジはというと、もしここにいるのがトウジではなく黄連だったなら、閃の緊張を解さんと幾つか言葉を投げかけていたろうが……結果はさもありなん。
しかしながら、傍から見れば「ヤクザ者の隣を、どこか緊張した顔で学生服の未成年が歩いている、しかも夜の路地を」という心穏やかではない風景で。
だからだろう。警邏をしていた警察官に「ちょっといいですか〜」と声をかけられたのは。
「お兄さんたち何してるの?」
一瞬――トウジの脳裏に超最悪な未来予想がよぎる。それは閃が馬鹿正直に「この人とホテルに行くんです」と答えることだ。確かに嘘じゃないのだが、それはちょっとややこしいことになる。ほど近くの路地は『そういう店』が並ぶエリア……まあ有り体に言うと大人のホテル街なのだ。そっちのホテルだと認識されてしまったら……途端に警察は汚物を見る目でトウジを睨むことだろう。
標的に気付かれるリスクを抑える為にもワーディングはできるだけ使いたくはないが、その使用も止むを得まいか……といったところで。
「ああ、兄さんと夕飯を食べに行くところなんです」
閃がなんてことない物言いで答える。さっきまでの緊張が嘘のようにナチュラルな態度になっていた。
「ね、兄さん」
トウジを見上げる――と同時に、閃はさっき使えるようになったばかりの異能を用いる。彼にだけ聞こえる囁きを、その鼓膜へ。
『夕飯前の兄弟ということにします、合わせて下さい』
「あー……そういうことでして。すみません店に予約しててそんなに時間がなくて」
仮に「どの店?」と警察に聞かれても、本当にこの辺りにある知り合いの店を候補に出せた。ニコニコとトウジは微笑みを浮かべる。
「あの……おなか空いたんでもういいですかね? 兄さんもう行こう」
閃が警察へダメ押しする。そうすれば、警察は今一度だけ二人を見比べて……それ以上の追求を諦めた。
「どうも」
警察の気配がなくなった頃、閃が隣の男に控え目な声で言う。トウジは目線と口角だけでそれに応えつつ……今更ではあるが、17歳と34歳で兄弟設定ねえ、ちょっと厳しくない? と内心で思った。
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「大丈夫ですかねぇ……」
「何かあれば『連絡』が来るだろう、向こうの健闘を祈る他あるまい」
康平と黄連もまた目的地へ向かっている最中であった。
「うう……治療したとはいえ……閃さんさっきまで酷い傷を負っていましたし……初任務で危険な相手と戦うなんて……」
「だからわしらでバックアップするんだろうが。あまりそわそわするな、目立つぞ」
黄連は心配げな康平を諭す。「目立つぞ」と言った黄連本人が、その幼い風貌ゆえに夜の街を歩いているとハチャメチャに目立っているのだが……それを冷静に指摘する者はここに居ない。
果たして、必然的な結果だろうか。
「こんばんは〜! ぼく、こんな時間にどうしたの?」
笑顔のポリスが、黄連を見下ろしてそう尋ねてきた。
「……」
黄連は静かに辺りを見回した。そうして、「ぼく」と呼ばれた対象が自分であることに気付いた。
「……あ゙? 貴様だれに向かって――」
「支部長っ、落ち着いて落ち着いて!」
黄連が言葉を続ける前に、慌てて康平が引き留める。
「ほらっ、深呼吸……!」
「すううぅぅぅ……はああぁぁぁ…… くそっ、こんなところで足留めを食らってる場合じゃないぞ」
小声で呟き、黄連は顔をしかめる。そして……電柱に塾の広告があるのを見つけた。よしこれだ。
「……僕たち塾帰りなんです」
不本意も不本意だが、背に腹は代えられぬ。黄連は口角がヒクつきそうになりつつも、子供のふりをして警察へと笑みを向けてみせた。
「そうなんですか」
が、康平がデカい声でビックリする。黄連はガスッと肘で部下を小突いた。硬い。痛い。肘を擦りつつ部下を一喝。
「馬鹿者! 塾帰りという設定だ、合わせろ!」
「な、なるほど!」
なおこれらの会話はヒソヒソ声である。改めて康平は警察へ向き直った。
「そう! 塾帰りなんです」
物凄く力いっぱい言い張る康平。隣の黄連もウンウンと頷いている。
「……」
警察はしばし見定めるように二人を見て。
「そっか〜。それじゃあ気を付けて、寄り道しないで帰ってね〜」
「「はーい」」
――この後、康平は目的地に着くまで延々と黄連の愚痴を聞くことになる。
『シーン4へ続く』