恐怖のEXレネゲイドDVD! ●
オーヴァードには効かないのだが、一般人には視聴させ続ける催眠をかけてしまうDVDがこがねが丘支部に回ってきた。
一種の呪いのビデオ……ならぬ呪いのDVDであるその正体はEXレネゲイドだ。なおDVDの内容はお笑いDVDで――どうも無害化する為には、視聴しながら笑ってやらないといけないらしい。作り笑いや演技はダメ、しかし催眠状態の一般人は笑わなくなるのでオーヴァードが視聴するしかなく、という面倒臭い代物で……。
「視聴してレネゲイドが活性化する、オーヴァードの精神に異常をきたす、などは確認されていないとのことです。視聴するだけで大丈夫なようですね」
届いたDVDのパッケージ(二枚組)の裏表を見つつ、閃がUGNからのメッセージを一同に伝えた。
黄連支部長は、康平とトウジが同時に目線を向けてきたのを感じた。前者は「私、『お笑い』が分からないです……」という懸念と不安、後者は「命令なら試聴しますが成果は期待しないでくださいね」という辟易と面倒臭さだ。
「僕が試聴しますよ。手は空いてますし、複数人で見なければならないモノでもないようですし」
そんな中で閃が挙手をした。ならばと、視聴役はその場で決まった。
――とはいえ。
一人だと何かあったら危ないし、お笑いDVDのようだが未成年が見るには良くないものが映るかもしれないし。支部内の休憩室のテレビの前、黄連は閃に付き添うことにした。
「再生しますね」
デッキにDVDをセットし終えて、閃が支部長のいるソファに座る。リモコンを操作する。再生すると、ワーディングに似たような『空気の異変』を感じた。
「これ……、なるほど。これが一般人を催眠状態にする力場ですかね」
「ワーディングの亜種のようなものか。わしらには影響はないようだが……、さっさと無害化させてしまおう」
「はい」
全編再生、ピ。
――それは複数組のお笑い芸人達による合作DVDだった。
コント、大喜利、漫才、トーク、様々なお笑いが繰り広げられ――
「あはははははは! んふふふふ あははっ、あははあははぁあ〜〜〜〜ッ ふぁあああああ〜〜〜〜 あッはははぁあーーーーーーッ」
閃は、ずっと笑っていた。再生してから現在進行形で、ずっと。
普段は凛と引き結んだ表情が多く、表情筋もそんなに派手ではない閃だが――沸点は低かった。顔を真っ赤にして、上体と喉を反らして、涙まで滲ませ、大声で笑い転げていた。ご覧の通りの爆笑だが笑い方に下品さがない辺り、彼の育ちの良さが垣間見える。
「……」
黄連はDVDよりも閃が気になっていた。お、おう、貴様そんな笑うタイプだったのか。
なお閃だけ妙な精神攻撃を受けて……というワケでもない。シンプルにこの少年がゲラなだけだ。ちなみに黄連はお笑いはよく分からないので、終始真顔無言で視聴していた。
(これもう……閃一人だけで大丈夫そうだな……)
隣の爆笑を聞きつつ、「後は任せたぞ……」と視聴に障りのない程度の声で囁き、黄連は天真爛漫な笑い声の響く休憩室を後にするのであった。あとでオヤツでも持っていってやるか……。
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「終わりました」
思い出し笑いでまだ若干肩を震わせつつ、閃が支部長室に戻ってきた。片手に持っているDVDは、レネゲイドが消滅して、ただのDVDになっている。
「DVDは無事に……ふふっ……無害化できたようです。詳しくはまた報告書をンフッ 提出しますので」
「う、うむ、ご苦労だったな。……面白かったか?」
「はい! とても面白かったです」
「そうか……」
まあ、楽しかったのならいいか。黄連はそう思うことにした。
『了』