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    エルシン3.5話

    #ELDORADO_SYNDROME

    間奏

    『あの事件』から幾らかの日が経った。
     季節はすっかり秋めいて、閃の制服も夏季制服の白いシャツから学ランになった。
     しばらく支部で大人達に見守られて休息をとっていた少年は、今はもう元の住居で暮らし、学校にも通っている。一週間の休みについても心臓の病ウソを理由にしたから、心配されたものの怪しまれることはなかった。

    「……閃くん、大丈夫?」
     支部での業務中、職員が声をかける。真面目な子だから、自分を押し殺してはいまいか気がかりなのだ。
    「あ―― はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
     振り返る閃は笑顔を向ける。言葉に偽りはなく、表情や声音にはいつも通りのハキハキとした溌剌さがあった。
     愛されて大切に育てられた少年は、自己の基盤がしっかりとできあがっていて――だからこそ、つらいことがあっても、キチンと休めばまた立ち上がれる強さがある。決して出羽ゆめみのことを忘れた訳ではないけれど、それでも立ち上がらねばならないことを、閃はしっかと理解していた。
    「そっか」
     閃が元気を取り戻してくれてよかった。職員は笑顔を返す。一時の、本当につらそうで元気のない様子を見た時は、職員達も気が気でなかったものだ。
    「碓氷さんとは仲良くやれた?」
    「はい、御嶽さんにも良くしていただいて、お二人にはたくさんお世話になりました」
    「……菊葉支部長は?」
    「あぁ、――」
     少年は困ったような苦笑を浮かべた。
    「相変わらずです、……せめてお元気ならいいのですが。なんだかお仕事をたくさんつめてらして……心配です」
     いつでもお手伝いできますからと支部長にお伝え下さい。職員にそう会釈して、閃は業務へと戻っていった。
     その背を見送り、職員は小さく息を吐く。先日のゆめみ事件から……碓氷トウジはいつも通りとして、閃はあの通り元気になった。だが我らが支部長は、未だ何かぎくしゃくとしている。どうにかならないか、閃も悪戦苦闘しているようだが……。
    「はぁ」
     溜息を一つ、職員も業務に戻るのであった。


    『了』
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