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    iori_uziyama

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    iori_uziyama

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    かわいい探偵にご用心!ミ受けオンリー展示品です。メンヘラなミスタに好かれてしまって可哀想なヴォックスと人外に好かれてしまって可哀想なミスタの話。シリアス。色々注意。


    全然書くつもり無かったんですが新刊の締切に追われていたら何故かコイツが完成しました。

    可哀想にヴォックスは執着させてくれない。
    普段は嫌ってくらい構ってくるし、それを促す言葉も行動もくれる。なのに、本当に縋りたくなったときはうんともすんとも言わないし来やしない。
    そうなると甘えたいのに不安だから、執着しきれない。んでまた落ち着いたらって無限ループだ。
    ひでぇ男。

    それを何回も何回も何回も何回も繰り返して、ミスタはイカれた。血走った目で包丁を持って、遊びでドタバタ走り回ってたときとは違う、本気で刺す覚悟だった。人の心を弄ぶあのアクマに、ヒトの本気を見せてやるつもりだった。
    ザマァみろって言ってやるつもりだった。

    なのに。

    「 Good Boy!ミスタ!」

    なぜこの男は笑っている、?


    人混みの中、待ち合わせをしているヴォックスを見つける。なんでもないような声で呼びかけた。
    ヴォックスが顔を上げてこちらを見る。目が見開かれた。やがて異変に気付いた烏合の衆がざわめき始める一瞬前に俺はヴォックスの脇腹に飛び込んだ。
    ズブリと根本まで、刃の部分は全てヴォックスの体内に突き刺さっていた。いっそ、刺した瞬間から愛おしさが湧き上がってきた。可哀想に、オレみたいなのに優しくするからこうなるんだよ。周囲は逃げ惑う人と悲鳴を上げる人で騒がしかったけれど、ミスタはヴォックスの心臓の音だけを聞いていた。重たくて、低くて、いつも落ち着く音だったのに、今日はバクバクと忙しない動いている。コイツも人間らしいとこあるんだなぁ、まぁ刺されれば流石に驚くよな。胸板にすり寄って、捕まるまでこのままでいようと思っていた。
    上から湿度の含んだ、声が聞こえて思わず顔をあげる。

    「ぁあ、ミスタ、ミスタ、俺は心配してたんだ、君がずいぶん臆病だから、短い一生のうちに俺に追いついてくれるか、確信できなかったんだ」

    恍惚とした瞳で、次々とまくしたてる。その声はぼそぼそと掠れていて、喉仏が忙しなく動いている。
    不気味だった。刺されたはずのコイツは、幸せの絶頂のような顔をしている。思わず後ずさりをしかけた時、ガッシリと腰に腕が回された。キツく、キツく抱きしめられる。ズブリとさらに深く刃が内蔵の中を泳ぐ。思わず柄から手を離したけれど、強く強く抱きしめらているせいで、ミスタの腹にぶつかってどんどんと血が溢れていく。生温いそれがミスタの服に滲んでいく。犬のように息がはねていく、汗が滲んで、手が震えた。汗ばんだ頭皮にヴォックスの指がさくりと通される。状況に合わない優しい手付きでそっと髪に手櫛が通される。

    「Good Boy!ミスタ!」

    「いい子だね、怖かったろう、よく踏み込んだ!よくやった!」

    「ほんとうにえらい子だ!」

    「大丈夫、もう怖いことは何も無いさ。周りの事も私がなんとかしてやるから」

    「愛してるよ、ミスタ」

    ドロドロに溶けたジャムのような瞳で、ヴォックスは夢見るように囁いた。

    ミスタはこのときになってようやく、どうやら酷くまずいことをしでかしてしまったらしいことを自覚した。

    「Night Night Sweety」

    歌うように告げられたその言葉は鼓膜から脳髄へ染み渡って、ミスタの意識を刈り取った。
    コトン、と気を失った身体を愛おしそうに抱えて、ヴォックスは歩き出す。鼻歌が聞こえるような軽快な足取りだった。

    翌日の新聞では、イギリスで集団幻覚のパニック騒ぎがあったと報道がされることとなる。


    さてはて、このヴォックス・アクマは名の通り悪魔のような人間であった。いや、正しくは鬼だが。形容詞として使うなら悪魔のような、が正しく、似つかわしい人物であった。
    古来より悪魔は人を惑わし、その背中を押し、人を狂わせる。ヴォックス・アクマは、ミスタを惑わし、甘言を囁き、依存させ、判断力を低下させたが、決してその背中を押すことは無かった。
    それは善意だとか罪悪感によるものではなく、ただ、純粋にミスタ自身に一線を踏み越えさせたかったのである。手伝うなど生ぬるい。400年生きた鬼が愛を捧げるのだから、短い一生を捧げる位じゃ全く足りない。愛憎入り混じって、ヴォックスの為に自ら破滅してほしかったのだ。人生が無茶苦茶になるのも構わず、欲して、求めてくることを望んだ。
    だからミスタが衆人環視のなかヴォックスの腸に包丁を突き立てて来たときは、まさに、天にも登る心地だった。やっと!やっとこの愛し子が!堕ちてきた!と。ミスタは殊更臆病であったし、自分に自信がないからこそ、いつ耐えられず、折れてしまうか、ヴォックスにとっても綱渡りの賭けだったのだ。そして訪れた結末は、ミスタはヴォックスの思惑通り狂い、求め、人生を破滅させた。
    重畳であった。

    「I love you,Mysta」

    さて、哀れにも人外に愛され、人生を狂わされたミスタ。幸運にも愛したヒトに選ばれたヴォックス。
    この、悲劇的に幸せな物語はこれでエンドロールである。
    結びの言葉は勿論、そして二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。


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