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    くまだ

    @enbun_yum

    文章のみです。主に、ぴくしぶにあげられないような、書きかけて力尽きたもの、短すぎるものを投稿します。

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    くまだ

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    桜の木の下にあるバス停で、新生活を控えたモくんと、そのモくんを見送りに来た師匠が、バスを待つ話。

    #モブ霊
    MobRei

    桜の下のバス停でさっと吹いた春風が、桜吹雪を巻き起こした。

    「ああ…………綺麗だな」

    そう言った師匠の声はいつも通り淡々としていて、けれど瞳だけが寂しげだった。
    バス停にいるのは僕と師匠の二人きりで、僕の乗るバスは、あと五分足らずで到着する筈だ。
    残りの数分の間に、伝えたいことが沢山あった。でも、何から言葉にすればいいのかわからなかった。僕よりもよほど話すのが上手い師匠も、こんな時に限って、バス停近くに植っている立派な桜を見上げるばかりで。
    師匠の肩の上に桜の花が、花弁を散らすことなく、そのままポトリと落ちた。

    「師匠、肩に桜が」

    「ん?」

    師匠は肩に手をやって桜を摘み上げると、ふっと笑った。

    「盗蜜だな」

    「なんですかそれ?」

    「スズメが桜の蜜を吸うために、桜を付け根ごと食いちぎっちまうんだよ。だから、花がそのまま落っこちてくる」

    ほら、と彼が指差す方を見れば、桜の木の枝に留まったスズメが、チュリ、と可愛らしく鳴いて首を傾げているのが見えた。

    「まだまだ咲き誇れたのに、容赦ないよな。ま、あいつらも生きるためにしてることだが」

    そう言って、師匠は僕に、桜の花を差し出した。

    「お前は、こんなふうにならずに、めいっぱいやってこいよ」

    少しだけほっとしたような顔だ。
    馬鹿な人だなあ、と思う。

    「師匠は、スズメじゃありませんよ」

    驚いた顔をする師匠の手を、桜ごとそっと両の手で包む。

    「それに、僕も桜じゃない」

    「………………そうだな」

    バスのエンジン音が耳に届いてきて、どちらともなく、手を離した。

    「なあ、モブ」

    「はい」

    「時々、こっちにも顔出せよ」

    「はい。必ず」

    「……………好きだよ」

    「僕も、好きです」

    バスが停車して、エアーの抜ける音をさせながらドアが開く。
    スーツケースを持ち上げてバスに乗り込めば、師匠は少し微笑んで、桜を摘んだ手を上げた。
    寂しさが胸を締め付けたけれど、あの人の笑顔みたいな優しい希望が、僕の心を暖めてくれる。
    大丈夫、と心の中で呟く。
    季節が移り変わり、また訪れるように。僕らもまた、再び巡り会うのだから。
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    humi0312

    DONE2236、社会人になって新生活を始めたモブくんが、師匠と通話する話。
    cp感薄めだけれどモブ霊のつもりで書いています。
    シテイシティさんのお題作品です。

    故郷は、
    遠くにありて思うもの『そっちはどうだ』
     スマートフォン越しの声が抽象的にしかなりようのない質問を投げかけて、茂夫はどう答えるか考える。
    「やること多くて寝るのが遅くなってるけど、元気ですよ。生活するのって、分かってたけど大変ですね」
     笑い声とともに、そうだろうと返って来る。疲労はあれ、精神的にはまだ余裕があることが、声から伝わったのだろう。
    『飯作ってる?』
    「ごはんとお味噌汁は作りましたよ。玉ねぎと卵で。主菜は買っちゃいますけど」
    『いいじゃん、十分。あとトマトくらい切れば』
    「トマトかあ」
    『葉野菜よりか保つからさ』
     仕事が研修期間のうちに生活に慣れるよう、一人暮らしの細々としたことを教えたのは、長らくそうであったように霊幻だった。利便性と防犯面を兼ね備えた物件の見極め方に始まり、コインランドリーの活用法、面倒にならない収納の仕方。食事と清潔さは体調に直結するからと、新鮮なレタスを茎から判別する方法、野菜をたくさん採るには汁物が手軽なこと、生ゴミを出すのだけは忘れないよう習慣づけること、部屋の掃除は適当でも水回りはきちんとすべきこと、交換が簡単なボックスシーツ、スーツの手入れについては物のついでに、実にまめまめしいことこの上ない。
    1305

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