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    夢魅屋の終雪

    @hiduki_kasuga

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    夢魅屋の終雪

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    閉関中の藍曦臣のところに、小さな「ちょん」がやってきたお話

    #曦澄

    ちょんと一緒1寒室にて、閉関中の藍曦臣は戸惑っていた。
    目の前にいるのは、手のひらに乗るくらいの小さな江晩吟が見上げてきているのだ。

    「ええっと、江宗主ですか?」
    「ちょん!」
    「……江晩吟?」
    「んーん!ちょん!!!」

    首を横に振る小さな江晩吟に、困惑しながら「ちょん?」と声をかけてみた。
    すると「ん!!」と満足気にうなづいたと思うと、ととと……と足音を立てて、藍曦臣の懐に入ってくる。

    「ちょん?」
    「しー」

    人差し指を口元にあてると、静かにしろと言う。
    すっぽりと懐に入った瞬間、寒室の前で「どこに行った!」と声が響いた。
    「静かにしろって」と宥める声や「江宗主、落ち着いてください」と、魏無羨や藍思追の声が聞こえてくる。
    「落ち着いてられるか!!」といつにもまして、怒気が含まれていた。

    「……どうかなさいましたか」

    扉のそばに寄って声をかけると、一瞬だけ静まり返る。
    しかしすぐに返事が返される。

    「閉関中に失礼します。江晩吟です」
    「はい、それでどうかなさったのですか?」

    扉を開けないのは失礼だとは思ってはいても、閉関の修業は本来こうして他者と話すことも許されない。
    今まで話すとすれば、叔父と弟に対してあいさつ程度だった。そのためか、彼以外に息をのむ息遣いが聞こえた。

    「探し物をしております。私によく似た生き物が、こちらに逃げ込んではおりませんか?」
    「生き物ですか?」
    「手のひらに乗るくらいの小さな生き物です。それを消すので、お返し願いたい」
    「消す?」

    消すと聞いて、懐の小さな江晩吟は藍曦臣を震えながらつかんだ。

    「それは、妖魔なのでしょうか?」
    「いいえ」
    「では、害があると?」
    「いいえ」
    「でしたら、どうして?」

    安心しなさいという意味を込めて、優しく懐を撫でてやる。
    藍曦臣の私室である寒室には、いくら江晩吟とて無理やり入ってくることはない。

    「必要がないからです」

    きっぱりと言い切った江晩吟の背後から、魏無羨が「おい!」と止める声がした。
    きっと肩でもつかんだのだろう、ざりっと地面の玉砂利がこすれる音がする。

    「あれは、お前だって言っただろう」
    「あの甘ったれが?だったら、なおのこと不要だ」

    イラついているのか、声が殺気立っている。

    「沢蕪君、あの話しておきたいことがあるんです」
    「なんでしょう」
    「その生き物は、江澄本人です。今、江澄は体が二つあるような状態なんです」
    「どういうことです?」

    懐の小さなちょんをのぞき込んでから、扉の外の魏無羨の言葉に耳を傾けた。

    「江澄に、俺の金丹が移植されていることはご存じですよね?」
    「ああ……」

    詳しいことは知らないが、金光瑶の言葉と江晩吟の態度からそれは推測できた。

    「その生き物は、その副作用みたいなものなんです。
    もしも江澄自身の金丹が復活したら、その時に体が耐え切れなくなるので江澄の中に器を作ったんです」
    「では、江宗主の金丹が復活したのですか?」
    「いいえ、俺の金丹が江澄の金丹となった為にそれが分離したんです」
    「必要がなくなったから?」
    「はい。でも、本来ならただの腫瘍ですぐに治るはずだったんですけど……。
    人の形になって、心があったんです」
    「心……」

    懐のちょんを見ると、じっと見上げてきている。

    「それは、もともと器だったので江澄いらないと思った感情や我慢してきた感情を持ってたんですよ」
    「だから、必要がないと申し上げているのです。もし心当たりがあるのなら、返してください。今すぐに消すので」
    「おい!江澄!それを消したら、お前がどうなるかわからないんだぞ」
    「必要がなくなったから、俺から分離したんだろう。なら、問題がないはずだ」

    江晩吟の声が聞こえたためなのか、ちょんは体を震えさせて涙ぐむ。

    「お返しする事は、出来かねます」
    「な!!!」
    「江宗主。あなたが必要ないというのなら、あなたの心を私にください」

    ぽんぽんと懐を優しくあやす様にたたくと、扉の向こうにはっきりと言い放つ。
    言い放ってから、言葉選びを間違えた気がしたが出てしまったモノは仕方ない。
    「なっ」と何度も繰り返して言葉を詰まらせている声が聞こえてくる。

    「沢蕪君が、そいつ預かってくれるんですか?」
    「はい、責任をもってお預かりします」
    「なら、安心だ。
    さっきも言ったんですけど、それは江澄が我慢してた感情で構成されてるんで、
    子供っぽいところもあると思うんですけど甘やかしてやってください」

    本人は、甘やかすつもりがないみたいなんで。と言った後に、江晩吟を連れてその場から立ち去った。
    藍思追から「失礼します!お声が聞けて良かったです」と声が聞こえた。
    心配をかけているのは、解っていた。
    弟夫夫にとっては、あの子は息子同然。藍曦臣も甥のように接してきた。

    「にーに?」

    懐の中から、小さく心配するような声が聞こえてくる。
    哥哥と呼ばれるのは、いつぶりだろう。
    弟からは、兄上とばかり呼ばれていた。藍曦臣を哥哥と呼んだのは、幼いころの江晩吟だった。

    「なんだい、ちょん」

    ちょんは、懐から上ると出会った頃の江晩吟の姿になって抱きしめてくる。

    「慰めてくれるの?」
    「ん」
    「ありがとう」

    その懐は確かに温かくて、心音が聞こえた。
    確かにこの生き物は、生きている。

    「江宗主も、私を慰めたいと思ってくれているのかな…」
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     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
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    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
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    1437

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    ちょっとずれたけど、出来上がってる曦澄です。
    かぷり、と耳を噛まれて藍曦臣は身を震わせた。
     先ほどまで隣で庭を見ていた江澄の顔がすぐ近くにある。
     瞳はつややかな飴の光沢を宿し、うっとりとした声が名を呼んだ。
    「藍渙」
     かぷり、ともう一度耳を噛まれる。
     藍曦臣は微笑して、江澄の腰に手を回した。
    「どうしました? 庭を見るのに飽きましたか」
    「ああ、飽きた。それよりも、あなたがおいしそうで」
    「おや、夕食が不足していましたか」
     江澄はふんと鼻を鳴らして、今度は衣の上から肩を噛む。
     予定よりも飲ませすぎたかもしれない。藍曦臣は転がる天子笑の壷を横目で見た。
     ひと月ぶりの逢瀬に、江澄はくっきりと隈を作ってやってきた。それも到着は昼頃と言っていたのに、彼が現れたのは夕刻になってからだった。
     忙しいところに無理をさせた、という罪悪感と、それでも会いにきてくれたという喜びが、藍曦臣の中で綾となっている。
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    PROGRESS長編曦澄14
    兄上おやすみ、猿です。
     江澄の私室には文箱が二つあった。
     蓮の飾り彫が施された美しい文箱には、私信を入れている。主に金凌からの文である。もう一方、水紋で飾られた文箱は最近になって買い求めたものであった。中には藍曦臣からの文が詰まっている。この短い間によくぞ書いたものよ、と感嘆の漏れる量である。
     江澄は水紋を指でなぞった。
     清談会が終わった後、江澄はすぐに文を返した。それから半月、返信がない。
     やはり金鱗台での、あの八つ当たりはいけなかったか。あの時は正当な怒りだと思っていたものの、振り返れば鬱憤をぶつけただけの気がしてしかたがない。
     藍曦臣に呆れられたか。
     だが、そうとも断じきれず、未練たらしく文を待ってしまう。あの夜の藍曦臣の言葉が本気であったと信じたい。
     大切な友、だと言ってもらえた。
     何故これほど仲良くなれたのかはわからないが、驚くほど短い間に打ち解けられた。江澄とて彼を大切にしたいとは思っている。
     わかりやすく喧嘩をしたのであれば謝りに行けるものの、そうではない。一応は和解した後である。それなのに距離を開けられるとどうしていいかわからない。
     また、会いたい、とあの情熱をもって求め 1698

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    PROGRESS続長編曦澄7
    なにもない日々
     江澄は寝返りを打った。
     月はすでに沈み、室内は闇に包まれている。
     暗い中、いくら目を凝らしても何も見えない。星明かりが椅子の影を映すくらいである。
     藍曦臣は江澄が立ち直るとすぐに客坊へと移った。このことで失望するほど不誠実な人ではないが、落胆はしただろうなと思う。
     目をつぶると、まぶたの裏に藍曦臣の顔が浮かぶ。じっとこちらを見る目が恐ろしい。
     秘密は黙っていれば暴かれることはないと思っていた。しかし、こんなことでは露見する日も遠くない。
     江澄は自分の首筋を手のひらでなでた。
     たしかに、藍曦臣はここに唇を当てていた。
     思い出した途端、顔が熱くなった。あのときはうろたえて考えることができなかったが、よくよく思い返すとものすごいことをされたのではないだろうか。
     今までの口付けとは意味が違う。
     もし、あのまま静止できなければ。
    (待て待て待て)
     江澄は頭を振った。恥知らずなことを考えている。何事も起きなかったのだからそれでいいだろう。
     でも、もしかしたら。
     江澄は腕を伸ばした。広い牀榻の内側には自分しかいない。
     隣にいてもらえるのだろうか。寝るときも。起きるときも 1867

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    PROGRESS続長編曦澄11
    これからの恋はあなたと二人で
     寒室を訪れるのは久しぶりだった。
     江澄は藍曦臣と向かい合って座った。卓子には西瓜がある。
     薄紅の立葵が、庭で揺れている。
    「御用をおうかがいしましょう」
     藍曦臣の声は硬かった。西瓜に手をつける素振りもない。
     江澄は腹に力を入れた。そうしなければ声が出そうになかった。
    「魏無羨から伝言があると聞いたんだが」
    「ええ」
    「実は聞いていない」
    「何故でしょう」
    「教えてもらえなかった」
     藍曦臣は予想していたかのように頷き、苦笑した。
    「そうでしたか」
    「驚かないのか」
    「保証はしないと言われていましたからね。当人同士で話し合え、ということでしょう」
     江澄は心中で魏無羨を呪った。初めからそう言えばいいではないか。
     とはいえ、魏無羨に言われたところで素直に従ったかどうかは別である。
    「それだけですか?」
    「いや……」
     江澄は西瓜に視線を移した。赤い。果汁が滴っている。
    「その、あなたに謝らなければならない」
    「その必要はないと思いますが」
    「聞いてほしい。俺はあなたを欺いた」
     はっきりと藍曦臣の顔が強張った。笑顔が消えた。
     江澄は膝の上で拳を握りしめた。
    「あなたに、気持ち 1617