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    夢魅屋の終雪

    @hiduki_kasuga

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    夢魅屋の終雪

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    #曦澄
    罰ゲームの告白から始まる曦澄の話3

    #曦澄

    恋愛ゲーム3藍曦臣とキスをして二か月が経とうとしていた。
    あれから、休日はデートを繰り返していた。
    連れて行ってくれる場所は、お堅い博物館や美術館から子供たちが喜びそうな動物園や水族館。
    映画も楽しく過ごした。
    しかし、お互いに忙しい身で出張が入れば暇になってしまうくらいには、デートを繰り返していた。
    季節は、秋から冬に代わろうとしていた。

    江家に来ていた義兄の魏無羨に、俺は胸の内にある事を相談しようとした。

    「どうしよう」
    「なにがよ」

    突然の事に、口に入れているお菓子を紅茶で流し込んだ。

    「あいつだよ……藍曦臣。一向に尻尾を出さないんだ。
    もしかして、本当に俺の事が好きなんじゃないかって思うような態度をとるんだ。
    もしかしたら、俺たちは本当に恋人なんじゃないか?」
    「……恋人なんだろう?」

    魏無羨には、俺と藍曦臣が付き合っている事は報告済みだ。
    しかも罰ゲームの告白だとも言ってあって、当時は殴りこむと言っていた。
    けれど俺が楽しみたいんだと言ったら、相談には乗ってやるとの事だ。キスをしたとかそういうのは話していないが、デートをしたんだけど何を着ればいいのかと相談はした。
    なんせ、こいつの夫が藍曦臣の弟なのだ。
    それなりに情報は持っているだろう。

    「罰ゲームで告白してきただけで、本気じゃないだろ」
    「……そうかなぁ」
    「そうだろ。あの人は、男で言うなら金光瑶がお似合いだ」
    「んー…」

    それもどうかねぇ…と、呟いた。

    「それは、そんなに問題じゃないんだ」
    「問題だろう」
    「満更じゃないんだよ。俺が……。
    このままでは、あの人に尻を明け渡しそうで怖い」

    俺の発言に、魏無羨はぽかんとした顔をした。
    なんだって?と聞き返してくる。

    「キスが上手いんだよ」
    「キスぅうう?お前!キスしたのか?!忘機の兄貴と?!」
    「めちゃくちゃ気持ちがいいんだよ!!肌触りもいいし、ずっと触ってたいし触ってほしい!!!
    抱き着けば程よい弾力の筋肉が服の下から感じられて、ああ、この人ならいいかなーって思ってる!!
    しかもいい匂いがするし、落ち着く!!!」

    もうぶっちゃけて、のろけたい気分だった。

    「やべぇよ、あの人が俺の恋人?!
    罰ゲームでもここまでするかってくらいに優しくて紳士だし、かわいいし格好いいし、何より美人!!」
    「そりゃよかったな?!で、結局何がいいたいんだ?!」

    俺を落ち着かせるために、魏無羨は肩に手を添えた。

    「尻を差し出す準備方法を教えろ!」
    「兄ちゃん得意だけど、弟に教える日が来るとは思わなかった!!」
    「俺は、もうだめだ。本気になってしまう。好き。
    お前たちを恥知らずとは今でも思うが、堂々といちゃつけるのがうらやましい」

    顔を抑えてソファーに倒れこむ。
    今日、両親が家に居なくてよかった。
    いたら、こんな風に相談できなかった。
    むしろ、魏無羨がうちに帰ってこなかっただろう。
    父は気にしていないから、いつでも帰っておいでと言っているのだが、母がいまだに魏無羨の結婚に難色を示している。

    「引っ掛かる物言いだが、兄ちゃんが伝授してやろうな」
    「助かる」
    「実践はしてやれないから」
    「されてたまるか」

    男同士のセックスについて、俺は魏無羨にあれこれと聞いた。
    準備もグロければ、やることもえぐかった。
    お前ら、そんな事してんの?と思うほどだ。

    「まぁお前の事だから、準備は手伝ってほしくないだろう」
    「そうだな」
    「ローションは必須だからな?ハンドクリームとかベビーオイルでもいいけど、大変だぞ」
    「ん」

    受け入れる側って、こんなに大変なのか……。
    午後十五時頃になって、俺は魏無羨を駅まで送った。


    ******


    ある日、俺は巡回で法務部のフロアへと来ていた。
    人気のない場所に入ると「あ、あの」か細い声が聞こえてきて、振り返ると法務部の女性社員だ。
    一人ひとりの顔を覚えているわけではないので、プレートを見て判断する。

    「守衛の江晩吟さんですよね」
    「ああ、そうだが。何か、困りごとでも」

    もじもじとしながら、顔を赤くしている。

    「あ、あの!お、お付き合いしている方いらっしゃいますか」
    「え?」

    また新手のいたずらか?と思って、あたりをきょろきょろするが彼女以外誰もいない。
    小柄で可愛らしい女性だとは思うが、彼女の存在を今しがた知ったばかりだ。

    「ず、ずっと前に、助けてもらって、そのえっと」
    「落ち着いてくれ。助けるのは、俺の仕事だ、特別なことじゃない」

    はっきり言うと傷ついた顔をしてから、涙目になる。
    泣くか?面倒だな。

    「な、なら、お付き合いを前提にお友達になってください」

    しかし、泣く事はしないで顔をばっと上げて俺に詰め寄ってきた。

    「え?」
    「藍室長と並んでおしゃべりしている江さんの笑顔とか、
    厳しいように見えて優しい所とか、私ずっと好きだったんです!」

    存外、しぶとい女性だったのかもしれない。
    一歩下がると、一歩前に進んでくる。

    「お付き合いしている方がいるなら、諦めます。だけど、お友達にはなりたいです」
    「いや、付き合っている人はいない…」
    「それじゃあ」

    一歩二歩と下がっていくと、とんと背中に温かい壁に当たる。
    振り返ると怒っている藍曦臣がいた。

    「曦臣?」
    「失礼……」
    「え?」

    腕を万力でつかまれて、引き寄せられた。
    そう思うと、当てられるだけのキスをされた。
    なんだ?何が起きた???人前で、この男は何をしている?

    「わるいけれど、この人は私の恋人なんでね。諦めてくれませんか」

    唇が離れると、顎を固定される。
    優しいけれど怒気が含まれている声だと、俺は判断する。
    なんで怒ってるんだ?
    何度も何度も頷いて、俺に告白をしてきた女性はその場から立ち去ってしまった。

    藍曦臣は、俺をこのフロアの男子トイレの個室に連れ込んだ。
    鍵をかけられて、座らされる。

    「な、何を」
    「……」

    覆いかぶさるように、食べられてしまうのではと思うほどの乱暴なキスをされる。
    今までの比ではない、強く激しいキスだ。

    「ん!!ふあ、あ、ふ、ん、やめ、あ」
    「ん、あ…ふぁ、ん、っく」

    下唇を噛まれただけなのに、体の芯が甘くしびれる。

    「なに、するんだ」
    「私とキスするだけで、そんな顔をなさるのに」

    スーツの下に手を入れられて、背中をなぞられる。びくりと体が震えてしまう。

    「貴方の恋人は、私でしょう?」
    「……」
    「どうして、頷いてくれないの?やはり、男の私が恋人なのが嫌?恥ずかしい?」

    襲われているはずなのに、縋られている気分になる。

    「それは、貴方だろう」
    「なんで?」

    俺の言葉に、藍曦臣は目を丸くする。

    「俺に告白してきたのは、罰ゲームだろう。三尊で、俺の事からかって……遊んで楽しいか?」

    言葉にしていたら、辛くなってきた。
    口元を隠して、彼の指先から与えられる快楽を我慢する。
    藍曦臣は、俺が何を言っているのかわからないという顔をして俺の背中を指先で撫でるのをやめた。

    「わ、私は、本気であなたに告白したんですよ?!」
    「男子トイレでか?」
    「あなたが一人になるのを探ってたら、男子トイレしかなくて」
    「光瑶や聶先輩引き連れて?」
    「勇気がなくて」
    「女子か!さっきの女性のが、勇気があったぞ!」

    先ほどの事を話題に出すと、藍曦臣はむっとした顔をする。
    怒った顔は、弟にそっくりだな。
    再び、顔が近づいてきて乱暴な口づけがされた。
    息がしずらくて、藍曦臣の肩をたたく。

    「私は、貴方が好きです。
    私が、好きでもない男性とキスができるような男だと思いますか?
    そう言えば、いつだったか私がどうして結婚しないのかって言ってましたね」

    怒った顔も美人だな。

    「あなたが好きだからですよ。出会った時から、晩吟が好きでした。
    愛していると言っても過言ではありません」
    「……は?」
    「私は、ゲイです。自覚したのは、貴方と出会ってからだ。
    女性の体よりも男の体に興奮するし、貴方の事ばかり考えて気が狂いそうになっていました。
    大学の時に、同じサークルに入って一緒にいた時は幸せでした」

    それ、は…俺が、貴方を追いかけて、同じサークルに入ったんだ。
    一年だけでもいいから、一緒に居たくて……。
    言葉を紡ぎながら、何度も何度もキスをされる。

    「あなたが入社してきた時は、嬉しかった」
    「ん」
    「入社して十三年も頑張ってきた貴方を見てきたし、晩吟が好きだ。
    晩吟のストーカーって言われてしまうくらいには、貴方の事を見つめてきました。
    貴方の事なら、それなりに知ってます」

    ぎゅっと、抱きしめられる。
    なに、何が起きている?子供の頃から、俺が好き?どういうことだ?出会ってからだと?
    つまりは、二十年近くは俺を想ってくれていたってことなのか?
    え、なに?俺、同じ人から二度目の告白も男子トイレなのか?個室に押し込められて?
    いや、そんな事はどうでもいい。

    「逃がしません、離しません。放して差し上げられない」
    「曦臣?」
    「貴方は、私のです。私の恋人はあなたで、貴方の恋人は私なんです」

    怖いくらいに真剣な声で、藍曦臣は俺を抱きしめながら念を押す。
    それが心地が良くて、俺は恋人の背中に腕をまわした。

    「……っ」
    「……ごめん、なさい」

    子供のような謝り方であったが、ぽろっと口からこぼれたのだ。
    この人を俺のだって、言ってもいいのか。そっか。
    藍色のスーツに、頬を摺り寄せる。

    「俺もあんたが、好きなんだ」
    「……それは、知りませんでした」
    「なんでだよ」

    トイレで抱きしめあって、俺たちはようやく気持ちを共有できた。


    ******


    あの日の退勤後は、大変だった。
    藍曦臣の家に連れ込まれて、入ったとたんにキスされた。
    準備があるからと押しのけたけれど、準備も手伝うとか言い出した。
    俺に、初体験でそんなコアなプレイを求めるな!!!と押しやって、一人で準備した。
    その間に、藍曦臣は寝室でアロマをたいたりローションとゴムの用意をしたりして、俺が出てきた時にはお茶なんて飲む余裕を見せた。
    しかし、それは演技だったのかって思うくらい俺を抱きつぶしやがったのだ。

    「それでさー、曦臣さん。生粋のゲイだったらしいんだよ。
    忘機が、テクニシャン名乗って兄貴の影響だったみたいでー…本とか読んでたらしいんだわ」
    「あー…うん、知ってる」

    俺は、けだるげに自分のベットで頷いた。
    抱きつぶされた後、俺は雲夢の自宅に帰ることができた。
    しかし、すぐに熱を出してしまい両親を心配させた。
    医者だの救急車だのと騒ぐ両親に「無羨、無羨を呼んでください」とうわ言のように懇願した。
    母はしぶしぶだったけれど、魏無羨が腕のいい薬剤師であるのは知っていた為に呼んでくれた。
    温寧を連れてきた時はさすがに、父も顔色を変えたけれど彼が自分たちを助けた医者の息子だと知って受け入れたらしい。
    母も同じく家に入れる事を許可した。
    温寧の姉は、腕利きの医者なのだけれど病院から帰ってきていないので、看護師である温寧が来たのだ。
    いや、温情が来なくてよかったと思ってる。

    「裂傷はないので、体力がないのと知恵熱だと思う」
    「そうか、よかった」
    「くそ、屈辱だ」

    肛門、診られた……。本当に、温情が来なくてよかった。

    「あー……温寧」
    「なに?」
    「……助かった。だけど、曦臣に俺の診療したっていうなよ。お前の命が危ない」
    「わ、わかったよ」

    温寧は、どもりながらこくこくと頷いた。
    先に温寧を返すと、魏無羨がベットの隣に座る。

    「……あの人、本当にやばい。本気なの体で教え込まれた」
    「忘機に教えられて、怖ってなったよ。あとさ、金光瑶もさ、ずっと曦臣さんの相談乗ってたらしいよ。
    知り合ってからずっっっと、お前の話されてたらしいぞ。惚れる暇なんて、あるわけないって死んだ目で言ってた。
    やっとくっついたって喜んでたんだわ」
    「それは知らなかった」

    なんかすまないと思いながら、俺はだるい体をベットの上で転がした。

    「俺、家を出ようかなって思ってるんだ」
    「……そうか」

    ぽんと頭を撫でられる。じっと義兄を見上げていると、どうした?って首を傾げられる。
    近づけと合図をすると、魏無羨の耳打ちした。

    「実家暮らしって、いちゃつけない」
    「……」

    俺が告げた言葉に、魏無羨は脱力したように落ちてきた。

    「お前ってやつは」
    「別に父さんと母さんが嫌で出ていくわけじゃないんだ。前から考えていたんだよ」
    「そうかよ」

    ぐりぐりと熱のある頭を無造作に撫でられた。

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    月はまだ出ない夜
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     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
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    1437

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    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
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    DONE酔って陽気になって「渙渙」って呼ばれたい兄上(馬鹿力)
    Qにはいつだって夢が詰まってる。
     誰だ。この人に酒を飲ませたのは。
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     今まさに自分の身に降りかかっている惨状に溜め息を吐いて、江澄は手にある酒杯を煽った。いっそ自分も酒精に理性を奪われてしまっていれば楽になれただろうに、真後ろに酔っ払いがいる状態では、酔うに酔えない。むしろ酔いもさめた。
     卓の上に散乱した酒壷と元は酒杯だったものの残骸を見つめて眉間にしわを寄せた。途端、後ろから伸びて来た指が、ぐりぐりと眉間の皺を伸ばそうと押してくる。
     痛い。この馬鹿力め。
     怒鳴る気すら失せて、煩わし気に手を払うと、くすくすと楽し気な笑い声が聞こえてくる。
    「おい、藍渙。そろそろ放してくれ」
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    DOODLE曦澄/訪来、曦臣閉関明け、蓮花塢にて
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    「いつか自分の方から「いいよ」と言わないといけない澄 こういう時だけ強引にしない曦がいっそ恨めしい」
     蓮の花が次第に閉じていくのを眺めつつ、江澄は盛大にため息を吐いた。眉間のしわは深く、口はむっつりと引き結ばれている。
     湖に張り出した涼亭には他に誰もいない。
     卓子に用意された冷茶だけが、江澄のしかめ面を映している。
     今日は蓮花塢に藍曦臣がやってくる。藍宗主としてではなく、江澄の親しい友として遊びに来るという。
     江澄は額に手の甲を当てて、背もたれにのけぞった。
     親しい友、であればどんなによかったか。
     前回、彼と会ったのは春の雲深不知処。
     見事な藤房の下で、藍曦臣は江澄に言った。
    「あなたをお慕いしております」
     思い出せば顔が熱くなる。
    「いつか、あなたがいいと思う日が来たら、私の道侶になってください」
     しかも、一足飛びに道侶と来た。どういう思考をしているのか、江澄には理解できない。そして、自分はどうしてその場で「永遠にそんな日は来ない」と断言できなかったのか。
     いつか、とはいつだろう。まさか、今日とは言わないだろうが。
     江澄は湖の向こうに視線を投げた。
     行き交う舟影が見える。
     藍曦臣はいったいどういう顔をして現れる気なのだろう。友というからには友の顔をしてくれ 1659

    takami180

    PROGRESS続長編曦澄11
    これからの恋はあなたと二人で
     寒室を訪れるのは久しぶりだった。
     江澄は藍曦臣と向かい合って座った。卓子には西瓜がある。
     薄紅の立葵が、庭で揺れている。
    「御用をおうかがいしましょう」
     藍曦臣の声は硬かった。西瓜に手をつける素振りもない。
     江澄は腹に力を入れた。そうしなければ声が出そうになかった。
    「魏無羨から伝言があると聞いたんだが」
    「ええ」
    「実は聞いていない」
    「何故でしょう」
    「教えてもらえなかった」
     藍曦臣は予想していたかのように頷き、苦笑した。
    「そうでしたか」
    「驚かないのか」
    「保証はしないと言われていましたからね。当人同士で話し合え、ということでしょう」
     江澄は心中で魏無羨を呪った。初めからそう言えばいいではないか。
     とはいえ、魏無羨に言われたところで素直に従ったかどうかは別である。
    「それだけですか?」
    「いや……」
     江澄は西瓜に視線を移した。赤い。果汁が滴っている。
    「その、あなたに謝らなければならない」
    「その必要はないと思いますが」
    「聞いてほしい。俺はあなたを欺いた」
     はっきりと藍曦臣の顔が強張った。笑顔が消えた。
     江澄は膝の上で拳を握りしめた。
    「あなたに、気持ち 1617