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    nattannandesuyo

    @nattannandesuyo

    金力ム🌙島沼に堕ちた出戻りの貴腐人。
    右🌙を好み、時々創作します。

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    nattannandesuyo

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    9月6日は「黒の日」なので。
    現パロで、世界がモノクロになってしまう🌙の話。
    🎏とはブロマンス未満の関係です。
    軽ーい小話。

    #鯉と月
    carpAndTheMoon

    プリズム今朝、目が覚めたら世界から色がなくなっていた。自身の手足も、モスグリーンのラグマットも、グレーのソファも、アンティーク調の焦げ茶のコーヒーテーブルも、何もかもがモノクロームだった。

    ***

    視界は普通、特に身体に異常はなく、ただただ無彩色なのだ。ストレスによる色覚異常、脳の病気……ネットの検索画面に出てくるワードにゾッとする。何より、自分が昔の無声映画の世界に入り込んでしまったようで何をするにも落ち着かない。
    仕事を休み、直ぐに病院に行った。脳の検査をしたが、三時間待って出た結論は「原因不明」だった。困惑した医師の、来週また再検査をしましょうという声に俺は落胆した。薬は出ない。病名も原因も特定できないのだから仕方ない。

    病院を出て駅までのバスを待つ。バス停のベンチに座り、空を見上げた。時刻は14時。鰯雲が浮かぶがまだまだ日中は日差しがきつい。病院前の沿道に植えられた広葉樹が風でさやさやと揺れる。肌に触れる風は僅かに涼しくなり、秋の気配を感じる。
    しかし世界は全てモノクロのままなのだ。明度でしか判別が付かない。
    色彩がないだけで視野は変わらないから、案外そこまで困らないのでは、と思っていた。思いたかった。
    スマホの画面もモノクロで見る気を失っていたが、会社に諸所の連絡しなければならない事を思い出して鞄から取り出す。メッセージが来ている。差出人は……。

    普段ならば、相手の都合を考えていきなり通話するなんて事は絶対にしない。お互いの生活、リズムがある。『前世からの付き合いだから』と甘えたりしないが、今日は、今だけは……10秒ほどコール音を聴いて、慌てて切った。
    弱っている。まずい。相手はまだ学生なのだ。授業がある。しかし通話履歴を残してしまった以上、何かメッセージを送った方がいい。
    色々悩んで、視界がモノクロになりました、と自分でも突っ込みどころしかない短い文章を返して自宅に戻った。


    カップの味噌汁とおにぎりなら、色も関係ない、そう思っていた。湯を注いでもフリーズドライの野菜は紙屑にしか見えない。目を閉じれば鼻腔は味噌汁を認識するが、目を開ければキャベツも人参も白いまま。
    色がないと食欲がわかない。だがおにぎりは、おにぎりだけは元々モノクロだ。強いて言えば海苔の部分が、光の加減で藍色に見えるのが楽しめないけれども。おにぎりは、米だけは、なんとか信じられる。唯一の救いだ。
    食器棚を漁る。珈琲も元々黒いじゃないか。インスタントの珈琲を見つけ、マグカップに入れて湯を注いだ。立ち昇る香ばしさも見た目も乖離しない。
    今日初めて気持ちが緩んだ。

    湯気が頬に当たり気持ちが緩むと、胸の奥から感情が込み上げてきた。思わず泣き出しそうになり上を向く。理不尽な体調の変化に、気持ちはすり減っていた。深呼吸をする。珈琲の湿った香気を吸い込む。マグカップから掌に伝わる熱さへ意識を集中させる。
    今は黒っぽいグレーにしか見えないこのマグカップも、本来はモスグリーンだ。この家に引っ越す時に買い足した。足元のラグもテーブルもソファもすっかり色が失われてしまったけれども、全て気に入って買った。自分にしてはカラフルな家具類は、センスの良い歳下の友人が選んでくれた。
    このグリーンはお前に似合うな。そんな台詞ついでに、自分の為の色違いのマグカップを買い物カゴに忍ばせてきて、しょっ中遊びに行くのだから必要だろうと、整った顔を輝かせた友人。

    (メッセージ、送っておくか)

    玄関先に放置したボディバッグにスマホを入れたままだった。取り出すと着信履歴に大量に同じ名前が表示されている。

    「あ」

    授業が終わったのか、と時間を確認する前に再び着信が。数秒画面を見てから出ると、街の雑踏音に混じって自分の名前が呼ばれた。前世の癖で、相手はひと回りも歳下なのについつい敬語を使ってしまう。

    「すみません、先程は。いや、別にポエムじゃないです、会社は今日休みを取って……ええ」

    社畜のお前がど平日の昼間に連絡なんて絶対緊急事態に決まっている。そう断言されて思わず笑ってしまう。彼は大学生だが『普通』ではないのだ。

    「……やはり、貴方には隠し事が出来ないのですね」

    今朝自分の身に起こった事を、掻い摘んで説明する。聞こえていた環境音が消えた。恐らくタクシーに乗り込んだのだ。

    「はい、見え方は変わらずで色彩だけがないのです。他、体調に変わりはありません。食欲は……米と珈琲は今喰ってます」

    なんだその組み合わせは…と突っ込まれ、最初から無彩色の食品でないと食指が動かないと伝えた。分かった、とだけ返事があり通話は終わる。
    誰かに事情を話せたおかげで、僅かに気持ちが落ち着く。珈琲を啜り、おにぎりを一口齧った。やはり合わない。


    ***

    彼は、思っていたよりも早くにやってきた。両手にぶら下げた大きな紙袋は、高級スーパーのロゴ入りだ。

    「最初からモノクロの食品を探してきた」

    テーブルに出された食品は黒胡麻、黒豆から始まり、ひじき、海藻類、イカ墨入りソーセージ、竹炭入りスイーツなど多岐に渡った。

    「この黒いケシの実みたいなのは?」
    「チアシードだ。ドリンクに入れると身体にいい」
    「あ、これは茹でるとカエルの卵みたいな…」
    「タピオカはココナッツミルクと合わせたらモノクロのデザートだぞ」

    竹炭パウダーやイカ墨を使えば、食品を黒くすることも出来るから食欲も湧きやすいだろうと、高価そうな瓶詰めがわんさか出てきた。言われてみれば黒い食品も世の中に溢れているのに、ひじきなんてしょっ中喰うのに、全く思い浮かばなかった。

    「俺なんか珈琲と米しか浮かばなかったのに、黒い食品がこんなに」
    「白は豆腐や牛乳、うどんやパスタがある。イカ墨と合わせたら食いやすいと思う」
    「気を遣っていただいて、ありがとうございます」
    「お前から頼ってくるのは珍しいからな!ちょっと嬉しかったぞ。あのメッセージは臭いポエムかと焦ったが」

    最後に袋の底から出てきたユニークなパッケージの菓子を手に、彼はニヤリと笑った。

    「おい月島、黒い菓子だ。これを喰ってみろ」

    渡された菓子は、タイヤの形をしたグミだった。うっすらゴムのような匂いがして、素直に齧れば薬草の味がする。

    「この味、甘草ですか?」
    「な、耐性ありか!」

    悔しそうな顔が子供のようで、思わず笑ってしまう。

    「お子様舌にはきつい味でしょうね」
    「お前のは馬鹿舌なんだ」

    いつもの調子が戻ってくる。俺はいつも、彼に救われている。
    まだまだ世界はモノクロで、まるで無声映画の一場面のようだが、彼の手から声から存在から、色が放たれる。まるでプリズムだ。

    「月島、これが一番のおすすめだぞ!」
    彼の手の中には、見たことのない納豆のパッケージが。
    「黒豆納豆だ!白飯にも合うぞ!」

    珈琲とおにぎりで寂しく飯を済ませた数時間前の俺よ。安心しろ。俺は救われた。


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