That’s so wicked! Demon's slumberとはよく言ったもので。昼前に起きて来たヴォックスは、のんびり脚本を創っている。居間のテーブルには、タブレットが2枚、本が数冊。コメントを見ながら臨機応変に対応するのが評価されてるみたいだが、本人はブレ無い骨子がポイントだって笑ってた。
飲みきったグラスの氷がパキン。と音を立てて割れて、何回目かの欠伸をしながら伸びをしたヴォックスの足元で、トムとジェリーが左右からミャオ。と声を掛けていた。
アイツら、俺には容赦無く耳や鼻を噛んだりタックルかますくせに、ヴォックスとは一線引いた付き合いをしてやがる。
まぁ、ヴォックスは市販の餌じゃ無く手作りの食事を与えたりしてるので、胃袋を掴まれているんだろう。
「ん?ササミが食べたいか。いいぞ。茹でてやる」
…決して、意思疎通が出来てるとかでは無いと、思いたい。
ダイニングに向かうヴォックスが、すれ違い様にカウチソファに沈んだミスタの頭から首、肩までをスルリと撫でて通り過ぎて行く。
鍋と年季の入ったホーローのポットを火にかけて、冷蔵庫から林檎のジュースを取り出して。
「Baby お茶の時間だ」
紅い紅いハイビスカスのハーブティーの入ったグラスの結露が流れる。
ヴォックスの手からオヤツを貰っている2匹は、撫でられてもいないのにゴロゴロ言って仔猫みたいだ。
もう一杯。と立ち上がって冷蔵庫から戻ると、ダイニングテーブルに戻ったヴォックスが、また欠伸をした。
紅い紅い口腔に、鋭い犬歯を備えた真っ白い歯列。その奥に。
ヴォックスが口を閉じると、ミスタの指が舌の上に落ちた。子供の様な悪戯が可愛いな。と顔を見遣ると、石像の様に意識と身体が固まった、少し虚ろな青翡翠の瞳があった。
軽く手首を掴んで、ジュッと音を立てて吸ってやると、ぎゃっ!と声を上げたが逃げもしないので、そのまま舌先で舐めあげてからもう一度口内に含んで、舌全体で包み込んで吸ってみたり、軽く噛んで遊んでから、指の腹を舌先迄滑らせて解放した。
紅い口腔内は、温かくて、少しぬる付く感触が指先を包む。ただ触れていると云う感覚に溺れたくて、そのまま動けない。つ。と糸を引いて舌が離れた瞬間から、室内の空気に晒されて冷えていく指が寂しくて。
そのまま自分の口に仕舞った。
猫達が呆れた様に溜息を付いて、足下をスルリと抜けて逃げて行く。
後に残ったのは、愉快そうに頬杖を付いてこちらを見るヴォックスと、俺。
ほんと。今のは無意識だったんで、ノーカンにして下さい。