応用修練其ノ壱、幻術看破「お待たせ致しました、壱松様!不肖の弟子、架羅松!ただいま参上仕りました!」
「来たな、あほ烏!これより応用訓練の開始における口上を述べる覚悟はできてるだろうな」
「はい勿論です」
「宜しい!心して聞きやがれ」
「今日より応用訓練を始める」
「はい!」
「戦者において必要不可欠な心身の強靭さを鍛える事に重きを置いた基礎訓練とは異なり、応用訓練は神軍連中への対策に特化した訓練を行う」
「はい!」
「お前は俺の弟子を名乗る以上、思惑がどうであれ妖軍に属する!敵は神軍、つまりは神だ」
「はい!」
「神を相手取るからには単純にぶん殴るだけじゃあ到底敵いやしねぇよって連中の技に合わせた対抗策を持つべきだ」
「はい!」
「数ある対抗策において!お前にはこれから最も初歩的な力を養ってもらうそれは〝幻術を見破る力〟だ」
「はい」
「よって今日の訓練にはこれを使う」
ドンッ
「…はい」
「い、壱松様!一言よろしいでしょうか」
「あんなんだ、言ってみろ」
「それ、どうみても飴玉に見えるのですが…まさかそんな訳ないですよね」
「そのまさかだよあほんだら」
「っえ一体どうやって飴玉を使って訓練なんてするんですか」
「話聞いてたのかてめぇお前には幻術を見破る力をつけてもらうって言っただろが」
「じ、じゃあその飴玉は全部幻想だって言うんですか」
「全部じゃねぇ半分だよ馬鹿んなことしたら意味ねぇだろがぁ」
「そこにある二つの籠に幻術で石を化かしただけの飴玉十個とマジモンの飴玉十個を仕分けやがれこれはそういう訓練だ」
「な、成程」
「漸く理解出来たかあほ烏!分かったらさっさとやれ」
「は、はい」
*
ど、どうしよう…!違いが全く分からない
そもそもこういうのって見本くらいは用意するものじゃないのか…でも壱松様ならそういう配慮絶対しないよな…こうなったら!
「あ、あの!」
「何だ!」
「何か手がかりとか無いですか」
「んなもんてめぇで見つけろ阿呆者」
「はい」
やっぱりだめか!でも見た目だけで分かる訳ないし…!よしとりあえず舐めてみよう
ぱくっ!
「…!」
これで甘ければ飴玉の筈…!甘い!
「よし…!これは飴玉だー」
「違ぇよ」
「」
「この俺の幻術が見た目だけで済むと思ったかんなわけねぇだろが」
「えー」
「実際の幻術も見た目だけで終わらせる虚仮威しなんざごく僅かだ幻火で焼かれようが熱くてかなわねェことは身をもって知ってる筈だろ」
「っああはい」
「だが視覚以外を使おうとするのは良い心掛けだ!分かったらそれも踏まえてさっさと続けやがれ」
「はい」
そういうことなら噛んでみる、とかどうだ!
ぱくっ、ガリンッ
「っっ────」
い、痛い痛い凄く痛い絶対石だこれぇ
「お前は阿呆か馬鹿野郎がそんな強く石噛んだら歯ぁ折れんだろ!今回は治してやるが次はねェからな」
「ひゃい…」
壱松様はそう言ってオレのほっぺをひっぱった。触れられたところからじんわりと暖かくなっていく。癒しの術を施してくれたらしい。
暫く経って歯の痛みが和らいだ所で、壱松様はほっぺを掴んだまま手をぐっと引っ込めた。必然的にほっぺは離して貰えたけど、離れる時にぶちんと音をたてていたような気がした。ようするに、凄く痛い
せっかく治してくれたのにこれじゃあ意味が無い!相変わらず、優しいのかそうじゃないのかよくわからない御仁だ。
オレは未だにじんじんとその痛みを主張し続けるほっぺを抑えながら、訓練の続きに取り掛かった。
石とも飴とも判別のつかないそれは、少し齧って判断することにした。
カツン、カリッ。
飴なのか石なのかは、歯に当たった感触でなんとなく分かった気がした。きっとこれが正しい見分け方なんだろう。
壱松様はオレが黙々と飴を仕分けるのを、黙って見つめていた。
*
「終わりました」
「よし!…念の為、聞いておくが…いいんだな、それで」
「はい!」
「本当に?」
「はい」
「後悔しねぇな」
「はい」
「うし、じゃあ術を解除する…てめぇの選んだ答えの正否を刮目しやがれ」
どろんっ!
「──ッッ」
「結果は十個中五個…!わあ、うんうんそうだねぇじょうずに半分こできたねぇ〜ってあほかぁ籠に分けろっつっただろ」
「ええっそ、そんな筈じゃっ」
「ならもっと阿呆者だよ馬鹿め感触は弄らずにしておいてこのザマか流石はあほ烏だなァ」
「ううっ…!すみません」
「さては初めに思いっきし噛んだ時の感覚を恐れて判別可能な程の強さで噛まなかったな以後気をつけろ」
「はい…!」
「それからこの訓練は飴を三日連続で完璧に分けられるようになるまで毎日やってもらう!」
「っはい!」
「無論基礎訓練終了後に独りでな終わったら持って来い、落とすなり何なりして数が一つでも減ってたらやり直しだからな」
「は、はい」
「日を追う事にそれぞれ十ずつ、計二十ずつ飴が増えていくから覚悟しろよ!」
「ははい」
「例え百超えて仕分けてる間に日が暮れようが終わるまで帰ってくんなよ」
「っえ…」
「オイ返事はどうしたァ」
「ッッはい了解致しましたぁ心して取り掛からせて頂きます」
「よし、今日はもういい!行け」
「はい…ッ!ありがとうございましたッ」
バサッ
(…うう…!厳しいー)
(でもオレはやってやるからな!強くなる為にはなんだって)
*
流石に、やりすぎたか?いや……何れ戦場に出るからにはこの程度、屁でもねェような奴になってもらわないと命が幾つ有っても足りやしねぇし……。
しっかしあの基礎訓練を堪え忍ぶとはな……俺が思っているよりは芯の強い奴なのかも……それなら。
これからもっっっっと訓練の強度を上げても微塵も問題ねェよなぁ…
嗚呼、
「今後が楽しみだなァ…」
ゾクッ
「な、なんだこの悪寒は」風邪か