失せ物江澄は夜狩に来ていた。今回は雲夢と姑蘇の丁度中間地点で邪祟が現れたため両家に夜狩の要請があった。
問題なく、夜狩は終わった。時々、鬼道を使う者と遭遇し奪舎されていないか紫電で確認するが、魏無羨の手がかりもなければ、奪舎されていた者もいなかった。
今回の夜狩ではそんな鬼道の使い手すら見つからなかった。
江澄と藍曦臣は宗主同士であり、夜狩の後に2人で話をしていた。
地元の住民が助かりましたと、仙師に贈り物をすることはよくあることだ。
今回はその贈り物が一風変わったものであった。
「仙師様は、おみくじというものを知っておるかい?」
「おみくじですか?」
藍曦臣がお婆さんに話しかけられている。
「占いみたいなものさ。これ、よく当たるんだよ。普段なら金を取っているんだが、仙師様達には助けられたからね、一つずつ持っていってくれ。私ゃ、他に食べ物や差し出す物が無いんで、貰ってくれるとこちらも嬉しいのさ。」
「はあ。」
何も頂けなくとも問題はないのだが、お婆さんがせっかく勧めてくれているのを断るのもどうかと思い、2人はそれぞれ大量にある紙切れの中から1人一枚ずつ手にとった。
江澄は、占いなど信じるものか…どうせ当たらないと、思いながらも折角の贈り物にケチをつけるつもりはないので、紙を開いた。
「お婆さん、吉と書いてあるが?これは?」
江澄は吉であった。
「ほう。江氏の仙師様は吉か。吉なら大吉、中吉、小吉、ときて4番手に良いやつじゃ。その下にも、色々あるんじゃ。ただ、人によっては吉は大吉の次に良いと言う者もおる。まあ、そこは気の持ちようじゃな。」
「そうか。」
吉と書かれた下のところも見てみる。江澄の目に止まったのは、縁談である。
[いろいろのさわりあり]
縁談は上手くいかないと言いたいのか?やはり占いなど信じるに値しない…とは内心毒づきながらも他も見てみる。
[恋愛:良い人ですが危うい]
意味がわからない。どこにも良い人など居はしないぞ。
次に失せ物の欄である。[人もて]と書かれてある。つまりは失ったものは他人が見つけることになるのだろう。ふと気になった。
「お婆さん、この失せ物ってのは物だけか?」
「いや、失せ物っていってもな、探してる物だったり、友人だったり、恋人だったりもするんだ。色々さ。」
「そ、そうか…」
魏無羨をここ一年程ずっと探し続けているが見つからないのだ。手がかりもない。あいつが死ぬわけないと思っていた。だから探し続けていると言うのに、おみくじでは、見つけるのが俺じゃない別の人と言うのか。これは許せない。
他にも、待ち人という欄もある。あるのだが…
[来らず、さわりあり]
来ないではないか。いいことは一つも書いていない。
やはり魏無羨は死んでしまったのか?
本当に吉と言うのは良い物なのだろうか?本当は吉が1番下ではないのか?と疑いを持った。
ふと、隣が気になって、声をかけてみた。
「藍宗主は何が書かれてあった?」
「私ですか?私は、大吉と。」
「他は?ほら見せてみろ。」
「あっ!」
藍曦臣はなぜか焦ったように声をあげる。それを気にせずに勝手に見た。
[縁談:多くて困ることあり
恋愛:この人を逃すな
失せ物:手近にあり]
俺のとは雲泥の差である。俺と藍曦臣ので一体何が違うのか…ため息をこぼした。探し物もすぐ見つかりそうである。大吉とはそんなにも違うのか。
「あなたが羨ましい。縁談に困ることがなさそうだ。」
もう、おみくじを信じないという気持ちはどこかへ消え去っている。江澄は夢中になって藍曦臣のおみくじを読んでいた。
「いえ、思っている人と結ばれなくては意味がありません。どうやら逃してはいけないようですし、頑張ります。だから…」
そう言って、藍曦臣は江澄の手を握った。魏無羨のことで沈んでいた気持ちと、急なことに驚き固まっている。
「はっ?」
急に握られた江澄は困惑でしかない。藍曦臣は美しい顔で微笑みながら近付いてくる。
「今はまだ何も告げませんが、覚悟しておいてくださいね!」
「?????」
藍曦臣は困惑している江澄の手に口付けを落とすと離れた。
江澄は先ほどまで考えていたおみくじの内容や魏無羨のことが頭から抜け落ちてしまうほど驚き固まったまましばらく時間が経過した。
どうやら最後はおみくじを結んで帰ってきたらしいが、記憶になかった。
その翌月から、頻繁に藍曦臣が蓮花塢に訪れるようになった。江澄が藍曦臣からの熱烈なアピールに折れたのは1年もかからなかったとか。
あのおみくじは当たっていたのか、魏無羨は結局他人の手によって蘇ることになるのであった。