あなたに夢中『あなたに夢中』
陽が沈み、黒い空に覆われた頃、アジト内は静まり返っていた。アジトを自宅に等しい状態になっているKKは今日も帰るつもりはないようで、ソファに座り、膝の上にノートパソコン置き、作業をしている。テーブルは書類の山に支配されている為、使うことが出来ない。
「……」
一人分間隔を空け、ソファに座っている暁人は横目でチラチラと盗み見ている。どうしても、気になってしまう。それもそのはず、KKが眼鏡をかけているのだ。黒縁フレームの細身の眼鏡がKKにマッチしている。初めて見た姿に思わず、口を開け、呆けてしまったのがKKに見られていなくて良かったと、何も進んでいないレポートに目を向ける。
「……」
カタカタとキーボードをたたく音が室内に響く。余程、集中しているのか、頻繁に盗み見している暁人に気付く様子がない。
「……はぁー」
全く集中できない暁人は嘆息を吐き、手を止める。レポートは一文字も進んでいない。今日仕上げるつもりだったが、これは無理だと諦める。
「……」
「……」
いつの間にか、画面から目を離したKKがこちらに顔を向けており、視線がかち合う。盗み見ていることに気付かれたと思った暁人は即座に目を反らし、ソファの上で膝を抱えると、不思議そうな顔をしたKKがローテーブル上に目を向けた。
「…なんだ、進まないのか」
「…KK」
「どうした?らしくないぞ」
どうやら、レポートが進まなくて、拗ねていると思われたようだ。全然違う理由に安堵しつつも、ずっと気になっていたことを聞くことに決める。
「眼鏡…」
ぼそりと呟く。
「眼鏡?」
「眼鏡、どうしたの?」
「?ああ、これか?前に細かい作業するのに見にくくてな、作ったんだよ」
「KKの事だから、オシャレとか気にしないと思ってた…」
「絵梨佳がついていくって、聞かなくてな。気づいたら決まってた」
「ふーん」
別に気にしていませんよ、と無表情で素っ気なく答えるも、内心は大切な恋人が身に着ける物が自分以外の人から送られた事実に嫉妬心でいっぱいだ。けれど、頭の片隅では絵梨佳のセンスに太鼓判を押している。
「お暁人君~、焼きもちか~」
にやりと笑う顔に、ムッとする。
「……」
「まだまだ子供だな」
ノートパソコンを閉じ、ローテーブルの上へ置くと、ぐっと、距離を詰められる。
「子供扱いしないで」
「なら、大人の扱いしてやろうか?」
暁人の背に手を回し、顔を近づける。邪魔だと、眼鏡を外そうとする手を暁人の手が抑える。
「?」
「そ、そのままで…」
「…気に入らないんじゃないのかよ」
「それとこれとでは話が別!」
気恥ずかしさに頬が火照る。これではまるで欲望にかられたみたいではないか。
「じゃあ、今日はこのまましてやるよ」
「んっ、…はぁ、ふっ…」
口と口が重なる。眼鏡が少し邪魔だけれども、いつものKKじゃないみたいで、とても興奮する。舌が口内に入り、歯をなぞる。深くなる口づけに鼻で呼吸するも、上手く出来ず苦しくなる。
「煽ったのはお前だからな、覚悟しとけ」
ソファに押し倒される。Tシャツの下に手が潜り込み、軽く筋肉がついた腹を撫でていく。
「ねぇ、僕が何かプレゼントしたら、身に着けてくれる」
KKの首に手を回した暁人がそう呟くと、KKは目を点にして瞬いた。
後日、KKからペアリングをプレゼントされた暁人が驚嘆するのは、別のお話である。