初穂「タナトス!来てくれ!」
小さな獣の鳴き声と共に届く若々しい男の呼び声。
ちょうど方々で集めた死者の魂達をカロンへ引き渡したところだった。はっと顔を上げた死神へ、冥府の渡守は低く唸る。そこに揶揄いの色を感じてタナトスは兄神を睨め付けた。
「今日の分はこれで最後だ」
さらば、と言い終わりもしないうちに輝く翼を広げ、死神は呼び声の元へ馳せる。
高らかな弔鐘と共に再び顕現した死の神は、巨きく壮麗な門扉の前に浮かんでいた。人気のない静かな木立の中に立つ、地下の神々へ奉じられたステュクス神殿。ならば今から相対するのはかの冥王ハデスであろう。
唇を引き結び、大鎌を構えて振り向く。しかしその先にいたのは冥王ではなかった。
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