傷落ちの雄花~⑥~+ひとことあとがき だが、そんな生活もそう長くは続かなかった。浩介に見合い話が来たのである。
医学を学んでいる大学生、成績も優秀、端正な顔立ちの長身の男、これだけの好条件に、話が来ないはずは無かった。
当然に二人とも、とっくに見越していた事であった。
切り立った崖の上、勢いのある水飛沫が地上近くまで打ち付ける。それぞれの遺書の上、重石に靴を揃えて置く。
「先生、本当にこれで良かったんですか?」
「浩介こそ後悔してないか?」
「はい、先生と共に居られるのであれば、何処まででも付いていきます」
お互い朝に市場で買った新しい靴に履き替え、踵を返す。
二人で新たに第二の人生を。
「もうお前は俺に属する編集者という立場ではないのだから、先生ではなくこれからは名前で呼べ」
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