傷落ちの雄花～⑤～ 芽生えてしまった感情の仕舞い用なんて分からない。更にお互いの意思を確認し合えば、もう当たり前のように時を一緒に過ごす仲、交わりも進むのが自然の流れであり…

浩介は改めて息を呑んだ。海外の血でも交じっているのか…いや、でもそれにしてはそこまで日本人離れしているわけではない。色素が薄い髪、目の色も黒ではなく、深い碧色を帯びていて、見詰めていると呼吸も忘れ、吸い込まれそうになる。

「先生…その、俺こういう経験初めてで…」
「前に傷を調べた時に、全部見たんだろ？」
「あの時とは全然違います」
「なぁに、大人の戯れだとでも思って楽しめば良い」
「だめです！…先生のこと、大事だから…大切にしたいんです」
がっしりと抱き締めたまま、動かない浩介。
「浩介…それでは接吻すら出来ないぞ？」
「す！すみません！！」
「謝ることはない」
慌てて体を離した浩介とは逆に大人の笑みを見せる青木…僅かばかりに胸が軋んだ。
慣れた手付きで腰紐を手解き、はだける姿に目が釘付けになり、ゴクリと生唾を飲む。
「ん？黙って見てないで浩介も脱げ。それとも俺が脱がす方が良いか？」
「い、いえ！自分で脱ぎます！！」

透き通るような肌も、宵の月に照り返しをしそうなほどに白い傷痕も全てが愛しくて、余すところ無く口付ける。
「男同士はな、ここを使うんだよ」
「先生…からかってませんよね？」
「本当に浩介は何も知らないんだな」
陶器の油入れを渡し、青木は浩介の手を導いた。
辿々しい手付きも慣れていない接吻も、何もかもが新鮮で優しすぎて、気付けば目から涙が溢れていた。
「すみません先生！痛かったですか？」
たじろいで体を離そうとする浩介をぐっと引き寄せ、そのまま唇を合わせる。
「違う…嬉しいんだよ、浩介。続けてくれ」
甘い時間をたっぷりと堪能し、二人ほぼ同時に果てた。
「別に中に出しても構わんかったのに…」
「ただでさえ栄養が回っていないような体なのに、腹まで壊す事になったらいよいよ先生の身が危険です」
「ったく、何処まで真面目なんだよお前は」
汗をかいた体を清潔にし、同じ布団に潜る。浩介には全てを話した。
「この外見だと、下手に目立つ事が多くてな、両親も俺のこの見た目で浮気だの何だのと仲違いしてしまって、いたたまれずに家を早めに出た。しかし、何処へ行こうともこの見た目は付いてくる。孤立して、生活をどうしようと思っていたところ、新聞で小説書きの募集記事を見付けたんだ…」
「でも初めから上手くなんて行くものではない…仕事が欲しくて、そういう関係を持った人数もひとりふたりではない。幸か不幸かこの目立つ見た目に交わりを試してみたいと…珍種の動物への好奇心だとは分かりつつも、先立つもの欲しさに男女構わず…返って欲求の片鱗さえ見えれば此方のしてやったりだと、身を差し出す日々を続けたこともあった」
「…軽蔑するか？」
不安そうにすくむ肩を、後ろから、世界一貴重なものに触れるように優しく、でもしっかりと抱き締めた。
「あ、因みに言っておくが、お前の父親とは何も無いから、そこは安心して良いぞ」
「はい」
青木の体を反転させ、今度は真っ正面からぐっと抱き寄せる。
「先生の過去も、とても弱い部分があるところも、全部ひっくるめて、俺は先生が好きです」
「俺も、浩介のことが大好きだ」
目と目を合わせる。自然と引き寄せられ、お互い呼吸困難になるくらいの、長く甘く熱い接吻を交わした。