傷落ちの雄花~⑥~+ひとことあとがき だが、そんな生活もそう長くは続かなかった。浩介に見合い話が来たのである。
医学を学んでいる大学生、成績も優秀、端正な顔立ちの長身の男、これだけの好条件に、話が来ないはずは無かった。
当然に二人とも、とっくに見越していた事であった。
切り立った崖の上、勢いのある水飛沫が地上近くまで打ち付ける。それぞれの遺書の上、重石に靴を揃えて置く。
「先生、本当にこれで良かったんですか?」
「浩介こそ後悔してないか?」
「はい、先生と共に居られるのであれば、何処まででも付いていきます」
お互い朝に市場で買った新しい靴に履き替え、踵を返す。
二人で新たに第二の人生を。
「もうお前は俺に属する編集者という立場ではないのだから、先生ではなくこれからは名前で呼べ」
「青木…さん」
「想太で良いし、[さん]も要らん」
「なんか照れます…。………想太」
「浩介」
二つの影が、朝日を受けて重なる。
「それにしても…俺は一応文集誌に連載をしていた物書きだからなー、新たな投稿の際には違う名前を決めなければ…。思いきって作風も変えるか」
「…それに、浩介にも新しい稼ぎ処を見付けてもらう事になる。すまん、これだけは苦労をかけるな」
「いえ、もう手立ては粗方考えています。暫くは人伝てに往診が必要な家を練り歩いて、それと平行で独学で更に医学を学んでいくつもりです。治療分野が広がればそれだけ安定した生活になるとも思うので」
青木ははたと思い付く。
「そうか!浩介の医学知識を借りれば事件や推理もの…作風の幅も広がりそうだな。よし、楽しみになってきたぞ!」
気鋭の新人として『青井想介』の名が新たな文集誌に載るのは、そう遠くない未来の事であった。
━━━おわり━━━
◇◇◇ひとことあとがき◇◇◇
とにかくイダアオちゃんで♪めげないロミジュリ♪話はずっと書きたいと思っていて、9巻のイラストでこれだー!って思ってダーーーーッと書けました。感謝!!