喫茶店の辻田さん喫茶店を一人で切り盛りしてるマスターの辻田さん。吸血鬼なので夜間営業メイン。
珈琲とナポリタンなどのご飯も美味しい、静かな喫茶店。
辻バレ済み。かなり時間が経過しているので落ち着いた大人の辻田さんと、喫茶店に通う人の話。ご飯話や珈琲も書けたら書きたい。
辻田さんが珈琲にこだわり出した切っ掛けは官で、珈琲をブラックで飲んでいたから。
初めて口にした時は苦くて嫌いだったけれど、官と人間の食事をとるようになってから徐々に味覚が発達していき、苦味にも慣れてきた。まだ砂糖や牛乳がいるけど珈琲も飲めるようになり、官用にブラックの珈琲を沢山淹れた。
官の為に美味い珈琲を淹れてやりたくなって、豆や抽出方法にこだわり始めた辻田さん。その流れで美味しい料珈琲が入れられるようになり、喫茶店を開きませんかとなる。
これから先、本官が辻田さんと呼ばなくなっても辻田さんと呼ばれていたあなたが確かにいたのだと覚えて貰えるようにとの願いを込めて喫茶店の名前を辻田にしましょう!と決めた。
辻斬りナギリの名前が忘れられて、外で普通にナギリと呼ばれるのが当たり前になったけれど、喫茶店にいる間は客からはマスターの辻田さんと呼ばれる。
喫茶店やってる辻田さんの所に来る客
①駆け出しの退治人。
下等吸血鬼デカイカラスに持ち逃げされた腕時計を探して欲しいと依頼されたのはいいが中々見つからず凹み中。ハンターズギルドは退治依頼が貰えるような実績がある退治人が多くて物探しの雑用すら解決出来ない自分が混ざると更に自信喪失するのでいづらくて、喫茶店で休憩しつつ次は何処を探そうかシンヨコのマップ広げて唸ってる。
毎日のように机にマップ広げて頭を抱えていたら、珈琲を運んで来た辻田さんにこの辺りは探したか?と言われて行ってみたらデカイカラスがいた!探し物も見つかった!ありがとうございます!何で分かったんですか?
昔その辺りでゲーム機を盗られたガキがいた。なる程!カラスがいそうな場所を知っていたんですね!お陰で依頼を遂行出来ました!お礼させて下さい!いらん!じゃあメニューで一番高いのは…無理なんでカツカレー大盛りでお願いします!いつもと変わらんだろうが。とっとと食って次からはギルドへ情報収集へ行けと追い出される駆け出しの退治人。
②親と喧嘩して家出して来たダンピールの少年。
将来吸血鬼化する気でいたのに、最近親がそれに反対するので不貞腐れている。
辻田さん吸血鬼だろう。俺の親さあ、俺が産まれた時は喜んだって聞いたんだ。ダンピールは吸血鬼化し易いから、子供の俺が吸血鬼になったら、吸血鬼の親父が一人で寂しくなくなるだろうって。だから小さい頃から俺、将来は吸血鬼になるんだと思ってたのに、最近はもっと大人になってよく考えてから決めろって煩いんだ。辻田さんだって吸血鬼だから、俺が吸血鬼化した方が嬉しいだろ?
ガキが吸血鬼化した方が嬉しい。そう言われた瞬間、頭が真っ白になった。昔の俺なら反射的にガキを斬っていたかもしれない。
俺がどんな風に吸血鬼化したかなんて、ガキには関係ないだろう。自分の意見に同意して欲しいか、適当に聞き流せばいいだけの事だったが、出来なかった。
出て行け。家に帰れ。そう言って追い出した。喫茶店をやる時に学んだ接客業の対応としては最悪な態度だったが、それを咎めるような奴も今はいない。
カンタロウがいれば、あのガキに対して大人として正しい対応をしてくれただろう。
奴を思い出して対応すれば良かったとは思うのに、出来なかった。吸血鬼にされた時の事も、ここにいないカンタロウの事だって思い出したくなかった。随分前に忘れたと思っていたのに、思い出してしまえばジクジクと体の内側が痛む。
ドアにcloseの看板を出して、早々に店仕舞いをした。今日はもう何もする気になれなかった。
翌日、吸血鬼の親に付き添われたガキがやってきた。吸血鬼の親は俺の事を知っていたらしい。随分前の事件をよく覚えていたものだ。しかも、それを知っていた上で店に通っていたのか。珈琲が好みの味だったからと、ただそれだけで元凶悪犯がやる店に通っていた吸血鬼と何も知らなかったガキ。ガキの方は昨日、俺がどんな奴なのか聞いたのだろう。無神経な事を言ってごめんなさいと謝ってきたガキに怒りは湧かなかった。ただ、俺がどんな奴なのか知ったなら、もうここには来るなと忠告した。この先ガキがダンピールのままだろうと、吸血鬼化しようと俺には関係ない。珈琲を飲みに来ていた吸血鬼とそれに引っ付いて来たガキの客がいなくなるだけだ。それだけのはずだったのに、来るなと言ったガキは毎日のように店に顔を出した。
小遣いがなくなるぞと言っても聞かず、クリームソーダを頼んでそれを飲み終えるまでは頑として帰ろうとしないガキは、その内机の上に教科書を出して勉強を始めた。
まだ吸血鬼化するのは諦めてないけど、もっと勉強して色々調べてから決める事にしたから、受験するんだ。静かにするから、ここに通わせてよと言うガキを再び追い出す気にはなれなくて、勝手にしろと言って放って置いた。
暫くしてから、吸血鬼になって通うつもりだった吸血鬼しかいない夜間学校ではなく、人間とダンピール、それに人数は少ないが昼も活動出来る吸血鬼が通っている進学校に合格したと報告してきたガキは、進学して寮に入るからと店に来なくなった。時折、ガキが座っていた席に親の吸血鬼が珈琲を飲みに来る。携帯の使い方が分からないから、見て欲しいと頼まれて渡される携帯の画面には、まだ吸血鬼になっていないガキが人間と吸血鬼に挟まれた写真が表示されていた。