探しものはなんですか?「あれ、ない‥」
その呟きから全てが始まった‥。
確かにここにいつも入れておいた筈。最後に確認したのはいつだった?思い出せ。 思い‥‥。
いや、昨日もちゃんとここにあった。
覚えている。確かに触った。 でも、昨日はあいつがいたから。あいつの目を盗んでこっそりと。
そうだ。丁度 この引き出しを開けて取り出した時にあいつが僕の名前を呼びながら部屋に入ってきたから 慌てて。
あぁ‥! その後 どうしたっけ‥。引き出しに戻した?ポケットに突っ込んだ?
‥‥‥覚えてない‥。
あれは小さいから何処にだって紛れ込める。
引き出しと壁の隙間 咄嗟にポケットに入れたならソファーの座面の間とか 下手したら広げていた本の間にだって‥。
あぁ どうしよう!
小さいけれども大事な‥。
いつもとか常にその存在を意識しているわけじゃないけれど 1日の終わりにはそっと取り出すのが日課になっていた。
僕に力をくれる小さな物。生きていくんだ と。
生きていっていいんだ と 僕に語りかけてくれる大事な‥。
無い‥無い‥無い!
無くす筈がない。捨てる筈もない。いや もし何かに紛れ込んだのに気付かず間違えてゴミ箱に入れていたら?
‥昨日はあった。まだゴミは出していない。大丈夫!絶対にこの部屋の何処かにある。
それからの1週間 僕の家捜しは捜査以上の徹底ぶりだった。
棚と壁の間は隙間ワイパーなる物を買い求めて隈なく浚った。ゴミも全部ひっくり返して確認した。あの日広げていた本も雑誌も1ページずつ確認した。ソファーはクッションだけでなく 座面も背もたれも外せるものは全部外して隙間に入り込んでいないか這いつくばって確認した。(‥思いがけず 色んなモノが出てきて赤面したり‥。)
1週間の必死の探索にも関わらず探し物は見つからなかった。何処かにはある筈なのに‥。その何処かは何処なんだ⁈
一瞬 新しく入手する事も考えた。
頼めば きっと同じ物が手に入る。
‥‥‥‥。
でも、それは違う物だ。
僕が毎晩取り出していた僕のお守り。
それは生きていて欲しいという願い。
それは生きていくという自分との約束。
積み重ねてきた思いが 積み重ねてきた時間が 取り出して手にしてきた時間に重なる。
1週間探し尽くして。 無くて。
無いという現実に、無くしてしまった事に、今更ながら打ちひしがれた。
──週末
いつもと変わらない週末。先週に引き続き僕の部屋を訪れている男。
‥こいつが あの時 部屋に入って来なければあんなに慌てる事も‥。
逆恨みとわかっていながら つい当たりがキツくなってしまう。
憂鬱で不機嫌な僕。
僕の不機嫌も身勝手も なんでもないように受け入れる変わらぬ優しい瞳に僕が映る。憂鬱で不機嫌で‥‥。失くし物のダメージに泣きそうな弱気な僕が。
青木が背中を向けた隙にひとつ溜め息。
──諦めよう。無いものは無い。
仕方ない事実に囚われて 今を置き去りにして、又 後悔するなんて非効率だ。
あぁ でも!
後ろを向いて鞄をごそごそしていた青木がこちらに向き直った。手にしていた箱に身体が強張る。
「おまえ それ‥。」
声が震える。
「それ‥!」
箱を開けて中身を取り出して僕の左手を取り薬指に嵌める。あの時と同じように。
「あぁ やっぱり。良かったー。」
(何がだ!僕がこの1週間どんな思いで!)
「いやぁ。薪さん この指輪作った時から比べると ちょっと健康的になられて。ちゃんと食べさせて寝させているから💕(俺が)。この前来た時 指輪キツくなってる気がして。夜 薪さんが意識無くされている間に嵌めてみたらやっぱりキツかったから。」
(なんだ?それ。意識無くしてる時ってどういう状況‥? それに何?おまえといて幸せ太りしたとか言いたいのか⁈いや それより)
「指輪を何処に閉まってたか なんで知ってる⁈」
「え?だって薪さん。 あなた 自分で思っている以上に隠し事下手でダダ漏れなのは周知の事実で。 あ。だから お直しに出しておいたんですよ😊」
(おまえだったのかー!)
薪線をびっしりと発生させた僕が青木を思いっきり殴ってもきっとバチは当たらない筈。僕がこの1週間 どんな気持ちで見つからない この小さな指輪を探していたか⁈
一言 言ってからにしろー!
「えー?俺 言いましたよー。もう‥! だから常々言ってるでしょ?人の話 聞いて下さいね って。」
探し物はなんですか?
見つけにくいものですか?
──探すのをやめた時 見つかる事もよくある話で──(おわり)