とりあえず気つけにコーヒーを一杯 昼過ぎに乗り込んだ車両は時期外れもあってテレビで見るよりもずっと閑散としていた。
最低限の着替えと旅行に必要なくらいの日用品を詰め込んだボストンバッグは膨れているが見た目よりも軽い。斜めがけに背負っていた鞄を頭上の荷物入れに押し込むと一気に肩の重さが抜ける。これから非日常へと逃避するにあたって、鞄の中身は唯一最低限の日常の片鱗だ。自分が『知らない世界』に溶け込んで戻り切れない、なんてことのないように打った楔だ。そう言うと大変仰々しい限りだが、そう思わなければ東京に戻る気持ちが消えてしまうかもしれないから。
二人掛けの窓際。窓には駅のホームと次の新幹線を待つ人の列。大型連休でもない平日のホームもまた広さを持て余すほどまばらな数が行ったり来たりしている。
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