Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 70

    MondLicht_725

    ☆quiet follow

    夏五版ワンドロワンライ第117回お題「ローカルタレント」お借りしました。

    解散後の祓本夏五です。

    #夏五
    GeGo
    ##夏五ドロライ

    夏五版ワンドロワンライ第117回お題「ローカルタレント」 線を半分ほど引いたところで、黒が掠れる。どうやらこのペンも、そろそろ寿命であるらしい。また新しいものを買ってこないと。それとも、伊地知あたりに頼んだ方が確実だろうか。毎日は目まぐるしくすぎていって、今覚えていても忙しさにすぐに忘れてしまう。
     やっぱり伊地知に頼もう。思い立ったら忘れないうちにすぐ行動。ポケットからスマホを取り出してメッセージを送信するとすぐに既読がつき、わかりましたと返ってくる。やっぱりこれが正しい選択だったらしい。これで忘れてしまってもペンは手元にやってくる。
     今日のところは仕方がないので掠れたまま、隣に書いてある数字プラス1を書き、定位置となっている空き缶のペン立てへ戻す。南の島に旅行に行ったときに買ったローカルビールの空き缶を加工して作った代物だ。今時小学生の工作だってもっとマシなものを作るだろうと作った当時は2人して爆笑したのだが、今でもこうして役割を果たしてくれる。落とした時についた凹みはあれど、色あせることもなく今でも10年前の面影をしっかり残している。
     線を引いた日付を指でなぞる。古風だとわかっていながらペンで過ぎた日付を消し始めてから、725日目。イコール、お笑いコンビ「祓ったれ本舗」が解散し、相方がこの部屋から出て行ってからそれだけ経過したことになる。
     うだる暑さがいくらか和らぎ始めた、初秋の日だった。
     それから毎日、日付を消し、数字を書き込んでいる。まもなく、2年だ。
     そこに何の意味があるのか、自分でもはっきりとはわからない。ただなんとなく、あいつが確かにここにいたんだってことを、忘れたくなかったのかもしれない。
     リビングに戻り、テーブルに開いたままのパソコンの前を陣取る。そうして日課となった動画サイトのチェックをする。見るのはいつも、とある地方局のローカル番組である。最近では公式チャンネルで投稿してくれるのでありがたいかぎりである。
     つい数時間前に投稿されたばかりの動画をクリックする。サムネで苦笑いしていた男が、すぐに動き始める。
     内容は、■■県で活動するローカルタレントが、伝承や都市伝説が残る土地に赴いて真相を解明しようとしう、ローカル番組内でレギュラーとなっているローカルネタ満載のコーナーである。全国どの地方局にもありそうなコーナーではあるが、この県だけ異常に注目度が高く、こうして動画サイトにまで取り上げられるほどだった。以前は無断転載ばかりでそれでも再生数を伸ばしていたが、人気を受けてついに公式チャンネルができたという経緯があった。
     人気があるのは、内容が面白いから――というわけではない。
     そのローカルタレントが特別だからだ。

    『というわけで、こちらが今回の目的地、■■町にある洞窟ですね』

     迷彩柄の上下に帽子まで被った、やけに顔のいいデカイ男が、胡散臭い笑みを浮かべた。背後には、真っ黒な口を開けている大きな洞窟の入口がある。
     ヘッドホンに、耳を寄せる。この動画の存在を知ったのは、1年前。おかげでこうして声が聴ける。
     解散してからまだ2年弱。この男が、人気絶頂のまま解散した「祓ったれ本舗」の片割れだと広く知られていた。なぜ、どうして、と当初は全国ニュースにもなったほどである。
     しかし、当の本人はいたってマイペースだった。
     移住した先でローカルタレントを始めたことは報道で知っていたが、正直こうして派手に露出するとは思ってもみなかった。でもすぐに、仕事が嫌になって解散したわけではなかったのだと思い至る。むしろ、自分よりよっぽど熱心に取り組んでいた。
     なぜ解散しようと言いだしたのか、波に乗っていた仕事を辞めて出ていったのか、ちゃんと理由は聞けていない。ただ、あいつが決めたことならと受け入れた。怒り、悲しみ、惑い。そういったものを、すべて飲み込んで。
     今回も、元気そうでよかった。慣れた声に意識を傾けながら、ただそれだけを思う。それ以外は考えないようにしていた。

    『というわけで、ご好評いただいたこのコーナーも今回で最終回となりましたが、』
    「――――は?」

     最終回?思いがけない展開に、勢いよく体を起こした。
     聞いてない。知らない。

    『今までありがとうございました。またどこかでお会いしましょう』
    「いやいやいや待て待て待て」

     最後まで胡散臭い笑みのままで、画面の中の男が手を振る。今まで動画の中身以外まったく興味がないので見たことがなかったのだが、少しスクロールすると、阿鼻叫喚なコメント欄がずらりと続いていた。終わるのヤダ!何を楽しみに生きていけば。新しいの始まるんですよね!?コーナーが終わることへの嘆き悲しみがほとんである。
     きちんとタイトルを確認すると、そこにはちゃんと「最終回」の文字もある。
     ――どんだけ画面しか見てなかったの、僕。
     最終回。つまり、あいつの最新状況を知る術がなくなるということだ。すぐに検索して調べてみるが、別の、新しいコーナーが始まるとか、そういうことは決まっていないようだった。それどころか、ローカルタレントとしての仕事も休業するようで、SNSの方でも悲しみで埋まっている。
     パソコンを消して、テーブルに伏せる。
     またふらりと、どこかへ移るのだろうか。唐突にこの仕事を辞めたように。この部屋を出ていったときのように。
     チャイムが鳴った。二度、三度。幻聴ではない。テーブルに放ったままのスマホを見れば、訪問には些か非常識な時間である。誰だろうか。考えられる相手は伊地知くらいである。次に会うときでいいと言ったのだが、まさかわざわざペンを届けに来たのだろうか。
     再び、チャイムが鳴る。どうやら諦めて帰るという選択はないらしい。すでにシャワーを浴びたあとで、すっかり寛いだ姿だったが、仕方なくそのまま玄関へ向かう。
     そのときは、最終回ショックを引きずっていて、うまく思考が回っていなかった。
     伊地知なら、訪問前に必ず連絡を入れることをすっかり失念していた。
    「伊地知ぃ、こんな時間に、な、に」
     ドアスコープを確認することもなく、ドアを開けた。完全に、相手は伊地知だと思い込んでいた。

    「―――や、悟。久しぶり」

     ついさっきまでパソコン上で見ていた顔が、すぐ目の前で微笑んでいた。





    ****
    記憶と同時に呪力や術式も自覚して、呪霊集めるために地方行脚する傑、という裏設定
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏☺👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏☺☺☺☺☺💕💕💕👍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works