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    so_annn

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    12/19キスブラ版ワンドロライ企画様のお題、「映画」をお借りしました。

    色々調べながら書いたので+20分です。
    ブラッドと一緒に有名な映画を観ながら、色々考えたりするキースの話。恋愛映画をくだらないと思って見ながら、結局感情移入しちゃうキースとか、それを悟ってちょっと機嫌よくなるブラッドの話です。映画の台詞やシーンを色々引用しているので苦手な方はご注意ください。

    #キスブラ
    kissBra

    Make it count.【クリスマス直前! 長い夜を楽しむ長編映画ウィーク!】
     ディノが勝手に購入して設置したテレビをつけると、そんなCMが流れてきた。
    「映画?」
    「どうかしたのか?」
    「いや、なんか今から映画やるっぽい」
     ワイングラスをふたつとワインのフルボトルを持ってきたブラッドは、そこに羅列されている映画のタイトルたちを見て「どれも3時間超の大作ばかりだな」と言った。番組表を確認すると、今から4時間、つまり午前1時までずっと映画を流す、という企画らしい。月曜から日曜まで、毎晩だ。知らないタイトルも複数あったが、幸か不幸か今夜のタイトルは映画に疎いオレでもタイトルとあらすじくらいなら知っている名作中の名作だった。
    「これでいい?」
    「あぁ、俺もその映画は好きだ」
     頷いてブラッドがソファに腰を下ろす。
     ブラッドと過ごす夜は、大抵BGM代わりに普段流さないテレビをつける。ラジオだけじゃちょっと寂しくて、音楽だけじゃちょっと照れ臭いから。
     今更ブラッドとの沈黙を気まずく思うような関係ではないが、それでも言葉が途切れたとき、自然に視線を固定できる場所があるっていうのは精神衛生上もいい。テレビを眺めながら相手の体に触れあって、盛り上がったらそのままテレビを消す。それが場所を移す合図だった。
     こいつと過ごす夜は大抵晩酌もセットで、その時飲む酒は様々だ。ブラッドおすすめの日本酒だったり、焼酎だったり、ビールだったりワインだったり、オレが簡単なカクテルをふるまうこともある。今夜はブラッドが持ってきたミディアムボディの赤ワインだった。見るからに高そうなボトルに顔をしかめると、彼は「貰いものだ。いい酒だからどうせならお前と飲もうと思った」と涼しい顔で可愛い事を言う。
     それぞれのグラスにワインを注いで、乾杯。つまみはこいつがシャワー浴びてる間に用意したチーズと生ハム、後はクラッカーのミニピザ。……ディノが知ったら煩そうだから秘密だとふたりで顔を見合わせて笑いあう。
     そうこうしていると無駄にでかい液晶の中ではごぽごぽと揺れる海の映像が流れ始めた。3時間超の大長編の始まりだ。
     ブラッドは好きだと言っていたが、オレは正直この映画はあまり好きじゃない。
     金持ちの女と、偶然の幸運でその場に居合わせた若い男のたった一日のラブストーリー。公開から何十年経っても色あせない、ラブストーリーの金字塔。それだけではなくドキュメンタリーの一面も持ち合わせ、作中繰り広げられる人間ドラマは共感し、涙し、拍手せざるを得ない。オレをはじめとして、この映画を観たことがないやつだってこの映画の主題歌は一度や二度は聞いたことがあるだろうし、あらすじや主演男優の名前くらいは言えるに違いない。
     観たこともない映画を苦手だというのは、きっとブラッドに怒られるだろう。
     映画の中では沈没船から金庫が引き上げられ、物語が幕を開けるところだった。
     財産目当ての気乗りのしない婚約、画家志望の貧しい男。片や自分を運ぶ奴隷船で片や故郷と夢へつながる片道切符。どこまでも対比される二人の運命的な出会い。
     現実って、こんなもんじゃねぇよなぁ。ワイングラスを傾けながら、白けた気分で画面を見やる。マナーも立ち居振る舞いも完璧な相手と一緒のディナーなんて、恥をかいてかかせて終わるだけだ。親切な貴婦人に礼服を一式貸してもらえて隣でマナーを指南してもらえるなんて幸運も普通は、ない。
     横目でブラッドを見つめると、彼はチーズをゆっくりと咀嚼しながら真剣に映画に見入っているところだった。なるほど、“ふれあい”にはまだ早いらしい。
     画面はヌードデッサンをしているという青年に、ヒロインが自分がモデルになると言い出すシーンへ移る。なるほど、箱入りお嬢様ではあるものの、なかなかに度胸のあるおてんば娘のようだ。まぁ、そうじゃなきゃ船から投身自殺なんて目論まないだろうが。
    「このシーンは」
     ふと声を掛けられて隣を見ると、ワイングラスを手に持ったまま、やはりブラッドは映画を観ていた。
    「この映画の中で一番初めに撮影されたそうだ」
    「へぇ?」
    「だからヒロインの裸体を見て恥じらいながら筆をとるこの男の演技はあながちすべて演技というわけでもないらしい」
    「ふぅん」
     生返事に気付いたのだろうが、それで怒り出すような関係でもない。……真面目な話の時はこぶしが降ってくるかもしれないが。
     また黙って映画を観始めたブラッドを横目に、オレも画面に視線を戻す。
     下等客船でのダンスパーティ、ヌードモデル、婚約者を怒り狂わせる二人の恋と巨大な船の中で繰り広げられる愛の逃避行。どれもこれも夢物語のおとぎ話だ。現実はこうもロマンティックにはいきはしない。
     少なくともキースは、愛のために相手に何もかも捨てさせることはできない。いくら相手がそれを望んでおり、そうしたいと懇願したとしても。生活の保障も、住処の保障もできない新天地での暮らしに、温室育ちの想い人を連れていくことはできない。自分一人であれば住み込みで働くバーのカウンター裏であろうがレストランの厨房だろうが、それこそ路地裏の軒下でも眠れる。けれど、相手はそうはいかない。あたたかく、黴臭くないふかふかの布団をかぶせてやって、日の光と小鳥の鳴き声で起きるような、そんな生活をしてほしい。おっさんの怒鳴り声と鼻がひん曲がるような腐臭ではなく。
     あぁ、でも確実に“清いからだ”のお嬢様と、逃避行の末に汗だくになって馬車の中で……ってのはなかなかそそるシチュエーションかもしれないな。まぁ、オレにはこれも縁ない話だが。
     途中に何度もコマーシャルを挟みながら映画は丁度折り返し。氷山に激突した船は、氷の浮かぶ真夜中の海でゆっくりと沈没を始めるのだ。
     パニックに陥る乗客、船底で身動きが取れない男を果敢に救出に向かうヒロイン。
     乗客の数の半分しかない救命ボート、十分で適切な避難訓練を受けていない船員たちによる致命的なミス。この辺りは仕事柄、身につまされる思いだ。ニューミリオンは海に囲まれた都市である。今のところ巨大客船の救命に駆り出されたことはないが、現に隣の男は遭難した自セクターのヒーローたちを寝ずに捜索した経験があるはずだった。
     救命ボートになんとしてでも乗り込もうとする男、相手を射殺してしまったことに震え、自らも命を絶つ航海士、ボートに乗ることを諦め、抱き合って死を受け入れる夫婦。最後の最後まで音楽を演奏し続ける楽師たち。
     立場も身分も様々な人間の生きざまと死にざまを描写しながら、船はどんどん沈んでいく。
     真っ二つに折れた船から水面へ叩きつけられていく人々の姿は、子供が見たら一生モノのトラウマになりそうだ。
     板切れに彼女を押し上げ、微笑む男。
    『君は生き残るんだよ』
    『この船の切符は、僕の人生で最高の贈り物だった。きみに逢えたからね。約束してくれ。僕のために。絶対に生き残ると』
     諦めるな、と微笑む男に諦めないわと頷き返すヒロイン。
     このシーンそういえば初めて見るな、と横目で何度目かのブラッドを見て、オレはぎょっと息をのんだ。青い画面を反射して深い紫色に輝く彼の瞳のその下の、嫌味なほどに長い下まつげにきらりと光るものを見つけたからだ。彼とのそう短くはない付き合いの中、彼が涙を浮かべているところなんて数えるほどしか見たことがない。その貴重な一回が、今、この瞬間だ。
     思わず彼の太ももの上の手にオレの手を伸ばすと、彼は画面から目を離さないまま、オレの手に指先を絡めた。
     例えば……例えばだが、オレの人生での一番の贈り物はと言われたら、それはアカデミーの合格通知だったのかもしれないと思う。ブラッドに逢えたから。……なんてクサい理由だけじゃない。ディノにも逢えたし、念願のヒーローにだってなれた。あの入学通知、あの薄っぺらい紙一枚がなければ今のオレは絶対にない。そういう意味では、あの入学通知は確かにオレの人生での一番の贈り物だったのかもしれない。運と、オレの雀の涙の努力が引き寄せた一番の贈り物。
     映画の中では、男との約束を守ると決めた女が、男の手を離し、笛を強く吹いている。暗い海の中にぷかぷか浮かぶ死体に混じって、男の体が深い海の底へ沈んでいく。
     海へとそっと沈められる宝石、そして年をとって温かなベッドで眠る老女は夢を見る。
     あまりにも有名なエンディングテーマを聞きながら、長々としたエンドロールを眺める。ハッとして時計を見ると、当然、短針はてっぺんを過ぎて右に傾いており、オレは長い映画を観た後の疲労感と、ふたりで過ごせる貴重な夜をある意味では棒に振ってしまったかもしれないという事実とに深いため息をついた。規則正しい生活こそが何よりも正しいと信じているオレの恋人は、いくら翌日が休日であろうと、明け方までセックスに興じるタイプではない。
    「いい映画だな、何度観ても」
     そんなオレのため息をどういう意味だと解釈したのか、恋人は重ねたままのオレの手の甲を指先でゆっくりと撫でながらそんなことを言った。
    「あー……まぁ、そうだな」
     その声が心底そう思っているという様子だったから、下手に否定はせずに曖昧に肯定しておく。別にこの映画について意見を戦わせたいわけではない。
    「しかし、ちょっと意外だな」
    「何がだ」
    「お前が恋愛映画見て感動するタイプだったってことが」
     まだ少し濡れている目じりをあいている手で軽く拭ってやると、ブラッドは少し驚いたような顔をした後、ふいと視線を逸らした。
    「別に……昔はそうではなかったんだが」
    「へぇ。ま、大人になって趣味が変わるってことはあるよな」
    「……それにこの映画はただの恋愛映画ではない。事実に基づいた入念な調査の上で実際に起こった事故を物語として昇華している素晴らしい作品だ。それにこの作品からは改めて学ぶことも多い。この事故はもとはと言えば90%以上が人災と言える。氷山を避けず……事実は船の進路を南寄りに変更したそうだが、それでももっと確実によけることを選ばなかった者、外聞を気にして無理な航路を進ませた者、外観を気にして乗客の半数しか乗ることができない救命ボートの数、そして行き届いていない船員への教育。人々の生き様や死に様が注目を浴びることが多い作品だが、それと同じくらい今の俺たちが学ぶことも多い」
    「あー、この映画そんな真面目に見てるやつ初めて見たわ」
     この映画も初めて観たが。ブラッドらしい。
     ボトルに少しだけ残っていたワインを空になっていたブラッドのグラスに注いで、空いた皿とオレのグラスと一緒にキッチンへもっていく。この時間から冷水で食器を洗うのは面倒だが、一晩とはいえ食器を放置するのは真面目な恋人がうるさい。
    「……キース、ひとついいか?」
    「ん?」
    「今のお前にとって、人生で一番の贈り物はなんだと思う?」
     つい先ほどまでオレが考えていたことと同じことを問われて、思わず泡だらけの手のまま首だけ後ろへ巡らせると、ブラッドはわずかに注がれた赤ワインをくっと飲み干してから、わずかに酔いが回った、テレビの中に映る何らかのコマーシャルの黄色を反射した瞳でオレを見た。
    「……さぁなぁ。考えたこともねぇ。強いて言うなら、酒とか?」
     到底正直に言うことはできず、笑いながら適当に誤魔化してシンクに向き直る。
    「俺は、アカデミーから届いた合格通知がそうだと思う」
     空になったグラスをシンクまで持ってきてオレの隣に並んだブラッドは、さっきまでのオレと全く同じことを言った。
    「勿論、合格するために努力した。運で勝ち取ったものでも偶然手に入れたものでもない。……けれど、あの日合格通知が俺のもとに届いたから今こうしてヒーローになれた。そして、ディノとお前に逢うことができた」
     じっとオレを見つめる瞳から、目が離せない。手にしたスポンジからぽた、と泡の塊が食器の上に落ちていく音がした。
    「お前と俺に配られるカードはいいカードも悪いカードも同じくらいあったが……それでもお前の隣で今も毎日カードを捲ることができて、俺は幸せ者だと思う」
    「……なんだよ、珍しくよく喋るな。酔ってるのか?」
    「そうかもしれないな。ワインと、素晴らしい映画に」
     にやりと笑う口元に、はぁ、とため息をひとつ。
    「もう一歩こっち来い」
    「は?」
    「見てわかるだろ。手が泡まみれだからお前を抱き寄せられないんだよ」
     肩をすくめると、ブラッドは少しだけ……本当に少しだけ笑って俺に一歩近寄った。その唇にちゅっと口づけて、腹を決める。
    「いいか、一回しか言わねぇからよく聞けよ。……オレもお前と同じだよ」
    「と、いうと?」
    「言わせんな。……アカデミーの合格通知。あれがオレの人生で一番の贈り物だ」
     らしくないことを言ったせいでぞわぞわしてきた。この話はここでおしまいだとばかりにシンクに向き直ってワイングラスを洗う作業を再開すると、どこか嬉し気なブラッドの声が左耳に流れ込んでくる。
    「まぁ、俺はお前をみすみす死なせたりはしないがな」
    「へぇへぇ。ブラッドビームス様は男前なことで」
    「お前もそうだろう?」
     その自信満々さ、辟易するよ。やっぱり思ったより酔ってんな?
     だからオレは返事の代わりに、亀みたいに首を伸ばしてもう一度ブラッドにキスをした。照れ隠しも多分に含んで。
    「酔っ払いはさっさとベッドに行きなダーリン。温かいベッドにな。オレがお前を殺してやるよ」
     駆け引きじみた誘いだったが、酔っ払いには効果があったらしい。酔っ払いのことは酔っ払いが一番よくわかるってやつだ。ブラッドは満更でもない顔をして、「お前も早く来い、ハニー」と言い置いてベッドの方へ行ってしまった。
     手の中には泡だらけのワイングラス。
     ……ところで今からこれを水で流すからオレの両手は冬の海さながらに冷え切ってしまうわけだが、怒られたりしないよな?

     オレの不安が解消されるまで、あと5分。
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    ohoshiotsuki

    MAIKING死神ネタでなんか書きたい…と思ってたらだいぶ時間が経っていまして…途中で何を書いているんだ…?って100回くらいなった。何でも許せる方向け。モブ?がめちゃくちゃ喋る。話的に続かないと許されないけど続き書けなかったら許してください(前科あり)いやそっちもこれから頑張る(多分)カプ要素薄くない?いやこれからだからということでちゃんと続き書いてね未来の私…(キャプションだとめちゃくちゃ喋る)
    隙間から細いオレンジ色の空が見える。じんわりと背中が暖かいものに包まれるような感覚。地面に広がっていくオレの血。ははっ…と乾いた笑い声が小さく響いて消える。ここじゃそう簡単に助けは来ないし来たところで多分もう助からない。腹の激痛は熱さに変わりそれは徐々に冷めていく。それと同時にオレは死んでいく…。未練なんて無いと思ってたけどオレの本心はそうでも無いみたいだ。オレが死んだらどんな顔するんだろうな…ディノ、ジェイ、ルーキー共、そしてブラッド―アイツの、顔が、姿が鮮明に思い浮かぶ。今にもお小言が飛んできそうだ。
    …きっとオレはブラッドが好きだったんだ
    だから―
    ―嫌だ、死にたくない。

    こんな時にようやく自覚を持った淡い思いはここで儚い夢のように消えていく…と思われたのだが――
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