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    ろまん

    @Roman__OwO

    pixivに投稿中のものをこちらでもあげたり、新しい何かしらの創作を投稿したりする予定です。倉庫です。

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    ろまん

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    すずの居場所 その日、キラ宿にあるリングマリィの住む家では、とある小さな事件が起こっていた。
     ランチタイム後の小休憩を挟み、すずがストレッチ用のマットを自室の隅に広げていると、突然扉を突き破らんばかりの勢いで部屋に入ってきたまりあとラビリィが、開口一番こう言ったのだ。
    「すずちゃん、ごめんなさい!」
    「ごめんなさいラビ!」
     すずがいきなりのことに目を白黒させていると、しばらくしてラビリィがぽろっと一粒涙を零した。ぎょっとしてすずが近くまで駆け寄ると、隣にいるまりあまで今にも泣き出しそうな顔をしている。すずは内心驚きで叫び出しそうになったけれど、なんとか深呼吸をして、ゆっくりと二人に向き合った。
    「えーっと、何が起きたかわからないんだけど……。二人とも、まずは落ち着いて。とりあえず、一緒にリビングに行こう?」
    「はい……」
    「わかりましたラビ……」
     トレーニングを中断して三人でリビングへと向かうと、すずは二人が自分に謝りにきた理由をすぐに理解した。部屋の真ん中に置かれたソファの革が大きく破けて、中身のウレタン部分が丸見えだったからだ。
    「ごめんなさい……。まりあがソファではしゃいでしまったせいで、ビリビリって破けてしまったんです……」
    「ちっ、違うラビ! ラビリィが悪いラビ! まりあちゃんにぴったりなかわいいイヤリングを見つけて、ラビリィがソファに座ってるまりあちゃんに話しかけたのが原因ラビ……ラビリィを叱ってくださいラビ……!」
    「そんな……! 違います! ラビリィのこーんなにかわいい気持ちは、とってもかわいいんですから! だから――」
    「はいはい、そこまで! 二人ともそんな落ち込まないで。大体すず、全然怒ってないよ。それに、このソファは元々年季が入ったヴィンテージものだったから。ほら、この角とかもうボロボロでしょ? どっちも全然悪くないよ」
    「でも……」
     まりあは悲しそうに呟いた。
    「すずちゃん、このソファがお気に入りだったでしょう? お兄さんからプレゼントされたものだって、かわいいお顔でかわい〜く言っていたのに……」
    「うーん……まあ、確かにこれはお気に入りだったけどね。マー兄ちゃんに贈られたものだったから、昔のすずにはもったいないくらい高価で良いもので、かっこよかったし」
    「すずちゃん……」
    「けどさ、」
     すずは、部屋を見渡した。
     ――すずが二十歳になった頃、まりあとすず、二人で貯めていたお金を使って、奮発して買ったこの家。もうすっかり当初の新居らしさはなくなって、今では雑貨や家具に彩られ、どこもかしこも生活感で溢れている。共同で使うリビングなんかは、特にそうだ。インテリアにも、すずとまりあとラビリィの「好き」がたくさん詰まっている。
     テレビの前に置いたこのブラックの本革ソファなんか、それがとてもわかりやすい。すず好みのソファに、まりあが実家の自室から持ってきたピンクや白のハート型クッション、そしてラビリィが気に入って買った、もこもこでふわふわのぬいぐるみがいくつも置かれている。最初はそのちぐはぐな組み合わせに違和感があったけれど、今ではすっかり馴染んだせいか、クッションやぬいぐるみが別のところにあってもついついソファの上に戻してしまう。
    「すず達、もう何年も一緒に暮らしてきて、前よりもっとお互いのことを分かってきたでしょ? だから次に買うソファは、これよりもっとすず達に似合うものを見つけられるはずだよ」
     ソファが新しいものに変われば、最初はきっと戸惑うだろう。この家に来てから、もうずっとこのリビングの真ん中にあったものだから。見慣れないだろうし、座るたびにこの表面のつるつるした感触を懐かしく思ってしまうかもしれない。
     それでも。きっと今のすず達ならば、この家にぴったりの、自分達らしい「かっこいい」を見つけられるはずだから。とびきりの「かわいい」と合わせられるような、素敵なソファを。
     すずはまりあとラビリィに目線を移した。
    「まりあもラビリィも、そう思わない? 今のすず達にもっとぴったりなものが、今なら見つけられるって」
     二人の大きな目を縁取っている長いまつ毛がパチパチと上下に瞬く。そして次の瞬間、表面を涙の膜で覆っていた瞳が、世界中の光を吸収するように、キラキラの瞳に変化していった。
     まりあのマシュマロみたいに柔らかい声が、芯を持ってリビングに響き渡る。
    「よしっ。まりあ、かわいく決めました! まりあとすずちゃんとラビリィが、超かわいい気持ちになれるような、最強かわいいソファを探します!」
    「ラビリィもてつだ……ううん、ラビリィも一緒に選ぶラビ!」
    「はいっ! 頑張りましょうね、ラビリィ!」
    「えいえいおーラビ!」
    「………あはは」
     無事に笑顔になった二人を見て、すずは密かに胸を撫で下ろした。二人の泣いている姿は、やっぱり心臓に悪い。先程、泣きそうな二人を前にして、寿命が縮むかと思った。
     そのとき、ラビリィがふよふよとすずの鼻の前にやってきた。
    「もちろん、すずちゃんも一緒に選ぶラビよ」
    「……! はは、そうだね。じゃあ早速、お店のカタログを調べよっか」
    「はいっ」

     部屋にパソコンを取りに行こうとして、ふとリビングをを振り返る。
     ソファとテーブルの間に足を崩して座るまりあは、すずが選んだマグカップで甘いココアを飲んでいる。その隣にいるラビリィは、まりあと二人でプレゼントしたマスコット用の小さなワンピースを着ていた。談笑する二人を囲む、個性がバラバラで、しかし不思議と統一感のある家具達。
     三人で作り上げた特別な空間は、あったかく、優しく、穏やかで、居心地が良くて。そして。
    「……幸せって感じ?」
     ついすずの口からは、誰に聞かせるわけでもないその言葉がぽつりと溢れた。
     ――この幸せが、これから先もずっとずっと続くように。すずが今のすずのお母さんと同じくらいの年になっても、おばあちゃんになっても、今と変わらない幸せのなかにいられるように。
     どこからか込み上げてきた願いを、祈りを、そして決意を、ぎゅっと抱きしめながら。すずは鼻歌を口ずさみ、リビングを後にした。
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