親愛のキスは建前なので(颯新) 暑さは人を狂わせるのかもしれない。絶えず続く猛暑で倒れる人がやまないというし、実際街中で救急車を見かけることが増えたけども……。
一定の温度に保たれている室内に居るはずの颯真が変だ。現にいつもより顔が赤い。
「遠い。ほら、もうちょっと」
彼は顔の横に手のひらを出し、骨張った指先を小さく揺らしながら俺を手招く。
普段は俺を引き寄せることすらかなわないくせに。汗だくで炎天下を歩いてきた俺を嘲笑うかのように声だけで俺を誘うんだ。まんまと従っている俺も大概なんだけど。
白いシーツの上に膝をついて乗り上げると、二人分の体重にスプリングが軋む。反動で俺の襟足から落ちた汗が首筋をつぅ、と流れていった。
「外、あっちいな」
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