無自覚恋心(颯新) 新の声はどこにいてもよく聞こえた。
爆音のライブ会場だって、人混みの中だって、なんと言っていたのか聞き返したことはない。一度、新本人に伝えたことがあったけど、彼はパックジュースのストローを口に含みながら首を捻った。
「颯真には負けるよ」
「どういう意味だ?」
つられてオレも頭の上にはてなマークを浮かべる。
「俺は隣のクラスまで聞こえるような大声は出せないってこと」
それはそれは大変失礼しました。授業中寝てて悪かったな。五限の世界史はキツイんだって。……まてよ。二組にも聞こえてたってことはもしかして、反対側の四組にも聞こえてた?
ったく、ニヤニヤしやがって。
新のからかいはいつものことなので、気にしたってしょうがない。オレはビニール袋からメロンパンを取り出して大口で食らいつく。反動でビスケット生地がほろりと零れ落ちた。
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