ふわふわの毛布は暖かいだけじゃなく肌触りも良くて、包まれていると最高に気持ちが良い。あっという間に眠りに落ちそうだと思った直後、毛布の中に冷たい手が入り込んできて俺はビクッと体を震わせた。遠のいてしまった眠気にイラつき目を開く。毛布の中に入り込んできたところだったレンは、俺と目が合うと「ごめん、起こしちゃった?」と小さく囁いた。
「寝そうだったのに……」
「ごめんね? でも一緒に寝た方があったかいだろ?」
「手、冷たい」
「おっと。洗い物したばっかだった、お風呂入る前にしちゃえばよかったな」
「……ん、来い」
「サンキュー」
その洗い物には俺の使った食器も含まれていただろう。風呂から出た後、ソファーで寝てしまいそうだった俺に先に寝室に行くように言って、レンは一人で全ての片付けをしたはずだった。眠くて動けなかったのは確かだけれど少しくらい手伝うべきだったんだ。その上暖かい布団から追い出すなんて、さすがに可哀想過ぎる。
俺がくるっと包まれるくらい大きい毛布も、レンが一緒だと全然大きいと思えない。そもそも二人で使う用ではないんだろう。俺がはみ出さないようにかければ反対側でレンは体を冷やすに決まってる。
「レン、まじで眠いから他意はないって理解しろよ」
「うん? なぁに、いいよ?」
「……ハグして」
「……う、わ」
「じゃないとおまえが布団からはみ出すから、仕方なくだよ、聞いてるか? 他意はない、ガチで、俺の優しさ。オーケー?」
「……」
「レン、返事」
「うう……ずるいよキョウ……」
俺の言葉を理解してるのかしてないのか、レンは俺のことをぎゅうっとキツく抱きしめてグリグリと額を擦り寄らせた。狭いしうるさいし寝心地は最悪だけど、もしかしたら毛布よりあったかいかも。
再びやってきた眠気に身を任せて、目の前のデカすぎる抱き枕をぎゅっと抱きしめた。毛布の中の、レンの腕の中。人の体温ってこんなに気持ちいいんだなと体感しながら目を閉じて深呼吸をする。冬の間はレンのこと抱き枕役にしてやってもいいかな。
「……キョウ、もう寝ちゃった?」
耳元で囁かれた低い声に意識が引っ張られる。声を出すのは億劫でわずかに腕に力を込めれば、レンは俺が起きていることを察したらしく大きな掌で俺の背中を優しく撫でた。赤ちゃんじゃねえぞと思うけれど、その行為自体は不快ではない。俺が抱きしめているのが抱き枕ではなくレン・ゾットだと思い出させるのはやめてほしいけれど。
「……れん」
「ん?」
「それ、やだ」
「……眠れない?」
「動くな、俺の抱き枕になってろ」
「ふ。でも、俺はキョウの恋人だからなぁ」
抱き枕が勝手に動いて、背中を撫でていた手が下の方に下りていく。スウェットの中に手が忍び込んだかと思うと背中を晒すように裾が捲り上げられた。毛布の柔らかい感触が背中に直接触れてゾクッとする。
「っばかレン!」
「だってキョウが」
「ンだよ! 俺は眠いんだって!」
「キョウがハグしてくれたのに、そのまま寝られるわけない」
「じゃあ布団から出てけ! おまえが俺の貴重な優しさを無駄にしたいなら!」
「キョウはいつでも優しいよ。最後までしないから、ちょっとだけ、キョウに触りたい」
「……っ、おれ、まじで眠いんだって……」
「ん、だからキョウは寝てていいよ。大丈夫、俺寝てる相手に手出す趣味はないから」
「キモい黙ってろ変態。……明日でいいだろ」
「明日?」
「……一人だけ楽しむなんて卑怯だ」
「……つまり、キョウもセックスしたいの?」
「……言ってない」
言ってないって言ってんのに、レンはムカつくくらい嬉しそうに顔をニヤけさせて俺の頬にキスをした。そこで唇にしないのはどういうつもりなわけ? イライラしたからレンの胸に頭突きをして、わざとらしく「うっ」と呻き近づいた顔に噛み付くようにキスをした。
目を丸くしてるバカみたいな間抜けヅラは面白いから好きだ。俺が唯一好きなレンの顔だな、嘘だけど。
「……眠いんでしょう?」
「ああ、もう寝る」
「ひどい……人のこと聖人だとでも思ってる? 俺はキョウのこと大好きなただの男なんだけど」
「へえ。おやすみ」
「もういっかい」
「なに?」
「……キスしたい」
「……すれば?」
「いいの?」
「じゃあダメ」
「キョウ!」
「っふ」
忘れてた、俺の言うことにいちいち振り回されてする困った顔も、面白いからすげー好きだったわ。