痛みを感じるくらいの寒さの中、もう何度も通っている道を無言で歩き一軒の家の前で立ち止まった。インターホンを押すより先に扉の向こうから犬の鳴き声が聞こえ、俺は一瞬動きを止めた。少し悩んで、一応インターホンを押してみる。ブザーの音が聞こえてすぐに扉が開き明るく温かい光が俺を照らした。
「いらっしゃい、浮奇。寒かっただろう」
「……さ、さむかったぁ……」
ぬくぬくと暖かそうなセーターを着るふーふーちゃんにぎゅうっと抱きついた。俺の上着も肌も冷たくてきっと彼を冷やしてしまうから、我慢しなきゃなのに、こんなに気持ちのいい温もりから手を離せるわけがない。
「ごめんね……」
「うん? 何がだ? 寒い中来てくれてありがとう」
「んん……俺が来たかっただけだもん」
「俺も会いたかったよ」
ぽんぽんと優しく頭や背中を撫でられて体の中がぽかぽか温かくなる。甘えて額を彼に擦り寄せればふーふーちゃんはやわらかい笑い声を降らした。
「中に入って温まろう、浮奇。コーヒーを淹れるよ」
「ん……だいすき……」
「……冬はいいな」
「うん……? 寒いの好きだっけ?」
「そうじゃなくて、……浮奇がくっついてきてくれるから」
「……だとしたらそれはこっちのセリフなんだけど。寒いって言えばふーふーちゃんが抱きしめてくれるから、大袈裟に寒がってるだけかもしれないよ?」
「ふっ。二人して抱きしめたいのなら、寒いなんて言い訳もいらないな?」
「一年中いつでもくっついていいからね。でも、今日はマジで寒いから、もっとぎゅってして」
「ああ、もちろん」
ふーふーちゃんは軽々と俺のことを持ち上げて、家の中へと進んだ。暖房がついているのか部屋の中は十分に暖かい。だけど、ほら、外は今年いちばんの冷え込みでいつもよりうんと寒いし、やっぱりもっとくっついていないとだよね? まだ冷たい唇も、ふーふーちゃんに温めてもらわないと。