朝ごはんの用意をするためにキッチンに立っていると、おはよぉ、とまだ眠そうな声が後ろから聞こえた。振り向こうとした私に、ぽすんとぶつかるようにくっついてきた浮奇がスルッとおなかに手を回す。私は笑いながらその手に触れ、首を後ろに傾けてふわふわの髪を撫でるように頭をくっつけた。
「ふふ、おはよう浮奇」
「んん……」
「まだ眠たい? コーヒー入れよっか」
「んぅ……ありがと……」
「このままくっついてる? それとも顔洗ってくる?」
「かおあらう……」
うにゃうにゃとそう言った浮奇は、だけど私に抱きついたままここから動きそうになかった。浮奇は頭の回転が早くていつも楽しそうに私のことを翻弄するけれど、寝起きだと全然脳が動かなくて難しいこと考えられないんだよねと言っていた。それなのに起きてすぐ私のところまで来ておはようと言って抱きついてくるんだから可愛くて仕方ない。
「浮奇ー? おはようのハグしたいから一回手を離してくれる?」
「はぐ……」
「うん、はい、ばんざーいってしてみて?」
「んんー……?」
ばんざい……?と疑問符のついた言葉を呟きながら、浮奇は私の言う通りに手を広げて上げてみせた。くるりと後ろを向いて脇の下に腕を入れ、ぎゅうっとその体を抱き寄せる。ぱちぱちとゆっくり瞬きをした後、浮奇はへへっと嬉しそうに笑って私の首に手を回した。
「おはよう、スハ」
「ん、おはよう浮奇。ちょっと目が覚めてきた?」
「んー、……おはようのキスをしてくれたらもっと目が覚めそうかも」
「キスで目覚めるお姫様だね」
私は焦らすことなく浮奇の唇にちゅっとキスをして、夜を思わせる美しい瞳を至近距離から覗き込んだ。私だけを見つめる浮奇が、とろけた声で「もういっかい」と囁く。少し尖らせるだけでくっつく唇を二度三度と甘く重ねて、浮奇が目を閉じたのを合図に舌を伸ばした。
朝にしては濃厚なキスを楽しんでから、私たちはそっと目を開けて視線を絡ませた。ふふっと笑い声が混じり合うのすら気持ちいい。
「コーヒー、後でにしよっか?」
「うん、まだ起きる時間じゃなかったから」
「抱き上げて連れて行ってもいい?」
「重いよ」
「重いわけないでしょ。俺のお姫様なんだから」
「……じゃあ、お姫様抱っこで連れて行ってくれる?」
「ははあ、ありがたき幸せ。……えへへ、なんてね。絶対に落とさないけど、ちゃんと掴まっててね」
「へへ、はぁい」
おはようのキスはすっかり浮奇の目を覚ましたようだけど、うっかりしてた、まだ私たちは起きる時間じゃなかったみたい。もう一回ベッドに戻らなきゃ。横抱きにした浮奇は私の頬にキスを落とし、「俺だけの王子様だ」と満足げに微笑んだ。