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    おもち

    気が向いた時に書いたり書かなかったり。更新少なめです。かぷごとにまとめてるだけのぷらいべったー→https://privatter.net/u/mckpog

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    おもち

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    PsyBorg。料理人パロの3つ目。引き続き料理はしてません🤔まだ続きます。
    次(4つ目)→https://poipiku.com/5487879/8704722.html

    ひとつめ→https://poipiku.com/5487879/8623090.html

    #PsyBorg

    五時ピッタリにキッチンを出て俺はすぐに更衣室へ向かった。スマホを視界に入る場所に置いて素早く着替え、ロッカーの中に置いているメイクボックスを取り出す。もしかしたらすぐに電話が来ちゃうかもと思って急いでメイクを直したのに、十分経っても二十分経ってもスマホはうんともすんとも言わなかった。
    嘘でしょ、まさか電話してこないなんてことある? 絶対に悪く思われてはいないはずだ。もしかしたら、あのショップカードを家に置いて来ちゃって急いで取りに戻ってるとか、何か電話できない事情が、……それとも、デザートがおいしくなかったかな。自信を持って出してるし俺は自分の作るものが好きだけど、でも、彼も料理をする人だ。あのレストランで働いてるくらいだし舌は肥えているだろう。
    不安な気持ちが胸にもやもやと広がって、俺は一人きりの更衣室で大きくため息を吐いた。まだ期待を捨てきれないからこのまま真っ直ぐ帰ることはしたくない。どこかそこらへんで寄り道をして……なんて、諦めが悪すぎるかな。きっとあの人とは縁がなかったと思って頭を切り替えたほうがいい。料理ができてお酒に詳しくてイケメンで声も良くて笑顔が可愛くて、好きだって、そう思ったけど、俺の人生がそう簡単にいくとも思ってない。
    バッグを持って立ち上がり店を出た俺は駅に向かって歩き出した。今日はおいしいものを買って帰ろう。一人だって良い夜にしてやるんだから。角を曲がって、信号を待つ間に取り出したスマホでSNSを開く。友人たちの投稿に機械のようにいいねをつけている最中にパッと画面が切り替わり、俺の指は表示された応答のボタンを意識せずに押してしまった。再び画面が切り替わり、通話中の文字を見て俺は慌ててスマホを耳に当てる。
    「はい、もしもし?」
    『……もしもし、えっと……』
    「っ、……ファルガーさん……?」
    聞き覚えのある声に心臓が跳ね、俺は絞り出すように彼の名前を呼んだ。青に変わった信号の前で止まったままの俺を数人が追い越して行く。
    『あ、ああ、ファルガーだ。連絡が遅くなってすまない。その、本を読んでいたらいつのまにかこんな時間になっていて』
    「……もう、連絡くれないのかと思った」
    溢れた声は泣きそうな本心をそのまま曝け出してしまっていて、俺はすぐに「今どこにいるんですか?」と言葉を重ねた。大丈夫、電話越しだったし彼にはバレていないはずだ。
    『ええと、ここは……』
    彼はちょっと待ってくれと言い、電話越しにゴソゴソと物音がした後「ありがとうございました」と可愛らしい女の子の声が聞こえた。どうやらどこか店の中にいたらしい。何か看板でも見つけたのかここからそう遠くない場所の名前を教えてくれた彼に、俺はすぐにそのあたりのおいしいレストランを思い出して店の名前を口にした。もし迷いそうなら一回駅で待ち合わせようかと提案したけれど店の前で大丈夫だと言われ、俺は口元に笑みを浮かべる。
    「わかった。じゃあまた後で」
    『ああ、また後で』
    電話を切ってから、俺はギュッと拳を握り一人で小さく歓声を上げた。ねえ、まさか、こんな夢みたいなことある? 本当に彼が電話をかけてきてくれて、一緒にディナーを食べられるなんて! 早く行かないと彼を待たせちゃうかもと思ったけれど、心配しなくても俺の足は駆け出すように前へ前へと勝手に動いてくれる。汗をかきたくないし息が荒いのも嫌だから、もっとゆっくり歩いてって思ってしまうほど。
    心の準備ができる前に指定したレストランの通りに着いてしまった俺は、大きく深呼吸をして息を整え、手鏡でリップを直してから綺麗に見える歩き方を意識してレストランの前へ向かった。目を凝らすとそこに立っている人影が見えて、やっぱり歩調が速くなってしまう。もう、もっと余裕がある感じがいいんだから、焦らないでよ。
    あと少しのところでその人は俺の足音が聞こえたみたいに俯いていた顔を上げてこちらを振り向き、目が合うとホッと表情を緩めた。走るな、なんて俺の頭の命令は、早く彼のところに、っていう心の命令に勝てずに、俺は彼に駆け寄ってしまう。目を丸くした彼は勢い余ってぶつかりそうになった俺をきちんと抱き止めてくれた。優しく香った香水の匂いまで、全てが俺好みの人。
    「大丈夫か?」
    「えへへ……ふふ、ごめんなさい、ちょっとテンション上がっちゃって」
    「……どうして、俺なんか」
    「ん?」
    「……なんでもない。良ければこのまま、お手をどうぞ」
    「……ありがとう。あ、ねえ、もし混んでたら少し待たなきゃいけないかもしれないんだけど」
    「大丈夫、もう席を取っておいてもらったよ」
    「わお……」
    「俺が先に着ける場所を選んでくれてありがとう。キミにかっこつけられて良かった」
    「……名前で呼んでくれたら、もっとかっこいい」
    たった一度伝えただけの名前を覚えていてくれているとは限らないから、浮奇って呼んで、と続けようとしたけれど、彼は俺より先に口を開いて「それじゃあ」と口角を上げた。
    「俺のこともファルガーと呼んでくれ、浮奇」
    「……うん、そうするね、ファルガー」
    見つめ合って数秒、俺たちは同時に吹き出してくすくすと笑い声を交わし、手を繋いでレストランの中へ入った。何回も来ているレストランなのに、今までで一番、最高の店に見えた。
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