ラーハルトとヒュンケルは、ごく庶民的な生活をしている夫婦であった。一般的な会社の、ごく普通のサラリーマンとして同僚になり、そこらの冠婚葬祭のチェーン店で二人だけの簡単な結婚式をした。
そして同居から一年が経とうとしている今、ようやく気付いた。
「結婚して初めて分かったが、おまえは夏になると食欲が落ちるようだ」
稼ぎの良い伴侶に大黒柱を任せて、台所を取り仕切っているのはヒュンケルである。日々の献立づくりは主たる仕事だ。些細な体調の変化とはいえ見逃していたのは不覚だった。というわけで口当たりがよくて消化のしやすい、精の付く物をたくさん用意することにした。
「今後も夏バテ対策のメニューを考えていく。これでおまえの体調が改善すればいいんだが……」
「ああ、うむ……ありがとう」
帰宅後、ネクタイを緩めてから席に着いたラーハルトは申し訳なさそうに礼を述べてから、頂きますと手を合わせた。
遠慮しなくて良いのに変なところで殊勝なヤツだ、とヒュンケルは身を乗り出して、腕に撚りを掛けて作った豚しゃぶサラダ麺にガーリックキムチを乗せるのであった。
ラーハルトには、それらを食べないという選択肢はなかった。心づくしの料理は大変に美味かった。
しかしあれからというもの、朝からきっちりスタミナ料理を振る舞われているラーハルトは、何日目かの今夜になっていよいよ打ち明けねばならなかった。何故かというと、体調が万全すぎるのだ。それはもう、ツラいほどに万全だった。
「ヒュンケル。実はオレは夏バテをしたことがない」
湯上がりのバスローブを緩く前で合わせたラーハルトは、言いながらダブルベッドに近付いた。
「……? だが明らかに春より食う量が減っていたよな?」
「それはセーブをしていたのだ」
奇っ怪な事を聞いたとばかりに、先に風呂を出てパジャマでシーツの上に座り込んでいたヒュンケルが首を傾げる。
「太っていないだろう? なぜそんなことを?」
「それが言いづらいから黙っていたんだがな」
「うん?」
「夏は異様に燃えるんだ」
ラーハルトがベッドの縁に片膝を掛けると、ゆったりと纏っていたバスローブの前がはだけ、いきなり最高潮になっている質量が覗けた。
「も、燃えすぎでは……」
触る前からギンギンで汁を流している様は、イイ年をして若い学生レベルである。さすがのヒュンケルも引いて言葉を濁したが、ラーハルトは当然の権利とばかりにバスローブを脱ぎ捨てた。
「明日は待ちに待った休日だ。家事は手伝うから安心してつぶされろ」
ヒュンケルが毎日せっせと栄養を蓄えさせた結果は、ラーハルトのそこでパンパンに実っている。まさに自らまいた種である。観念してしっかり責任を取らざるを得ない。
「結婚して初めて分かったが、おまえはかなりのスケベらしい」
ヒュンケルはせめてもの捨て台詞を吐いたが、ラーハルトは満面の笑みで肯定してヒュンケルを枕のほうへ押し倒した。
2023.08.08. 30+10+10=通算50分 SKR